とある店主の独り言
天鵞絨町に店を開いたのは、単純にツテがあったからだ。アクセサリー作りの手ほどきをしてくれた、師匠とも言える人が「天鵞絨町に手頃な物件があって、安く譲ってもらえる」と教えてくれた。
そのころの私は、主にオンラインショップで自分が作ったアクセサリーを売っていた。それなりの収入にもなってきていて、このまま派遣事務を続けるか本格的にアクセサリー作家として生きていくか、という決断をする時期に来ていた。
そんな時にもたらされたのが、自分の店を持てるかもしれないという情報だった。靴の修理屋を営んでいたそうで、小さな店を開くには充分すぎるほどの面積。自宅兼店舗として使用することができるという。
決して小さな買い物ではないし、アクセサリー作家として生計を立てられる保証もない。わかっていたけれど、たぶん私は、背中を押してほしかった。本当はずっと前から決めていた。だけれど、一歩が踏み出せない。そんな私にとってその情報は、こちらの道に進むのだという天啓のように思えた。
そういうわけで私は、天鵞絨町に店を構えることになった。
とはいえ、当時の私の主な販路はオンラインだったので、実店舗への来客は少なかった。なので、そんな時に訪れてくれたお客様のことは比較的よく覚えている。まあ、たぶん、たとえたくさんの人が来店してくれていたとしても、きっと忘れられなかったとは思うけれど。
開店して間もないころに訪れてくれて、私のアクセサリーを気に入ってくれたお客様。デザインについてあれこれと質問をしてくれて、素材の違いからどんなコンセプトで完成にまで近づいたかなんてことまで興味深そうに聞いてくれたその人は、三好一成さんと言った。
明るい笑顔で物怖じすることなく話しかけてきて、正直最初は何か軽い人だな……とちょっと構えていた。お客様であることは間違いないのでもちろんそんな顔はしなかったし、接客はきちんとしていたけれど。ただ、あまりにも常にテンションが高いので、どういう風に接すればいいのか困惑していたのだ。
でも、恐らく三好さんはそういう私の戸惑いを察したのだと思う。あとになって気づいたのは、あれだけ明るくいつでも楽しそうにしている三好さんは、実はとても他人の感情に敏感ということだ。有り体に言って空気を読むのが大変上手いので、私の戸惑いもちゃんと察して、私が安心できるくらいの空気感にチューニングして対応してくれるようになったと思う。それに気づいたのは、だいぶあとになってからのことだけれど。
三好さんは、ふらりと店を訪れては新作のアクセサリーを見て、気に入ったものがあれば買っていってくれた。来客の少ない時分にはずいぶんと助けられたものだ。お礼を言っても「だってこれめっちゃテンアゲっしょ!?絶対欲しいやつじゃん!」と言って、単純に自分の趣味に合致するからだと言ってくれた。恐らくその言葉に嘘はないだろうとは思う。彼はデザインに対しては嘘を吐かない。
三好さんと少しずつ話すようになって知ったのは、彼の職業――ウルトラマルチクリエイターなるものの存在だ。曰く本人しか自称していないので、つまりは三好さんにだけ冠される職業名らしいけれど、たぶんそれはとても三好さんらしい。
三好さんは多彩な人だ。私は最初、デザイン関係の話をよくしていたので恐らくデザイナーなのだろうと思っていた。実際それは間違いではなく、グラフィックデザイナーとして活動していた。ただ、それだけではなかった。三好さんは、日本画家としての側面と役者という顔まで持っていたのだ。なるほど、だからウルトラマルチクリエイター、と妙に納得してしまったのを覚えている。
今度個展やるから、よかったら見に来てねん♪と言われて実際画廊に赴いたのは、いつもお店に来てくれることへの感謝もあったけれど、一番は純粋な興味だった。どんな絵を描くのだろうか、と思っていざ個展に行ってみれば、圧倒的な筆致で描かれる世界に言葉を失った。純粋に絵が上手いというのもあるけれど、一番は画面の中に広がる美しさだ。一つ一つを丁寧に見つめて描かれる日本画は、静謐な空気をたたえている。しんとした静けさに潜んだ美しさを丁寧に織り上げるようにして描かれて、彼の見ている世界はどれほどまでに豊かなのだろうと思ったものだ。
