一晩中踊り明かそう
――或いは、ささやかなカーテンコール
夜も更けて、中庭のパーティーはようやく落ち着いてきた。まだ飲み足りないというメンバーは、場所を談話室に移して引き続き酒盛りを続けているだろう。久しぶりに寮へ泊まるということで、すでに部屋に戻ってゆっくりしているメンバーもいる。それぞれが、自分たちのペースでこの夜を楽しんでいる。
本日の主役である天馬と一成は、会場で出来上がった様々なグループから呼ばれて、何度も祝杯を交わすことになった。二人そろってのこともあれば、個々で声を掛けられることもある。もちろん、みんなと酒を酌み交わすことは大歓迎だったから、喜んで参加していたのだけれど。
飲み過ぎれば明日に響くし、この夜をきちんと覚えておきたいから記憶を飛ばしたくはない。だからセーブしながらたしなんでいたし、ある程度のところで酔いを覚ますため席を離れるのは自然な流れだった。
そういうわけで会場を抜け出した時、ちょうど二人は顔を合わせたのだ。お互い別々のテーブルにいたはずなのに、抜け出すタイミングが同じだという事実に思わず笑ってしまったのは仕方ない。奇妙な符号がおかしかったし、見えないつながりがあるようで何だか無性に嬉しかった。
弾んだ気持ちのまま、二人はMANKAI寮のバルコニーへ向かった。主役がいなくてもパーティーの参加者はそれぞれ自在に盛り上がる。少しくらい抜けたところで、問題ないことはわかっていた。
「めちゃくちゃ楽しかった~!」
バルコニーに出た一成は、大きく伸びをしてそう言う。パーティーではタキシードではなく、別のスーツに着替えていた。「お色直しも必要でしょ」という幸の言葉によるもので、それぞれオレンジや明るい緑を基調としたスーツを着用している。
「準備してる時からわくわくしてたけど、いざ始まったらほんと一分一秒全部楽しいじゃん!?」
目をきらきら輝かせて、大きな口を開けて、心底楽しそうな様子に天馬の唇は自然とほころんだ。一成が笑っているだけで天馬の胸は弾むし、何より天馬だって一成と同じ気持ちなのだ。
アルコールはセーブしているから、お互いそこまで酔っているわけではない。ただ、この夜そのものが特別で、何もかもが輝いている。酔いしれるようにふわふわとした気持ちで満たされていく。
「そうだな。夏組のあいつらも、参加してくれたみんなも楽しんでくれたみたいだし――想像してたものより、もっと最高の結婚式だった」
「ね。式の最後、クラッカーとフラワーシャワーやってくれたのも嬉しかったな~」
「考えてみれば、確かにあれくらいやりそうではあるが」
MANKAI寮ではしょっちゅう、様々なイベントが催されていたのだ。一成はもちろんとして、それ以外のメンバーも何だかんだで楽しんでいたし、サプライズだってよく起こっていた。結婚式でゲスト側から何かがあっても、確かにおかしくはない。
「花びらと紙ふぶきは記念にもらってきたから、結婚証明書と一緒に飾ろうねん!」
ぴかぴかと明るい笑顔で告げられた言葉に、天馬もおおらかに笑ってうなずく。二人が頭に浮かべているのは、リビングルームの光景だ。
南側に大きな窓があり、シーリングファンが設置される高い天井を持つ、広々とした部屋。ナチュラルブラウンのフローリングには、季節によってラグやカーペットが敷かれるし、天馬の自宅から持ってきたソファや一成愛用のダイニングテーブルなどが置かれている。すっきりした白い壁には、歴代夏組公演のポスターが飾られて、いつでも二人の目を楽しませていた。
さらに、リビングボードにはいくつものフォトフレームが置かれていて、夏組を中心としたMANKAIカンパニーの写真がにぎやかに並んでいる。定期的に二人して「次はどの写真にしよっか!」と入れ替えている。
結婚証明書はこのリビングボードに飾るつもりだったし、その際にはフラワーシャワーの花びらとコンフェッティシャワーの紙ふぶきも一緒に並べるのだ、と一成は言う。いつだって、今日という日を思い出せるように。一つだって忘れはしないけれど、二人の未来を見守るものはいつでも見られる場所に置いておきたかった。
