Fantastic Fantast talk!
チケットの入手は戦争である。
ファンクラブ会員限定、購入特典、プレイガイド、各種主催などの先行に挑み、それでも駄目なら一般発売、さらにはリセールを待ち、当日券に望みをかける。情報戦と折れない心と忍耐力の果てに手に入れることができるのが、自分のために用意された座席だ。「チケットがご用意できました」――私の一番好きな言葉である。
その一言を目指して戦いに臨み、舞台チケット争奪戦に参加して、普通に敗北した。
当日券の抽選にすら一回も参加できなかったし、チケット本当に存在してる?と疑問に思ってるけど、SNSで当選者見ると吐きそうになるから確認もしていない。唯一の慈悲は、全公演配信があることだろう。
ありがとう、MIZUNOエンタープライズ。正直私が一番貢いでいるのはMIZUNOエンタープライズのような気がする。
まあ、今回のチケット倍率はたぶんめちゃくちゃ恐ろしいことになっているので、配信もなかったら暴動が起きると思う。
元々、私の推し――皇天馬の人気はとんでもなく高い。子役として知名度抜群ではあったものの、ある時期を境に爆発的にファンが増えた。「元子役の皇天馬」ではなく「俳優皇天馬」として、確かな演技力と端正な顔立ちによって、多くのファンを獲得した。かくいう私もその一人である。
子役としての皇天馬しか知らなかった時代は、テレビに出ていても「大きくなったな~」程度の感想しか持っていなかった。
しかし、たまたま深夜に放送していた映画で、皇天馬を――天馬くんを見てからその考えは変わった。
天馬くんは、爽やかなイケメンかちょっと強引なイケメンの役ばっかりの印象が強くて、「また似たような役やってる」と思っていた。だけれど、その映画での天馬くんは、家庭環境に恵まれずに泥水をすするような生活をしている青年役だった。
雑然とした部屋で、目に光もなく日々を過ごす天馬くん。しかし、とある出会いがきっかけで這い上がるチャンスをつかむ。今までの生活には戻りたくないとがむしゃらに邁進するけれど、次第に雲行きは怪しくなる。ギリギリのところで保たれていた日常はやがて崩れ、血と暴力の世界へ落ちていく。立ち止まらなくては、踏み止まらなくては、と葛藤するも、ついに天馬くんは最後の一線を超えてしまう。
その瞬間の表情に、鳥肌が立った。
天馬くんは、絶望していたはずだ。自分の人生は結局こんなものか、と。這い上がれると思ったのに、結局こんな風に終わるのかと。実際台詞もそういう類で、絶望的なシーンで間違いない。それなのに、天馬くんは何だかとてもやさしい表情をしていて――それが余計に怖かった。
まるで、何だかこの結末を知っていたようで。今までの日常から抜け出したいと必死で努力していた。それは確かで間違いがなかったのに、本当はずっと前からこうなることを知っていたみたいで、それはつまり抜け出せないことをとっくに自分の答えにしていたのだ。
それほどまでに、彼が日々抱えていた絶望は深かったのだと、穏やかな表情が伝えていた。単純に、狂気的な絶望を浮かべるのではなく、やさしい表情であることこそが、余計に彼の絶望を表していて心底鳥肌が立ってしまった。
映画を見終わってから、私は天馬くんの情報をかき集めた。
すると、確かにイケメン役で色々出てはいるものの、それ以外の役も結構やっていることを知って見られるものは片っ端から全部見て、最終的には立派な皇天馬ファンが誕生した次第である。
その過程で、天馬くんがMANKAIカンパニーという劇団に所属していることも知った。
もっとも、私が調べた時点では所属はしているものの、全然舞台には立っていなかった。まあ、めちゃくちゃ忙しいだろうし、舞台に立つ時間とかないんだろうな……とは思った。
むしろ、ちょっと前までは舞台公演してたのが奇跡か?と思ったくらいだ。今ほどではないにしろ、皇天馬の知名度は相当だっただろうし、映画やらドラマにも色々出演していたはずだ。よく舞台のスケジュール押さえられたなと感心した。同時に、MANKAIカンパニーの舞台に立つ天馬くんが見たいな、と思った。