三好さんに挨拶をすれば、ぱっと明るく笑って「マジで来てくれたんだ!?ベリサン!」と言われて、絵とのギャップがありすぎて笑ってしまった。三好さんは私の反応が意味するところをすぐ察したようで、気分を悪くすることもなく「にゃはは、作品と本人のギャップが激しいって、カズナリミヨシ的よく言われる言葉ランキング二位だから!」と笑っていた。
役者としての面であれば、天鵞絨町に住んでいる関係で何度か目にすることはあった。普段の三好さんに近い役もあれば、まるで違う役もあって、同じ三好さんだというのに別人に見えて役者というのはすごいものだな、と感心することしきりだった。彼が所属する夏組というのはコメディを得意とするらしく、気分が落ち込んだ時に観劇すればたちまち笑顔になってしまう。天鵞絨町に住むまであまり演劇に縁がなかったけれど、店を構えてかはら演劇というものの力をよく感じるようになっていた。
さて、そんな三好さんはよくアクセサリーを買ってくれるだけではなく、他にお客様を連れてきてくれることが多々ある。経営者としては本当にありがたいお客様である。
MANKAIカンパニー関係者が多いのは、店の場所が場所だからだろう。MANKAI寮からそう遠くない位置に店があるのだ。基本的にそんなに高価なものではないので、学生にも手の届きやすい価格ということもあるかもしれない。春組所属のクールな黒髪の男の子、秋組所属の赤髪の男の子、冬組の雰囲気のある美人など、色々な人を連れてきて店を紹介してくれていた。
それ以外にも、他の劇団員の方を連れて来て、舞台の小道具を制作してほしいと依頼されることもあった。やってみると案外楽しくて、そちらの仕事も増えたりしているので、三好さんの交友関係に私はずいぶんと助けられている。
ただ、やはり一番連れだってくることが多いのは夏組のメンバーだった。特に、MANKAIカンパニーで衣装デザインもしているという瑠璃川さんと訪れることが多くて、色々とデザインの話をできるのは楽しかった。次によく来るのは向坂さんで、彼はおとぎ話に出てくるようなアクセリーが好きだ。斑鳩さんのおかげで三角形モチーフのアクセリーデザインが増えたし、兵頭さん(秋組にも兵頭さんはいるらしいけれど、私にとっての兵頭さんは夏組の彼だった)の話から、男性アクセサリーにも本格的に手を広げるようになった。
夏組の最後の一人――皇さんも、時々三好さんと店を訪れることはあった。もっとも、基本的に忙しい人のようで他の夏組に比べて訪れる頻度は少ない。それでも三好さんは楽しそうだったので、彼は本当に夏組と仲が良いな、としみじみ思う次第だった。
そういえば、店を開いた直後に三好さんと一緒に来店してくれたのは皇さんだったな、という記憶もあった。当時は「何か見たことがあるな」と思った程度で、その日の夕食時にスポーツ飲料のCMを見てハッとしたくらいだけれど、さすがに今はちゃんと皇さんを認識している。テレビをあまり見ない私でもわかるくらいなのだから、皇さんの活躍は推して知るべしということなのだろう。そんな皇さんが本当にお店を開いた直後に訪れてくれていたというのは、お店としてはだいぶ縁起がいい話なのかもしれない。
その効果というわけではないだろうけれど、店はどうにか軌道に乗り、変わらず天鵞絨町の一角で店を構えている。
オンラインでの販路はずいぶんと強固になったこともあり、却って実店舗に興味を持ってくれる人が増えた。ありがたいことに、演劇用小道具の依頼もずいぶんあり、その関係からアクセサリー以外の雑貨も手掛けるようになった。
さらに、比較的高価なオーダーメイドリングの注文も受けられるようになってきた。これは私の技量の向上が一番大きいのだけれど、それ以外にも長年の実績のおかげで「この店なら」と思ってもらえるようになったからだろう。
そういうわけで、隔週土曜日はオーダーメイドリングの相談のために時間を取るようにした。人生において大事な一場面である。お客様のために時間を取り、デザインの相談から素材の選び方まで全てに向き合い、最高の一品を作りたかった。