「今日の写真もいろいろ飾るんだろ。フォトフレーム増やしてもいいし、選ぶのが楽しみだな」
「だよねん。毎日さ、一個一個思い出が増えていくし――大切なものがどんどん増えてくね」
目を細めて、やわらかく言った一成はそっと左手を掲げた。薬指に輝く、銀色の光。二人で同じ未来を見るのだと、共に歩いていくのだという誓いだ。他の誰でもない天馬も、同じようにこの場所に指輪をしている。その事実が嬉しくて、胸には喜びが満ちていく。
だってこれは、何一つ当たり前じゃなかった。手放すはずだった手をつかんで、これから先を行くと決めた。一緒に歩いていくことは、なくなってしまうはずの未来だった。だけれど今、二人は同じ約束を掲げている。同じ指輪をして、二人並んで立っているのだ。
天馬は一成の仕草に笑みを浮かべると、同じように左手を掲げて隣に並べた。形の違う手には、同じ輝きの、同じ形をした指輪が光っている。これから先も二人は一緒なのだと、確かなつながりが目に見えるようだ。天馬と一成は目を合わせて、はにかむように軽やかに笑った。
「久しぶりにあのお店行けてよかったねん」
手を下ろしたあと、一成はそっと天馬に身を寄せる。隣同士でくっついて、自然と手をつなぎあいながら、しみじみした口調で言うのは指輪を作りに行った時のことだ。
「やっぱり結婚指輪もあの店で作りたかったからな」
一成の言葉に、天馬も落ち着いた声で答える。二人が思い出しているのは、天鵞絨町にあるなじみのアクセサリーショップだ。
プロポーズのため、天馬がオーダーメイドで指輪を作った店。二人がデートをしている最中に見掛けて、たびたび訪れるようになった。今ではずいぶんいろいろなところで店の名前を見聞きするようになり、繁盛していることは知っていた。なかなか予約が取れないのではないかと危惧したものの、無事にオーダーメイドリングの予約を取ることに成功して、二人で店を訪れた。
「結婚指輪作りたいって言っても、全然驚いてなかったのも嬉しかったんだよねん。もともと、あんまり顔に出ないっぽいけど!」
「まあ、男同士だとか芸能人だとかはそこまで重要じゃないんじゃないか。まったく気にしないわけではなくても、どんな指輪かどうかの方を気にしてそうだ」
「そゆとこ、めっちゃ職人さんっぽくてかっこいいよね~」
一成は店主とたびたび、デザイン談議から制作過程について話し込むことがあった。だから、彼女がただ黙々と物作りに打ち込み続けてきたことを知っている。年月を重ねて技術にはいっそう磨きがかかり、各方面で名前を聞くようになったのもそのあらわれだろう。
「守秘義務には細心の注意を払ってるって、あらためて言われるのはありがたかったな。ただ、オレの一件が契機になってたら申し訳ない気はする……」
「Web活動多いのは間違ってないし、厳重にして悪いことはないっしょ!」
遠い目をした天馬を、一成は軽やかに元気づける。
天馬が思い出しているのは、プロポーズのためのオーダーリングを制作していることをマスコミに嗅ぎ付けられ、一大スキャンダルになった一件のことだ。最終的に夏組全員を巻き込んで、新作公演のゲリラ告知という体で駆け抜けたものの、一歩間違えれば取り返しのつかない事態になっていた。
店から情報が漏れたわけではないものの、店主が何かと気にしてくれていたことは知っている。だからこその厳重な守秘義務の確認だったのかもしれない、と天馬は思っていた。とはいえ、昨今の時勢と商売柄、守秘義務を強化することは必然的な流れと言えるだろう。だから天馬が気に病む必要はないと一成は言うし、天馬も「それはそうだな」と思い直した。
「ヒアリングもいろいろしてもらってさ。絶対最高の指輪になると思ったけど――オレもデザインできたの嬉しかった!」
きらきらした表情で言う通り、今回の結婚指輪は一成がデザインを手掛けている。店主は「希望の形やデザインは?」「素材や石に希望は?」「普段使いされますか?」など詳細なヒアリングを行った。その過程で、「三好さんもデザイン画作成されますか?」と尋ねたのだ。
