僕らの日々には愛が降るのだ




「何も言わなくてもみんなプレゼント用意しちゃうとか、さすが夏組って感じでマジテンアゲじゃん。ね、テンテン」

 ハイテンションのままの一成の問いかけに、天馬が「そうだな」と答えるけれど。そう返す天馬は何だか今にも笑い出しそうな雰囲気をたたえているので、四人がハテナ、という表情を浮かべる。
 しかしそれもすぐに解決する。一成がポケットから封筒を四枚取り出しつつ言ったからだ。

「じゃーん! こっちはオレたちからのお礼のプレゼントだよん。みんなみたいなアイテムじゃないけど、お礼の気持ちがいっぱいこもってるからねん!」

 心底嬉しそうな言葉に、なるほど、と四人は思う。打ち合わせが一切なくてもプレゼントを用意した四人と同じように、目の前の二人もやっぱりプレゼントは用意済みだったらしい。
 同じことをしているな、という意味で天馬が笑い出しそうだったのだろう。

「え、でも、オレたちめっちゃ料理とか食べてるし!」
「そうだよ。カズくんたちには充分おもてなしされてるよ」

 九門と椋が慌てたように言うのは、自分たちにプレゼントをもらう謂れはない、と思ったからだ。
 お祝いの気持ちを込めた贈り物は、そもそもお返しを期待したものではない。それでもお返しが要るとしたら、用意された食事で充分果たされているはずだった。そこまで値の張るものを用意したわけではないのだし。

「オレたちがプレゼントしたいんだって!」
「お前たちにはかなり世話になったからな。受け取ってくれると嬉しい」

 プレゼントを贈るのが大好きな一成だけではなく、天馬にまでそう言われてしまってはもはや受け取る以外に道がなかった。
 まあ、悪いと思っているだけで受け取りたくないなんて、微塵も思ってはいないのだけれど。

「それじゃね、えっと、まずはゆっきー。はい、どうぞ」

 一成が差し出したのは、薄いピンク色のリボンがついた封筒だ。厚さはほとんどなく、サイズ感から見て何かのカードのようだと幸は察する。
 世界的に展開するコーヒーチェーン店で使えるカードの類だろうか、と思いながら取り出す。しかし、現れたのは予想外の品物だった。

「……なにこれ」
「世界で一枚、ゆっきーだけの『いつでもお助けカード』だよん! これ一枚あれば、いつでもどこでも、オレたちゆっきーを助けにいくからね!」

 出てきたのは、一枚のプラスチックカードだった。
 マットな黒を基調としたカードには、「YUKI RURIKAWA」の文字が箔押しで印刷されていて、図案化されたユリの花がエンブレムのようにカードを飾っている。
「Itsudemo Otasuke Card」という文字もお洒落にデザインされていて、高級感あふれるカードだった。

「有効期限も回数制限も一切なしのカードだからいつでも使ってねん!」

 力強く言い切るけれど、そんなことを言わなくたって一成も天馬も何かあれば助けに走ってくれるなんてこと、夏組の誰もが知っている。
 六人はいつだってそうしてきた。誰かが倒れそうになったら、他の五人が背中支える。
 立ちすくんでしまいそうなら手をつないで、一人が折れそうになったら五人が助けに走るのだ。
 わかっていても、きっと二人はそれを形にしたかった。