なので、オーダーメイドリングは受付から予約制である。主にネットで受け付けており、現在オーダーメイドリングを受けられるかどうかなども随時発信している。
確かそれは、春先のことだった。一つオーダーメイドリングを作り終え、無事にお客様に引き渡しを行った。次の注文を受け付けられる旨をWebに記載してから数日して、依頼が来たのだ。
内容は婚約指輪の依頼。選択肢の中から選ぶセミオーダーではなく、デザインから始まるフルオーダー。完成時期は八月希望。大まかな依頼内容を確認してから必須事項に目を通した私は、パソコンの前で動きを止めた。なぜなら、依頼者の氏名欄に記されている名前が「皇天馬」だったからだ。
同姓同名の別人、という可能性はある。というかたぶんそうだろうと思った。私は自分の店で手掛ける品に対して、一切の妥協をしているつもりはない。私が考え得る最高の物を、最高の品質でお客様に届けている。ただ、どうしたって資本の差というものは存在する。なので、私の店にしては充分高価な品々も世界的有名ブランドの宝飾店から見れば大した額ではない、という事態が発生する。
あの皇天馬が婚約指輪を作るとしたら。しかも、完全なフルオーダーで頼むとしたら。まあ、うちの店じゃなくてもっと有名なブランド品だろうな、と思う程度には皇天馬というのは世界的に活躍している人物なのである。
この名前で同姓同名とかあるんだな、と思いつつも、内容に不備があるわけでもない。現在依頼を受け付けているのは事実なので、承る旨の返事を送る。それからいくつかのやり取りを交わして、数週間後の土曜日にヒアリングを兼ねてオンラインで打ち合わせを行うことになった。
件の土曜日。店舗には「CLOSED」の札を掲げ、事務室として使っている部屋でパソコンの前に座る。遠方のお客様もいらっしゃるのでオンライン対応は可能だ、と告げれば依頼者の皇さんはそれでお願いしたい、と言っていた。住所としてはわりと近所だけれど、きっと忙しい人なのだろう。守秘義務についても念押しされたし、ちょっと特殊な職業の人なのかななんて思っていた。
予定時刻の十分前に、ビジネス用のWeb会議ツールを起動。数分後に皇さんのログインを確認し、定刻になってからミーティングルームを開放すれば、依頼者の皇さんの顔が画面に映った。
いや、本人。どう見ても皇天馬本人。
画面の中に映る人物は、どこを取っても皇天馬本人だった。同姓同名とかあるんだな、ではなかった。紛れもなく本人である。
比較的感情が表に出ない性質でよかった、と思いつつ依頼の礼を言えば、皇さんも頭を下げてこちらこそよろしく頼む、と逆に言われた。その言葉に、動揺していた自分に叱咤を入れる。相手がたとえあの皇天馬だったとしても、私のやるべきことは変わらない。お客様に最高の品物を届けるために、私は自分の持てる力で答えるのだ。
◆◆◆
「シンプルな指輪と言うと、この辺りでしょうか」
私は目の前の皇さんに、いくつかの指輪を並べる。難しい顔をしているのは、頭の中であれこれと贈る相手のことを考えているからだろう。
最初のオンラインの打ち合わせで、皇さんからおおよその話を聞いた。恋人に婚約指輪を贈りたいと思っている。世界に一つだけの指輪を贈りたいから、全てをフルオーダーにしたい。デザインなどに関してはプロの意見を聞きたいと思っている。真剣な言葉にうなずいて一つ一つに答えを返した。それから最後に、皇さんは厳しい顔をして言った。――このことは、絶対に他言無用で頼む。
お客様の守秘義務を順守するのは当然のことだ。特に、オーダーメイドリングの注文なんて色々と秘密にしておきたいことが多いし、最初からその点については請け負っていた。だけれど、恐らくこれは皇天馬だからこそ、なんだろうなと思った。よく考えるとこの情報が外部に漏れたら、それこそ一大スキャンダルになりかねない。そう思うと、少なくとも皇さんは私の店を信用してくれているわけで、それはとてもありがたいことだ。
私は大いにうなずいて他言無用を約束した。それから、隔週土曜日は皇さんのオーダーメイドリング専用の時間帯であり誰かが訪れることはないので、用事があればこの時間に来ていただければ、と伝えた。オンラインでの打ち合わせでも構わないけれど、実際の指輪を手にする必要もあるかもしれないし、と思ってのことだ。