店主は一成の職業を知っている。役者や日本画家としてだけではなく、デザイナーとしても活躍しているのだ。だからこその言葉とはいえ、一成の専門は立体ではない。プロから見れば心もとないのでは、と思って「いいの?」と尋ねると、店主はあっさり「お二人のための、お二人だけの指輪ですから」と答えたのだ。
天馬だって、一成が指輪のデザインに興味津々であることはわかっていた。だから「やってみたいんだろ?」と尋ねると、一成は大きくうなずいた。そういうわけで、一成はデザインを持参して話し合いに参加するようになり、三者をまじえながら二人だけの指輪は完成したのだ。
「デザイン成立させるにはどういう素材がいいかとか、どう加工すればいいかとか、そういうのはプロじゃないとわかんないかんね~。でも、デザインが形になってくの見られてめっちゃわくわくしたな」
「ああ、そうだな。オレもやっぱり、一成のデザインだからいっそう『オレたちの指輪だ』って思えて嬉しかった」
一成の言葉に、天馬も心からうなずく。平面上でのデザインが完成しても、いざ実物として制作するとなれば一筋縄では行かない。店主は一つずつをクリアしながら、一成のデザインを指輪に反映させていった。そうして出来上がった指輪は、より強く特別な意味を持つように思えたのだ。
「結婚指輪だからシンプルだし、そんなに派手なデザインじゃないんだけどさ。二つで一つの指輪にしたかったんだよねん」
二人の左手に光るのは、装飾のほとんどない指輪だ。丸みを帯びたストレートアームに、素材はプラチナで、幅も至ってオーソドックス。ただ、表面に施されたカービングがライン状の飾りになっていた。
このラインは、一つでも映えるよう流麗にデザインされている。ただ、二つがそろうと別の意味を持つ。天馬と一成。二人が身につける指輪をそろえると、刻まれた線が一本になり、二つがつながるデザインになっていた。
別々の道を辿った二人が、いくつもの偶然を重ねてMANKAIカンパニーで出会った。特別な時間を重ねるうちに、互いを人生におけるたった一人だと認め合った。だからこそ、共に未来を生きると誓ったのだ。二つの人生は交じり合って、今ここから一つになっていく。その気持ちを込めて、一成は指輪をデザインした。
「出来上がるのめっちゃ楽しみだった!」
「引き取りに行くだけで騒いでたもんな」
ぴかぴかした明るい笑顔に、天馬も面白そうに答える。一成は「当然っしょ!」と屈託がないし、天馬だって同じ気持ちだった。
スケジュールを調整して、二人そろって指輪を取りに行った。周囲には気を配っていたから、尾行されていないことは確認済みだ。今度はゴシップ誌に追い回されることもなく、無事に受け取り自宅へと持って帰ってきた。
わくわくしながら開封して、幸が作ったリングケースにそっと納めれば一成のテンションは最高潮に達していた。スマートフォンで連写するのはもちろん、ムービーも撮影するし、あらゆる角度から写真撮影に励んでいた。もっとも天馬は、一成が嬉しいなら自分も嬉しいし、そもそも指輪の完成を喜びたい気持ちは同じだったので、笑顔で全てを見守っていた。
「ヤマモモと一緒に撮った写真とか、かなり良かったよな。光がいい具合に入ってて」
「あ、あれオレもお気に入りなんだよねん。太陽光ってやっぱいいな~っていうものあるし、ヤマモモは葉っぱがいい感じに光の調整してくれるっていうか」
嬉々として一成が答えると、天馬が大きくうなずいた。
指輪を受け取って以降、一成はあれこれ写真やムービーを撮影しては、逐一天馬に見せている。そのたび天馬は「これがいい」だとか「こっちのは面白いな」だとか感想を口にしてくれていた。二人そろって、写真を見ながらささやかな話をする。何でもない時間も、天馬と一成にとっては大切な瞬間だった。