「ちな、裏面にはオレたちの署名が入ってます♪」

 その言葉にカードを裏返せば、薄いグレーになった部分に「皇天馬」「三好一成」という署名があった。手書きで書きこまれたであろう文字は、見慣れた二人の筆跡だ。

「わざわざ書いたわけ?」

 面白そうな顔で幸が問えば、一成が大きく首を上下に振って答える。

「そそ。オレたちの署名つきだから、めっちゃ効果ありそうでしょ?」

 ただの印刷ではなく、一枚一枚に書きこんだことはすぐにわかった。自分たちの手で名前をしたためる。それは何かとても強いメッセージのように思えた。

「カードなんかなくたって、オレたちみんなのこと絶対助けるけどさ。でも、こうやって形にさせてよ。みんなのこといっぱい助けるよって、宣言させてほしいんだ」

 落ち着いたトーンで一成が言った。いつもの一成の調子とはまるで違う。それが余計に、彼の真剣さを表しているようだった。続きを引き取ったのは天馬だった。

「お前たちには本当に感謝してる。一成の背中を押してくれたこと、オレの勇気になってくれたこと――何よりオレたちを信じてくれたこと、心底感謝してる」

 だから、と天馬は言う。だから、そんな彼ら――夏組の四人に改めて言いたかったのだ。何があっても必ず助ける、絶対に力になると、形にしたかった。

「お前たちを絶対に助けにいくって、オレたちに言わせてくれ」

 きっぱりと告げる天馬の瞳は強い。冗談でこんなことを言う人間ではないことは、誰もが理解している。だからこれは、この上もない天馬の本心でであり、一成の本音なのだ。

「――ま、仕方ないから受け取ってあげる」

 唇に笑みを刻んだ幸はそう言って、カードをしげしげと眺める。
 どう考えても一成が全力でデザインした結果だということはよくわかるので、つくづく何にでも本気で取り組む人間だ、と改めて幸は思う。

「ほんと、一成ってこういうの好きだよね」
「うん、めっちゃ楽しかった! 好きなものはやっぱり好きだし――ゆっきー、オレの『好き』って気持ち大事にしてくれて、ありがとねん」

 その言葉が今この瞬間だけを指していないことくらい、幸もすぐに理解する。これは一成が天馬から逃げ回っていた時、幸が掛けた言葉に対する感謝だ。
 天馬に恋したこと。天馬を好きだと思うこと。それを後悔する一成に向けて、幸は言った。
 一成の持つ「好き」を否定するな、と。好きなら好きと胸を張れ、と。それを受け取ったから、一成と天馬は今こうして同じ未来を歩もうとしている。

「オレからも感謝する。その、一成を引き留めてくれて、無理に追い回すなって言ってくれて助かった。こいつ、本当に海外行くつもりだったらしい」
「にゃはは~。ゆっきー、マジでナイスタイミングだったよん!」

 天馬と一成は色々な話をした。それぞれが思っていること、胸の内に留めていたことをたくさん話したし、耳を傾けた。
 その中で一成は天馬から逃げ回っていた時のことも素直に話していて、流れで海外渡航を計画していたことも告げていたのだ。

「でしょ? 一成のことだから絶対そうすると思ってた」
「ゆっきー、よくわかってるよねオレのこと。あと三日くらい遅かったから、オレたぶんあっち行ってたかも~」

 爽やかに告げられた言葉に、その場にいた夏組はぎょっとする。
 さすがに海外に行かれては自分たちができることは限られてしまうので、その前に手を打ててよかった、としみじみ思う。
 当の幸も、さすがにそこまで切羽詰まっていたとは思っていなかったらしく、目を瞬かせていた。

「幸、マジでファインプレーじゃん!」

 心からといった調子で九門が言えば、椋や三角も同意する。天馬も「本当にな。お前には助けられた」と言っているので、よっぽどだろう。

「幸には指輪の件でも世話になってるしな。サイズも教えてもらった」
「え、あれゆっきーからんでたの!? まあ確かに、テンテンなんで指輪のサイズ知ってんのかな~と思ったけど!」
「気づいてなかったの? バレンタインイベント用に必要だからって、薬指のサイズ聞いたでしょ」
「普通に芝居のアイテムで必要なのかな~って思ってた! そっか、あれかぁ……ってあれ、テンテンいつから指輪作る気だったん?」

 これ結構前から計画してね?と気づいたらしい一成に問われて、天馬が耳を赤くする。
 実は去年からずっと考えていて、年が明けてから色々と用意を始めていた、ということは一成に言っていなかったのだ。別に知られて困る話ではないけれど、純粋に恥ずかしかった。

「――あとでちゃんと聞かせてよ、テンテン」

 ここで聞かないほうがいいだろうな、と察した一成がそれだけ言うと、天馬がこくりとうなずく。夏組全員の前で聞かれないだけマシだし、一成はきっと嬉しそうに笑うからまあいいだろう、という判断だった。