すると皇さんは「そうなのか」と言ってうなずいていた。何かを考える素振りだな、と思ったら、「それじゃあ、次は店に行く」という返答だった。詳しい話を聞くと、どうやら皇さんは出来れば実際に指輪を見て色々と決めたかったらしい。ただ、小さな店だし他のお客様と顔を合わせる可能性を考慮して、オンラインでの打ち合わせが妥当と判断したという。だけれど、自分専用の時間帯があるなら問題ないだろう、ということらしかった。
幸い、天鵞絨町に皇さんがいること自体は、そこまで特異な事例ではない。最近では姿を見せることが少なくなったとは言え、天鵞絨町を歩いていたところでMANKAIカンパニーに用があると思われるだろう。うちの店自体、昔より人が増えているとは言え基本はオンラインだし、隔週土曜日は定休日のようなものなので訪れる人がそもそもいない。
皇さんに問題がないならそのように、というわけで。皇さんは、どうやって時間を作っているのかわりと頻繁に隔週土曜日にうちへ顔を出してあれこれと頭を悩ませている。
今日もその日で、皇さんは難航しているデザインについて考えるため、色々と参考にしようと指輪を眺めているのだ。
皇さんの趣味としては、わかりやすく派手で目を引くようなものが好みらしい。ただ、相手はあまり華美なアクセサリーをつけるタイプではないようなので、それならシンプルなもののほうがいいかもしれませんね、ということで落ち着いた。ただ、シンプルなものはシンプルなものでどれがいいのか、とさらに頭を悩ませているらしい。
「ちなみに、こちらがサンプルの石になりますので、色合いの確認にお使いください」
そう言って取り出すのは、皇さんが指輪に使用すると決めた石のサンプルだ。色を確認するにはちょうどいい。
指輪の素材としてはプラチナやゴールドだけれど、ゴールドは特に配合金属の割合で色が変化する。その辺りも含めて全体的なデザインが必要になるし、そこには当然どんな宝石を使うかも関わってくる。
皇さんのオーダーメイドリングは、デザインという点では中々難航している。ただ、幸いだったのは使いたい宝石がすぐに決まったことだろう。
*
デザインを決める前に、宝石の希望を聞いた。
婚約指輪に使う宝石の定番は、その硬度から永遠を象徴とするダイヤモンドだ。ただ、それ以外の宝石として、相手の目や髪の色、誕生石の宝石が選ばれることも多々ある。たとえば皇さんはオレンジの髪があざやかなので、サファイアやガーネットのオレンジ、アンバーやシトリンなどが挙げられる。
だから、定番のダイヤモンドなのかそれとも別の宝石がいいのか尋ねたのだ。もちろん、デザインを決めてから選ぶということもできるけれど、希望があるならそれに越したことはない。
――ペリドットが見たい。
皇さんは私の質問にきっぱりと答えた。力強い言葉に思わず瞬きしたのは、想定外の返答だったからだ。こういう時は大体、やっぱりダイヤモンドがいいとか、この色の石が見たいとか、この月の誕生石はどれか、と聞かれることが多い。ダイヤモンドではない特定の石の名前が出てくるのはちょっと意外だった。
とはいえ、希望があるなら応えるまでだ。皇さんはそれなりに宝石に詳しいのかもしれないし、と思いながら、ペリドットを持ってくる。
あざやかな、冴えた黄緑色をケースに入れて皇さんの前へ差し出す。すると、彼はしげしげと宝石を眺めて、それから小さく笑みを浮かべた。目をやさしく細めて、うっすらと頬に赤味をのぼらせて。白い歯をこぼして、あふれだす心をそのまま取り出すように笑った。
贈るべき相手を想っての笑みだと、わからないわけがない。今皇さんの心に思い浮かんでいるのは、彼がただ一人と定めた相手だ。これから先の人生を共に歩むと誓う相手だ。愛おしくてならない、そんな人に贈られる指輪を任されていることの幸運を、私はこういう時に強く感じる。たった一人のために、想いを形にして贈ろうとしている誰かの力になれること。それは、私にとっての幸福でもあった。
――これは確か、八月の誕生石なんだよな?