一日一日、結婚式の準備が整っていく。部屋には関係したものが増えるし、一成は当日までのカウントダウンカレンダーを作って日付を数えていく。呼応するように一成は毎日、幸の作ったリングケースをお供に家中で写真を撮っていた。ケースや指輪に変化があるわけではないのだから、無意味だと言うこともできたけれど。
一日ずつ、一歩ずつ、指折り数えて当日を待つ気持ちは天馬だって一緒だ。だから時には一緒に写真に写ったり撮ってやったりして、当日までの思い出を二人で増やしていった。一成は集めた写真で嬉しそうにアルバム制作を始めていたし、天馬も一日ずつを記念するように毎日一成へ花を贈るようになった。
そんな風に、心待ちにしていたのが今日だった。
「ほんとにさ。楽しくって、ずっと笑顔で、最高の一日だったよねん」
「ああ。みんながそろってくれて、夏組一丸になってオレたちの結婚式ができて、本当に嬉しかった」
寄り添った二人は、見慣れた街並みを眺めながら言葉を交わす。今日の結婚式。即興劇ではどんなアドリブが飛び出すかとわくわくしたし、心からの祝福を届けてくれることが嬉しくて仕方なかった。
「てか、テンテン音楽聞いてるな~と思ったら、オレのラジオってマジ?」
「お前こそ、オレの横顔シリーズってなんだよ……。しかも三冊目なのかよ」
そういえば、という顔で一成が言ったのは、椋のアドリブでもたらされた情報だ。天馬も思い出したように続く。
事前に椋からは、二人にまつわるエピソードを披露してもいいかと聞かれてうなずいたから、天馬も一成もどこかで出てくるのだろうとは思っていたけれど。
まさか、お互いに関する知らない話を聞くことになるとは思っていなかった。一成は素でうろたえたし、舞台袖で聞いていた天馬も反応してしまった。だってそれは、どれほどまでに自分を大事にしてくれるかという話に他ならないのだから。
天馬は一成の言葉に「何回も聞きたいんだから仕方ないだろ」と言うし、一成も「ちなみに背中シリーズとか寝顔シリーズもあるよん」と答えた。堂々と知らされた新事実に、二人は数秒黙ってから、声を合わせて笑った。
「テンテン、オレのこと大好きじゃね?」
「大好きに決まってるだろ。一成だって、オレのことどれだけ好きなんだ」
「大大大好き!」
力強い宣言に、天馬は「そうだな、知ってる」と答える。一成も嬉しそうに「うん。オレもいっぱい知ってる」と返した。それからさらに、「ずっとずっと、知ってるよ」と続けた。
お互いのことが大好きだという気持ちを抱えて、ずっとここまで歩いてきた、のだと思う。同時に二人は唇を結んで、沈黙が流れる。ただそれは、決してマイナスなものではない。今日までの全てを噛みしめているだけだとわかっていた。
カンパニーで出会って、友達になって夏組としてつながりを深めて、恋人同士になった。特別な相手として時間を重ねて、途中で別れを挟んで再び恋人の関係を結んだ。プロポーズして断られて一成が逃げ出して、それでもお互いの手を取って歩いていくことを選んだからここにいる。
決して短い時間ではなかった。これまで二人で重ねてきたもの、つないできたもの、分かち合ってきたもの。それら全ての集大成として、きっと今日という日がある。
「長かったな」
「長かったね」
しみじみした調子で天馬がつぶやくと、一成も同じ響きで答えた。出会いは天馬が高校生、一成が大学生の頃。思えばその時から、ずいぶん遠い位置に立っている。出会ってから十年以上経って、天馬も一成も世界中を飛び回って活躍するようになった。あの頃思い描いていた未来が叶えられるような、長い時間が経っているのは事実だ。
しかし、すぐに一成は言葉を重ねた。楽しそうに、嬉しそうに。くすぐったそうに喜びをたたえて。
「でも、これからの方がもっと長いよ」
きゅっと目を細めて、弾むような声で紡がれた言葉。天馬は一瞬大きく目をまたたかせたものの、すぐに力強い笑みで答えた。一成の言葉の意味なんて、よくわかっている。
「そうだな。これから先、ずっと一成といるんだ」
