うつくしい日に
【一成の父親視点】
一成との待ち合わせは、「Bar Journey」だった。MANKAIカンパニーの一員であるガイさんが経営している店だ。一成に連れられて何度か訪れたこともある。雰囲気が良く、料理もお酒もとても美味しい店で、そう告げれば一成は嬉しそうに笑っていた。
「パピー、今日はちょっと特別な場所用意してもらっちゃったよん!」
店の前で落ち合い、中へ入ると同時に一成はそう言った。明るい調子でカウンターにいるガイさんに声を掛けると、こくりとうなずいてフロアのほうへ出てきてくれた。先導するようにして連れて来られたのは、店の奥にある個室だった。
「Bar Journey」は基本的に、バーカウンターとテーブル席で構成されている。ただ、改装の際に個室が作られた、ということは聞いていた。特別な時に利用できるよう、プライベートを重視した部屋だという。
予約制ということなので、一成が事前に予約していたのだろう。仕事柄、人目を気にする必要もあるし、そういったことに対する配慮なのかもしれない。
案内された部屋は、小さいながら高級感にあふれている。ソファやテーブルにはザフラの装飾が施されていて、異国情緒が漂っていた。
一成がガイさんに向かって、嬉しそうにお礼を言っているので、私も頭を下げる。
「俺のほうこそ、三好にはいつも世話になっている。劇団でももちろんそうだし、店のデザインでもずいぶん助けられているからな。今日はゆっくりしてくれると嬉しい」
穏やかな笑顔でそう言うガイさんは、やさしいまなざしを一成に向けていた。一成が嬉しそうにそれを受け取っていることも、そんな風に思われているのだと知ることができたことも嬉しかった。本当に、一成は良い仲間に恵まれている。
一成おススメのザフラ料理やお酒を注文し、私たちは近況報告をした。美味しい料理に舌鼓を打ちながら、息子の仕事の話を聞くのは楽しかった。聞き上手な子でもあるので、母親や妹についての話も嬉しそうに聞いてくれる。
日本画を描きつつ役者として舞台に立ち、デザイナーの仕事のかたわらドラマに出演する。多彩な方面で活躍する一成のことを、私は心底誇りに思っている。ただ、忙しさで体調を崩さないかどうかだけが心配だったので、こうして近況報告をする時に元気な顔を見られることに安心していた。
一成は「パピーと話すのめっちゃ楽しい!」と笑ってくれるし、それは本心だと思う。ただ、私や家族の心配を知っているからこそ、近況報告の時間を設けてくれていることも理解していた。一成は昔からそういう子で、周囲のことによく気がつくやさしい子だ。
そのやさしさを受け取ってくれる仲間が、一成の周りにいることも、私にとってはとても嬉しい事実だ。一成のやさしさは時として気づかれないことがあるけれど、少なくともMANKAIカンパニーの人たちは、きちんと受け取ってくれるだろう。
何より、一成には夏組という仲間がいる。彼らの仲の良さは年月を重ねても変わらず、それどころかいっそう結びつきは強くなったような気がする。そんな人たちと出会ってくれたことが、本当に嬉しかった。
「みんな変わりなさそうで安心したよん! ふたばも、仕事に慣れたっぽくてよかった~!」
「最初は大変そうだったけど――根気のある子だから」
料理もあらかた食べ終えて、穏やかに雑談を楽しんでいた時だった。不意に、部屋の扉がノックされる。一成が明るく返事をすれば、よく知った人――MANKAIカンパニーの御影さんが入ってくる。制服に身を包んでいるし、彼が「Bar Journey」で働いていることは私も知っていた。
「あれ、ヒソヒソじゃん~。今日出勤だったんだねん」
「遅番。お皿、下げに来た」
そう言って、手際よくお皿を何枚も腕や手に乗せていく。感心していると、落ち着いた声で「そうだ」と言葉を落とす。
「二人とも、甘いお酒飲める?」
淡々とした調子で続けられた言葉に、一成も私も首をかしげる。御影さんは、そのままの口調で続けた。
「ガイが、二人に出したいお酒があるって。ちょっと度数強くて甘いお酒だけど、飲めるなら持ってくる」
詳細はよくわからない。ただ、ガイさんが出したいお酒があるというなら、断る理由もないだろう。幸い甘いものなら二人とも好きだし、度数が強いという点も私に関してなら問題はなかった。一成は少し気をつけたほうがいいけれど。
一成も同じ結論に達したのだろう。明るい笑顔で「だいじょぶだよん!」と答えれば、御影さんが小さくうなずいた。