「うわー、なんかマジでラブラブって感じだよね、天馬さんとカズさん!」

 二人のやり取りを見ていた九門が、純粋な感想を述べる。真実心から思っていることがよくわかるので、一成はテンション高く「オレとテンテン、ラブラブだからねん!」とピースサインを掲げる。
 それから、気を取り直したように薄い紫色のリボンのついた封筒を九門へ渡した。

「ってことで、次はくもぴ! はいこれ、オレたちからのカードだよん」

 嬉しそうに受け取った九門は、中から現れたカードに「すげー!」と歓声をあげている。「KUMON HYODO」という箔押しも、アサガオのエンブレムも格好良くてテンションが上がるらしい。

「めっちゃカッコイイ! 何かあったら絶対使うね!」
「うん、よろピコ☆」

 ニコニコと一成が告げれば、九門はカードを両手で握りしめながら大きくうなずく。その様子に、いっそう笑みを深めた一成は言う。その両手で握りしめてきたものを知っていると思いながら。

「くもぴ、本当にありがとね。オレ、ちゃんと手放さなかったよ。手放せなかったもの、今もちゃんと持ってるよ」

 その言葉が指すものを、当然九門は知っている。今九門に向けられる瞳には、あの日の夕焼けが映り込んでいるみたいだった。
 手放せないもの。手放したくないもの。それは決して悪いことじゃない。大事に守ってきたものだと、手放せなかったことを誇ってくれと言った九門の言葉は、一成にきちんと届いたのだ。
 だから今、ここで二人は九門の前で笑っていてくれる。

「オレも、九門から一成の話が聞けて嬉しかった。一成がちゃんと毎日過ごしてるってことも、笑ってることも教えてくれて、ありがとな」

 九門自身は、まるで情報を流すスパイみたいなことをしている、と思っていたらしいけれど、もちろん一成も天馬もそう思っていない。
 それどころか、一成の日常を九門が教えてくれたことは天馬にとって、ささやかな喜びでもあったのだ。
「カズさん、今日はカントクと料理作ってて楽しそうだったよ」だとか「打ち合わせのお土産だって、ドーナツくれた!天馬さんはチョコが好きなんだってカズさん言ってた」だとか。
 まったく動向がつかめなかっただけに、一成の日常に触れることで天馬はほっとしていた。今日も元気でいてくれる。ちゃんと笑っていてくれる。
 それを確かめられるからこそ、九門からの言葉に天馬は心から感謝していた。

「ううん。オレ、全然大したことしてないし……それに、オレ以外にもみんなカズさんのこと話してたでしょ?」
「幸は業務連絡みたいなもんだったぞ。三角は今日のサンカク探しの報告だったし、椋は結構教えてくれたけど、九門ほど長期間じゃなかったしな」

 それに、途中からは一成もぽつぽつと返事をしていた。一切連絡がない段階で、純粋に一成の動向を教えてくれた九門は貴重だったのだ。
 九門はその言葉に、「そうなんだ。ちょっとは役に立ってたならよかった!」と照れたように笑っていた。

「くもんはえらい子、えらい子~!」

 ニコニコと嬉しそうに言うのは三角だった。よしよし、と頭を撫でる様子をほほえましく見守ったあと、タイミングを見計らって一成は口を開く。

「次はすみーに、これ!」

 差し出したのは、黄色いリボンのついた封筒だ。受け取った三角が取り出せば、中から出てくるのは黒いマット地に、「MISUMI IKARUGA」の箔押しがされた三角形のカードだ。
 図案化されたダリアが中央に踊っている。三角は目を輝かせた。

「わあ、サンカクだ~! ありがとう、かず、てんま! 大事にする~!」

 カードを頭上に掲げる三角は、顔いっぱいに喜びを浮かべている。新しく手にしたサンカクが嬉しいようで、それを見つめる一成はやさしい目をしていた。

「うん。すみーにもたくさん助けてもらっちゃったからねん。弱音も吐いちゃったけど、受け止めてくれて、オレに特別を教えてくれて――笑顔を願ってくれて、ありがとう」

 屋根の上で過ごした夜を覚えている。
 あの時、三角は「怖い」と言った一成の言葉を否定せず、受け止めてくれた。一成の特別は天馬なのだと、揺るぎない言葉で教えてくれた。
 そして、何よりも二人に笑ってほしいと心から願ったのだ。その願いが叶ったことなんて、三角はよく知っている。