ただ、それは私だけが思っていることではなかった。MANKAIカンパニーの舞台に立つ天馬くんが見たい、というのはファン全員が思っていることらしかった。
それはたぶん、MANKAIカンパニーという存在の大きさを、ファンなら誰でも理解しているからだ。
天馬くんについて情報を集めて知ることになるのは、天馬くんがとてもMANKAIカンパニーを大事にしているという事実だ。
古参の天馬くんファンはよく語っている。
芸能界でも特に仲の良い人もおらず、プライベートの話題に人間が出ないことで有名だった天馬くん。そんな天馬くんが劇団に所属したかと思ったら、話題にMANKAIカンパニーの話がよく出るようになって、天馬くんのブログに友人の話が出た時は思わず祝杯を上げたらしい。
それは、今の天馬くんを知る人間からすれば意外な話ではある。
天馬くんは、あまりSNSの類を更新しないので、それはたぶん昔からそうなんだろうな、とは思うのだけれど、友人たちと充実したプライベートを過ごしていることは、わりと簡単に把握することができる。主に、MANKAIカンパニー関係者と夏組の存在によって。
MANKAIカンパニーの夏組。
天馬くんについて知ればすぐに行きあたるのが、夏組の存在だ。古参の人からもよく聞くし、それにインタビューやファンクラブの会報で、天馬くんはよく夏組の話をする。
夏組とどこに行ったとか、夏組の誕生日プレゼントを買いに行きたいだとか、自然とそんな話が出てくるので、天馬くんファンは総じて夏組の動向には詳しくなる。
何より、天馬くんを調べる=夏組を調べる、みたいな所がある。天馬くんを知りたければ夏組を調べればいいし、天馬くんの日常を知りたければ夏組を――というか夏組の一人、三好一成をフォローしておけば間違いなかった。
三好一成については、何か薄ら聞いたことがあるような、見たことがあるような、という程度の認識だった。しかし、天馬くんを調べる過程で顔と名前を明確に認識したし、今ではきちんと彼のSNS全てをフォローしている。だって、めちゃくちゃ天馬くんの写真アップしてくれるから……!
天馬くんはSNSをあまり更新しないし、するとしても出演作の宣伝くらいだ。しかし、件の三好一成――カズナリミヨシはSNS更新の鬼だ。
事あるごとに何かを投稿するし、それは当然自分の出演作だったり日本画だったり(日本画を描くことを知らなくて最初に見た時はなんで日本画の話が突然出てくるのか謎だった)の宣伝だったりするけれど、それに輪をかけて日常の一コマを投稿する。そこには高確率でMANKAIカンパニーの誰かがいて、夏組率が大変高い。つまり天馬くんの登場率も高い。
台本を読んでいる横顔だったり、コーヒーを淹れている後ろ姿だったりの些細な瞬間から、夏組全員で遊びに行った時の楽しそうにはしゃぐ姿(普段はカッコイイ顔ばっかりなのでとても貴重)など、惜しみなく天馬くんのオフショットをアップしてくれるのだ。もう、本当カズナリミヨシ様様である。
しかも、カズナリミヨシの配慮が行き届いているのは、全員集合写真や自分とのツーショットもいっぱいあるけれど、天馬くん単体の写真も混ぜてくれるところだ。他の団員に対してもそういう写真を上げているのは、個人ファンを想定しているからだと思う。天馬くんのインタビューで知った、「一成はああ見えて意外と気遣いができる」について当初は半信半疑だったけれど、今なら全力でうなずける。
夏組と一緒にいる天馬くんは、本当に生き生きとしていて、テレビで見る姿とは全然違う顔を見せてくれる。
雑誌などで取り上げられる天馬くんももちろん好きだけど、時々見られるオフショットは年齢よりもっと無邪気で、日常生活を「生きている」という感じがとても強い。
同じ世界で元気に生きていてくれている、という事実を噛み締めたくなるような、健やかに楽しく生きていてくれることに感謝したくなるような、そういう写真が多いのだ。
