僕らの日々には愛が降るのだ




 左手が目に入る度、一成の頬は自然とゆるむ。何かと手仕事が多いので普段は指輪をつけていない。しかし、今一成の左手薬指には指輪が光っていた。
 海辺でのプロポーズあと、天馬は再び仕事に忙殺される生活に戻っていったし、一成も仕事が立て込み始めたので、まったく顔は合わせていない。ただ、毎日連絡は取り合っているので近況はわかっている。
 それに、素直に「会いたい」と言うことができるし、天馬も「オレもだ」と答えてくれるので、寂しさはあっても溺れずに済んでいる。
 それには、指輪の存在も大いに関係している。
 天馬が心からの思いを形にして贈ってくれた指輪。そばにはいなくても、いつでも天馬の存在を感じられる。薬指で確かに光って、一成の心にそっと明かりを灯してくれるのだ。

(は~、本当にテンテンはカッコイイな~)

 キーボードを叩いていた手を止めた一成は、指輪を贈られた時の状況を思い浮かべて心からの言葉をこぼす。無理、テンテンなんであんなカッコイイの。
 元々一成は天馬のことを世界一カッコイイとは思っていたけれど、プロポーズの一件からは宇宙一カッコイイ、に考えを改めていた。
 そんな人が、一生を共にするのだと自分に誓ってくれた指輪が目に入れば、笑顔になってしまうのも仕方がないというものだ。
 もっとも、指輪を常時つけているというわけでもなかった。
 基本的には、チェーンに通して首からぶら下げていて、家にいる時は薬指へつけるようにしていた。家事やお風呂、寝る時は外してしまうので、日常生活においては薬指にあるほうが少ないかもしれない。
 しかし、天馬自らの手ではめてくれたということもあり、薬指に指輪を通す時間は必ず設けるようにしていた。
 そうして、一成は天馬との時間を一つ一つ思い出してはジタバタしたり悶えたりと忙しかった。
 おかげで、基本的にいつでも明るい笑顔の一成は輪をかけてテンションが高く、仕事関係者には「何か最近機嫌がいいですね」と言われるくらいだ。
 それはそうだろう、と一成は思う。
 機嫌がいいどころではない。嬉しくて嬉しくて仕方がないのだ。いつか離れなくちゃいけないと思っていた大事な人と、これから先も共にいられる。その約束を持っていられることが、嬉しくて幸せで仕方ない。
 なので、ここ最近の一成は常にハイだった。しかし、それも普段が普段なだけに、そこまで大きな振れ幅だとは思われていないようで、不審がられていないのは幸いだろう。
 ただ、そんな一成にも一つだけ気がかりがあった。プロポーズを受けてからずっと考えていたこと。夏組への報告である。
 報告自体はすぐにしている。
 指輪の写真を即刻夏組グループメッセージに連投し、喜びのスタンプ爆撃をすれば、すぐに全員からお祝いの言葉が届いた。
 文字や写真だけのメッセージでも、一成のあふれんばかりの心を夏組のみんなはきちんと受け取ってくれたし、天馬も短い言葉ながらちゃんと報告してくれた。
 だから、それだけでも充分なのかもしれないけれど。時間を追うごとに、一成にはさらに別の気持ちが芽生えていた。
 時間を取って全員が集まるのは難しいから、メッセージをくれるだけでも本当に嬉しかったし、みんなから贈られる言葉が心からのものであることはわかっている。だけれど、一成は思ったのだ。
 プロポーズを受けたのだと、共に生きると決意したのだと、ちゃんとみんなの顔を見て言いたい。みんなの顔を見て、みんなの前で、自分の声で、テンテンと一緒に言いたい。
 今までいっぱい助けてくれた夏組のみんなだからこそ。
 一成は再びキーボードに指を滑らせて仕事の続きに戻ったけれど、頭からは夏組への報告についての件が離れてはいなかった。
 踊る指先と共に、視界に入るのは薬指の指輪。へらり、と浮かぶ笑みのまま、一成はゆるやかに決意する。うん、そうだよね、こうなったら、やるしかなくない?
 指輪のくれる愛おしさを握り締めた一成は、一旦手を止めてスマートフォンを引き寄せた。メッセージを送るのは、一成にとって宇宙一カッコイイ存在――天馬である。