「オレからも礼を言う。三角から電話がかかってくるとは思ってなかったけど、改めてオレの特別が誰かってこと、お前と話せてよかった」
「ううん、いいよ~」

 のんびりと三角は言うけれど、その言葉に驚きの表情を浮かべたのは天馬と三角以外のメンバーだった。三角が電話をかける、という場面にあまり遭遇したことがないのだ。

「え、すみー、テンテンに電話したの?」
「うん。てんまの特別はかずでしょって、話したんだ~」

 三角は地方公演中に、思い立って天馬に電話を掛けたらしい。それはたった一回だったし、そう長い電話でもなかった。
 だけれど、天馬にとっては自分の気持ちを改めて確認するために必要な時間だったのだ。
 天馬の特別。たった一人。決して離すまいと誓った人。自分の言葉で、声で形にすることで、天馬は自分の心をハッキリと自覚したのだから。

「てんまとお話できて楽しかったよ」

 いつもと変わらない笑みに見えて、何よりもやさしい表情を浮かべている。
 まるで月の光みたいな。あの夜浮かべたものと似た笑みで、きっと三角は天馬の声を聞いてくれたのだろうと一成は思う。だから、「ありがとねん、すみー」ともう一度告げれば「ううん」とふわふわ笑った。

「それじゃ、最後はむっくんだねん。これ、どうぞ」

 渡したのは、水色のリボンがついた封筒だ。椋は恐縮しながら受け取り、中のカードを取り出すと「うわあ」と感嘆の声を上げる。
 マットの黒地に、「MUKU SAKISAKA」の箔押し。図案化されたキキョウのエンブレムがお洒落に輝いている。

「すごく素敵なカードだね! 二人の署名が入ってるのも嬉しいな」

 頬を上気させた椋は、心からといった調子で言葉を落とす。椋はいつだってこんな風に、受け取ったものを全力で喜んでくれる。
 だからたくさん色んなことをしてあげたくなっちゃうんだよなぁ、と思いながら一成は口を開く。

「むっくん。オレの気持ちを、たくさん聞いてくれてありがとう。オレがどうしたいかって、何を望んでるかって、オレの心をちゃんと受け止めてくれて、ありがとう」

 一成の話が聞きたいのだと言って、椋は一成の心を掬い取ってくれた。押し殺してなかったことにしてきた心を、曖昧にぼやけていた気持ちを、椋はまるごと全部抱きしめてくれた。
 だから、一成は自分の心を知ったのだ。心の底から望むこと、どうしたって叶えたい願い。天馬と共に生きたいのだという心を握り締めたからこそ、一成は天馬と共に歩むことを決意した。

「椋、ありがとな。メッセージのやり取りには勇気づけられたし、いつでもオレを信じてくれて嬉しかった。背中を押してくれたのは椋だ」

 一成についての報告以外にも、椋と天馬はメッセージのやり取りを行っていた。
 それは、混乱しそうな天馬の心を鎮める役を果たしてもいたし、何よりも天馬にとって嬉しかったのは、椋が真っ直ぐ天馬を信じていたことだ。
 天馬くんなら大丈夫。天馬くんなら、カズくんと幸せになれるよ。二人の幸せを疑わずにいてくれたことは、確かに天馬の背中を押したのだ。

「ううん、ボクなんて全然……! 二人が素敵だって知ってたから、信じるのなんて当たり前だけだったよ」

 恐縮したように告げるけれど、そう思ってくれたことが何よりの力になったのだ。
 もちろん椋だけではない。夏組のみんな――三角も、九門も、幸も、たとえ言葉にしなくても、二人が互いを思い合っていることを微塵も疑ったりはしなかった。
 互いの手を取っていくことが幸せなのだと、もしかしたら当の二人よりも強く確信していたんじゃないかと思えるくらい、それは当たり前の事実だったのだ。
 そんな彼らがいたからこそ、きっと今ここに辿り着いたのだと、天馬も一成も知っていた。