今日までの年月の確かさを思う。しかし、それよりもっと長く一緒にいるのだと誓ったのだ。これから先、人生が終わるその瞬間まで隣にいる。十年よりもっと長く、これからの人生の全てで寄り添っていくと決めたのだ。
カンパニーに入った時は予想もしていなかった未来は、こんなにも幸福にあふれているのだと、二人ともただ真っ直ぐ思っている。
天馬も一成も、第一印象はあまり良くない。天馬は一成の軽さに眉をひそめたし、一成は天馬の言動の強さに怯んでいた。同じ組に所属するとしても、とうてい仲良くなれるなんて思えなかった。
しかし、同じ時間を過ごすにつれて互いの本質を知っていく。天馬は一成の本音を初めて受け取ってくれたし、一成は天馬のことを友達だと言って新しい世界に連れ出してくれた。そして、夏組で最高の舞台を迎えたのだ。大切で特別な、夏組の仲間で友達となるのは当然だった。もっとも、大切な友達であって、一生の伴侶になるなんて思ってはいなかったのだけれど。
いつしか、その気持ちに別の感情が芽生えるようになり、二人は恋人同士になった。ただ、決して一筋縄では行かず、一度は別れを選びもした。再び恋人になっても一成はプロポーズに首を振り、天馬の前から逃げ出した。それでも今、二人は手を取り合って未来を歩くと誓っている。
何もかも、想像していた未来ではなかった。頭に浮かんでさえもいなかった景色を、何度だって見てきた。それら全ては、何よりもまばゆく輝く。だからこそ、二人は心から思っている。これから先、予想もしていない最高の未来が、自分たちには広がっているのだ。
苦しい時も辛い時もあるだろう。相手を傷つけることも、傷つけられることもきっとある。何もかもが順風満帆には行かないだろう。怖くて立ちすくんでしまう日も、胸が塞がって苦しくなる日も訪れるだろう。それでも、お互いの手を取ると決めた。何があっても手を離さないと決めた。二人が一緒にいれば、お互い離れずにいれば、二人の未来はきっといつだって明るい。
そんな予感に胸がいっぱいになって、心が躍って仕方ない。隣にいる大切な人も、同じ気持ちでいることを二人は疑わない。何を思っているかなんて、どんな気持ちでいるかなんて、言葉にしなくたってわかる。
待ちに待った今日という日。大事な人たちが結婚を祝ってくれた。どの瞬間を切り取っても笑顔であふれていて、夜が更けても終わりはしない。今日という日は、ずっとずっと笑顔と幸いにあふれている。
なんてすてきな一日だろう。今この瞬間、世界で一番、宇宙で一番幸せなのは自分たちなんじゃないかなんて、本気で思っている。
満たされる気持ちと高揚感で、自然と笑みが浮かんだ。そっと隣へ視線を向ければ、同じ笑みが返ってくるので、天馬と一成は顔を見合わせてから声を立てて笑った。軽やかな響きが夜空に上って、星と重なって溶けていく。
「――そろそろ戻るか」
「そだねん」
一通り笑ってから、天馬が促せば一成がうなずく。そろそろ誰かが主役不在に気づいて探しているかもしれないし、落ち着いたとはいえパーティーが終わったわけではない。まだこの夜を楽しみたい、という気持ちにくわえて、理由はもう一つ。
バルコニーの扉を開いて、MANKAI寮の中へ入る。壁によって外とは隔てられているから、人目を気にする必要はない。理解している二人は、廊下に立って向かい合った。
手を伸ばせばすぐに触れられる距離。真っ直ぐお互いの目を見つめる。きらきらとした輝きが、宝石のようなきらめきが、目の前で弾けている。誰かの笑い声が聞こえてくるけれど、それもどこか遠い。魅入られたように、ただ美しい瞳を見つめている。
「一成」
そっと名前を呼ぶと、天馬が一成の頬に触れる。行動の意味なら、わかっていた。一成は笑みをこぼすと、楽しげに言う。
「外だとちゅーできないかんね」
ころころと笑いながら告げられた言葉。天馬も笑みを浮かべると、「そうだな」とうなずいて手のひらで頬を包み込む。やわらかな温もりを感じながら、一成がまぶたを閉じた。天馬がゆっくり距離を詰める。
全ての愛おしさをこの瞬間に込めるように、二人の唇が重なった。
END