それは恐らく、天馬くんにとってMANKAIカンパニーの夏組という存在がとても大きいからだ。大事で大切で仕方ない人たちと一緒にいるから、そんな風に無邪気に笑ってくれる。
そんな場面を見せてもらえることにも日々感謝しているし、天馬くんにとって大事な夏組と共に過ごす時間が多くあればいいと願っている。
そういうわけで、天馬くんファンというのは総じて夏組に対しても感謝の念を抱いて生きていて、いつか夏組が全員そろった公演を見てみたい、というのが共通の願いだった。
ただ、夏組のメンバーは、会社員と兼業している椋くんや九門くん、幸くんがいるし、専業役者の三角くんは最近とっても忙しい。何だかんだでカズナリミヨシも多忙だし、天馬くんは言うまでもない。なので、全員が集まるというのは中々難しいのが現状だった。
そもそも、夏組公演自体ここ最近やってないし、天馬くんと夏組の仲の良さはプライベートで充分知っているけれども、全員で同じ舞台に立つなんて夢のまた夢だろうな、と思っていた。
ところが、である。
何の前触れもなく、夏組全員集合公演が告知された。全世界にストリートACTを配信した上でのゲリラ告知という、恐らく誰も予想していなかった形で。
そもそも、「天馬くんの結婚報道&突撃取材」という情報が友人からもたらされた段階で結構キャパオーバーしそうだったし、ストリートACTの内容でもわりと瀕死だったというのに、極め付きが夏組全員集合公演の告知である。
遠方に住む友人と通話しながら事態を見守っていたけれど、正直何をしゃべってたのか覚えてないし、翌日からの仕事が無事にこなせていたのかも怪しい。あの辺の記憶がさっぱり抜け落ちている。
ただまあ、一応時間が経てば正気に戻ったので、MANKAIカンパニーのWebサイトに掲載された告知に「夢じゃなかった……」と現実を噛み締めてチケット争奪戦に身を投じたわけである。
結果は惨敗だったわけだけれど、ある意味それも当然だとは思っている。諦めがつくかどうかは別問題で、まあそれはそうだろうなと思うことは思う。
だってそもそも、天馬くんの舞台チケットというだけで即完売案件だ。天馬くんの演技を直接、生で見ることができるなんて、これだけで熾烈な戦いになる。
加えて今回は、天馬くんにとって特別な場所であるMANKAIカンパニーの舞台で、尚且つあれだけ仲の良さを知っている夏組と共に舞台に立つ。特別な場所で特別な人たちと舞台に立つ推し。こんなの絶対見たいに決まっている。
さらに、当然だけれど夏組ファンは天馬くんだけで成り立っているわけではない。
各個人に当然固定ファンがいるわけで、各ファンが全力でチケットを取りに来るのは目に見えている。
兼業組はMANKAIカンパニー以外ではほぼ公演が見られないので死に物狂いだろうし、三角くんは最近人気が急上昇なので相当のファンが参戦するだろうし、カズナリミヨシは多方面への顔の広さゆえ、色んなところにファンがいる。そのファンも恐らくチケット入手に動くはずだ。
さらにさらに、である。
夏組の仲の良さというのは、MANKAIカンパニーでもだいぶ定評があり、夏組はわりと箱推しの傾向になりやすい。なので、この人のファンとまでは行かなくても夏組のファンという人間は結構いるはずだ。
そもそも、夏組公演自体が久しぶりという現状なのだから、何が何でもチケットを取りたいに決まっている。
そして、こんなにも需要が高いというのに公演日は二日のみである。たぶん、天馬くんのスケジュール押さえられなかったんだろうな、という気がする。一応、両日マチネとソワレあるけれど、つまりは四公演のみなのだ。
さらに駄目押しとしては、MANKAI劇場は座席数がそんなに多くない。自前の劇場としてはそれなりの座席数はあるけど、需要に対しては嘘のように少ない。
正直、ドーム規模でやってくれても落選者多数出そうなレベルなので、何かもうチケット倍率が果てしなくやばかったんだろうな……ということだけは全落ちした私も身に染みて感じていた。