「でも、こんなカード作っちゃうなんて、カズさんすごいよね!」
「うん。とってもお洒落だし、見てるだけでも何だかワクワクしちゃうなぁ」
「きれいなサンカクで嬉しい~」
「『いつでもお助けカード』って発想も、まあ一成らしいけど」

 四人がカードに向ける感想を、一成は嬉しそうに聞いていた。しかし、最後の幸の言葉と聞くと「あ、違うよん」と声を掛けた。

「デザインとか発注とかは全部オレだけど、そもそもの発案者はテンテンだからねん♪」

 楽しそうに告げられた言葉に、四人は「え」と一声発して固まった。三角すらも「てんま?」と首をかしげていて、当然全ては一成のアイディアだと思っていたのだろう。

「オレは、『いつでもお助けカード』なんて名前は考えてない」
「そかそか、ネーミングもオレだった!」

 ぶっきらぼうな天馬の言葉に一成が訂正を加えるけれど、そこ以外に訂正が入らないということはつまり、発案者が天馬だというのは事実らしい。それを察して、椋がおずおずと口を開く。

「天馬くんが、カード作ろうって言ったの?」
「別にカードにするとまでは言ってない。ただ――お前たちに何かを贈るなら、世界に一つだけしかないものがいいと思った。オレたちが、お前たちにやれる一番のものって言って思いついたのがこれだったんだよ」

 一成が夏組のみんなに直接報告をしたい、と言った時天馬もすぐにうなずいた。
 もちろん、メッセージだけのお祝いでも充分気持ちは伝わった。だけれど、特別な彼らには自分たちの言葉で、その顔を見て伝えたい、というのは何も一成だけに限った願いではないのだ。
 そういうわけで、場所を天馬の自宅に設定して日程のすり合わせを行い、主に一成主導でパーティーの準備は着々と進んでいった。そんな中で、夏組のみんなに何か贈り物をしたい、という話になった。
 お菓子の類でも、何かしらの記念品でもきっと喜んでくれるだろうとは思った。夏組の彼らなら、天馬と一成が選んだものならきっと何だって「ありがとう」と言ってくれる。
 だからこそ、一番のものを贈りたいというのが二人の総意だった。
 それなら一体何がいいのか、と話している時に天馬がぽつりとこぼしたのだ。
 自分たちが贈れる一番のもの。世界中の誰にも負けない。これだけは絶対に一番だと、間違いなく胸を張れるものは。

「お前たちを助けるって決意なら、他の誰にも負けないだろ。だから、オレたちの決意を形にしてお前たちにやりたかったんだよ」

 きっぱりと告げる天馬に、照れる様子はなかった。
 彼にとって当然のことを言っているだけだから、取り立てて恥ずかしがることではない、ということを察することができる程度にこの場にいる人間は付き合いが長かった。
 だから、天馬と一成がどれほど真剣に、彼らの助けになると誓っているのか思い知る。
 他の誰にも負けないと。世界で一番、夏組の彼らのために走るのは自分たちだと。揺るぎない決意が、どれほどまでに深い愛情からやってくるものなのかを、その場にいた全員が受け取った。

「てんま~! ありがとう~!」

 感極まった様子で言ったのは三角で、衝動のまま思い切り天馬に飛びついた。
 さらに、九門まで「天馬さん、大好き!」と言って加わるし、椋も半泣きで「天馬くん、すごく嬉しい!」と言ってアタックしてくるので。天馬は「うわ!?」と叫んでラグに押し倒される。
 三人にもみくちゃにされる様子を、大笑いしながらスマートフォンで撮影しているのは一成だ。

「ゆっきーは混ざらなくていいの!?」
「遠慮しとく」

 わやくちゃになっている天馬を一瞥して、クールに言い放つ。
 ただ、唇には楽し気な笑みが浮かんでいるし、もらったカードを大事そうに握りしめているので、素直に言わないだけで喜んでいることは察しがついた。
 一成は「おけまる~」と言って、再び撮影に戻ろうとしたのだけれど。

「そういえばこれ、一成とポンコツの分はなくていいわけ」

 ふと思い立った、という顔で幸が言う。
 ある程度天馬を抱きしめて満足したらしく、三角や九門、椋は体を起こして幸の言葉を聞いている。確かに、これは自分たち四人分だけでお互いの分はなかったな、と思いつつ。
 天馬は幸の言葉に、ゆっくりと体を起こしながら答える。何当然のことを聞いているんだ、と言った顔で。