ペリドットを見つめていた皇さんが、思い出したように尋ねる。確かに八月の誕生石で間違いないのでそう答えると、ほっとしたように笑った。
――それならやっぱり、ペリドットがいい。あいつは八月生まれだし……何より、こんな風に明るい緑色の目をしてる。
愛おしそうに目を細めた皇さんは、独り言のように言葉を落とす。それは私に向けたものではなく、あふれでる心が声になったものなのだろう。
――本当に綺麗な、宝石みたいな目をしてるからな。あいつは綺麗なものを見つけるのが上手いけど、あれだけ綺麗な目をしてるならって納得しそうになるくらいだ。
唇にやさしい笑みを浮かべた皇さんは、やわらかく声を紡ぐ。芽吹いた若草のような、陽光の差し込む新緑のような瞳は、光が入るとキラキラと輝くのだという。それが好きで大切で仕方ないなんてこと、言葉にしなくたってわかる。
――宝石をはめ込んだみたいだとは思ってたけど、実際あるんだなって思ったんだ。
嬉しそうに皇さんが言った。その様子は、何だか無邪気な子どものようで、宝物を発見したみたいだった。愛しい人と同じ色の宝石と出会ったことが心底嬉しいのだろう。
皇さんの口ぶりから考えるに、恐らく相応しい宝石を探したのだと思う。贈る相手を想って、大事な人の指輪を彩るのにぴったりの宝石を、たくさんの宝石の中から選んだ。
――わかりました。それでは、おおむねデザインが決まったらペリドットを手配しますね。皇さんがこれだ、と思うものを選んでください。
大きく色が変わるということはないけれど、やはり石によって表情が変わるのも事実だ。直感というのも侮れないので、仕入れたペリドット中から皇さんが選ぶのが一番いいだろう。大事な人を思い浮かべて、何よりも大切な気持ちで選ばれたのなら、きっとそれは贈られる相手にとって最も相応しい石なのだから。
皇さんは、私の言葉に「責任重大だな」なんて言うけれど。唇に浮かんだ笑みは、くすぐったそうな誇らしさをたたえていた。
*
「ちなみに、相手の方のご趣味などはわかりますか」
ペリドットが決定した時のことを思い出していた私は、我に返ってそう問いかける。うんうん唸っていた皇さんは、私の言葉にスラスラと答えた。
「珍奇なデザインが好きだけどな。変な人形とか大喜びで持ってくるし、わりと奇抜な色とか柄の服も着る。ただ、そんなに大きなアクセサリーをつけてるわけでもないし、落ち着いた服装をすることもある」
なるほど、デザイン的な興味は多方面に渡る人なのかもしれない。シンプルを好む、派手な物が好き、といったわかりやすさではなく、独特の感性を持っているタイプのようだ。
「ここの店なら、たしかこれと、あとこの辺が好きだな」
気を取り直したように皇さんが言うのは、店で展開しているアクセサリーのシリーズだ。相手の方はうちのアクセサリーを好んでくれているとは聞いていた。皇さんが示したのは、北欧神話を元に制作した「ユグドラシル」シリーズと、シンプルモダンをテーマにした「monochrome」シリーズだった。
「……ふり幅がずいぶんある方ですね」
思わず感想をこぼす。「ユグドラシル」のほうは、神話がもとになっているのでデザイン性を重視して奇抜な装飾も多々ある。「monochrome」は反対にシンプルを追及しているので、基本的に白と黒で装飾はできるかぎりそぎ落としている。それぞれにどちらかが好み、というお客様はいるけれど、両方が好き、というのは珍しい。
三好さんみたいな人だな、と思ったのは、そういえば三好さんもだいぶデザイン趣味に幅のある人だからだ。ポップなものから和風なもの、メルヘンからインダストリアルまで、大体何でも好んでいる。それに、三好さんも確かこの二つのシリーズが好きだったな、と気づいてふと問いかけてみる。
「差し出がましいお話かもしれませんが、デザインに関してのアドバイスでしたら三好さんにうかがってみるのはどうでしょうか」
もちろん、私もアイディアは色々出しているし、仕事を放棄するつもりはない。ただ、似た趣味を持つデザイナーという存在がいるのであれば、その力を借りるのも一つの手だと思ったのだ。しかし、皇さんは何だか難しい顔をした。
「――いや。これはオレだけで決める。一成には相談しない」
きっぱりと告げられれば、私がそれ以上言うことはない。皇さんはやはり、自分の手できちんとデザインを考えたいのだろう、ということで私は「わかりました」とうなずいた。