「必要ないだろ。一成の人生はオレのものなんだから」

 自分を助けるのに決意なんて要らない。一成のために走るのは、つまりは自分のための行動なのだから決意も何も必要ないのだ、と言い切った。幸は一つ瞬きをしたあと、心からの言葉を吐き出す。

「……オレサマ天馬様は健在か」
「わあ、今の『いちご色ロマンス』のルキくんみたいだったよ……!」
「あはは、天馬さんって感じ!」
「てんまはてんま!」

 それぞれが面白そうに感想を口にする。ただ、それを聞いていた一成は特に何も言わないので、四人がちらりと視線を向けた。嫌がるとかそういうことはないだろう、とは思っていたけれど。
 当の一成は、四人の視線を受け取って困ったように笑った。しかしそれは、照れくささや恥ずかしさの類ではなく、どちらかといえば、先ほどの天馬の表情に近かった。
 当然のことを聞かれて、それをどうやって説明したらいいのかな、と悩むような顔で答える。

「まあ、テンテンの人生もオレのだからねん」

 ハイテンションでもなければ気恥ずかしさを伴うこともなく放たれる言葉。それほどに揺るぎなく思っているのだ。
 天馬が言うように、一成にとって天馬のために走ることは自分にとって当然だと、自分の人生を生きるのと同じ意味だと。

「――やっぱりバカップル」

 呆れたように肩をすくめて、幸が言葉を吐き出す。心底呆れきってはいるものの、まとう雰囲気に愉快そうな色が混じる。

「ふたりは仲良し~!」

 ふわふわとした調子で言うのは三角だ。心底楽しそうに、同じ思いを分かち合っていることを喜んでいる。

「ラブラブ!って感じだよね!」

 九門が明るい笑顔で言って、大きくうなずいている。二人が互いに向け合う愛情をしかと感じることが嬉しくてたまらない、といった笑顔だった。

「うん。天馬くんもカズくんも、本当に幸せそうで嬉しいな」

 心から、といった調子で椋が言う。
 お互いを誰よりも大切に思い合う二人だと、ずっと前から知っていた。その手が離れそうになったことも、再び手を取り合おうとして、共に生きていくと誓ったことも。
 それを傍で見ていられることの幸福を、四人は誰より知っている。
 だから、こんな風に真っ直ぐと互いに向けられる愛情を口にできること、それを聞いていられることがどれだけの喜びかなんてこと、言うまでもなく知っている。

「――ま、しばらくは惚気にも付き合ってやるか」

 仕方がない、といった調子で幸がこぼせば、椋も嬉しそうに瞳を輝かせて同意する。むしろ積極的に聞いていきたい、という顔だった。

「はいはい、オレも色々聞きたい! でも、惚気ってどういうの?」

 元気良く手を挙げて九門が言うものの、すぐに首をかしげる。単語自体はわかっているけれど、改めてそれがどんなものかと問われればピンと来なかったのだ。

「てんまとかずが、お互いの話をすることだよ~」

 のんびりと三角が答えれば、九門が「そうなの!? じゃあ何でもオッケーなんじゃん!」と大きな口を開けて笑った。
 厳密に言えば、もう少し違う区別があるはずだけれど。今ここで言うならば、天馬と一成が互いに関する話をすればそれだけで惚気になるのだ、と幸も椋も思っている。
 だから三角の言葉を肯定したし、椋がいそいそと口を開く。
 共に人生を歩むのだと決めた、誰より大切な二人に向けて。ありったけの愛を抱えた二人の話を聞くために、椋はやわらかく声を紡ぐ。




END



仲良しの夏組かわいい。
プレゼント云々は全然考えてなかったはずなのに、気づいたら全員が当然のように用意していた。情緒が安定してわりと普通にのろける一成は正直とても楽しかったです。
題名は「僕らの街には愛が降る夜だ」(TOKOTOKO(西沢さんP))から。この感じのタイトルにしたくて……。「夜もすがら君想ふ」好きです。