今日の佳き日に




▼ 閉式


 結婚宣言に応える拍手を聞く四人は、それまでの厳かな雰囲気をぱっと切り替えた。いてもたってもいられない、といった風情で後ろの天馬と一成のもとへ駆けていく。

「天馬さん、カズさん、ほんとにおめでとう!」
「おめでと~! あとで、さんかくクンいっぱいあげる!」

 感極まった九門が抱き着いたかと思えば、三角もアタックする。一成が嬉しそうに二人を抱きしめるし、当然天馬も巻き込んだ。椋は机に結婚証明書を戻してから、幸の腕を引いてわちゃわちゃの一塊にくわわって、夏組は全員でもみくちゃになっている。
 嬉しい。楽しい。幸せ。夏組の誰もが心からの笑顔を浮かべて、きらきらと顔を輝かせている。そんな様子に、観客席のメンバーはほほえましそうな楽しげな表情を浮かべた。
 天馬と一成が幸せそうなのはもちろん、夏組の四人まで心底の幸せを感じているのは、まさしく夏組らしいと言えた。大事な夏組が幸せでいるのなら、その手伝いを自分たちができるのなら。目いっぱいの幸せを全身で表して、一緒に幸せになるのが夏組だ。

「ほんとにおめでとーッス!」
「長かったよな、マジで」

 拍手が少しずつ引いていき、大きな声で祝福を送ったのは太一た。続いた万里はしみじみつぶやく。かなり初期から二人の気持ちに気づいていたので、くっつくまでが長かった、という意味もあるし、結婚報告から結婚式までそれなりに時間が経っている、という意味もある。

「二人とも、海外を飛び回っていて忙しかったからな」
「まあ、その分時間はあったから、いろいろ調整はできたよね」

 ガイがおだやかに言って、至がうんうんとうなずく。確かに、結婚報告後の二人は映画出演もあって怒涛の忙しさだった。文字通り世界中を飛び回っていたのだ。スケジュールは過密で、オフなどもってのほか。ただ、そのおかげでずいぶん先の日取りでの結婚式となったのだ。
 カンパニーのメンバーは、何が何でも出席するつもりではあったけれど。先に日程を押さえておくことができたので、スケジュールを調整しやすかったのは事実だった。

「本当に、忙しい中出席してくれてありがたいと思ってる」

 観客席の声に答えたのは天馬だった。夏組はようやく満足したようで、体を離してにこにこ並んで舞台の上に立っている。天馬は観客席へ真っ直ぐ視線を向けて、あらためて感謝を口にする。

「みんな忙しくしてるのはわかってる。時間を取るのだって簡単じゃなかったはずだ。それでも、こうして一人ずつに見届けてもらえたことが嬉しい」
「うん。マジでめっちゃ感謝してるよん! みんなの時間を使って、今日ここに来てもらえて。たくさんおめでとうって気持ちをくれて、本当にありがとう」

 天馬の言葉に、一成も続いた。いつもの明るさに似て、もっとやわらかい響きをした声で告げた言葉は心からのものだろう。

「二人のことをお祝いしたいっていうのは、私たちの願いでもあるんだよ。だから、私たちこそすてきな結婚式に招待してもらえて嬉しいな」

 二人の言葉を受け取って答えたのは監督だった。それは参列したメンバー全員の気持ちでもある。天馬と一成が心から、彼らのやさしさゆえ掛けてくれた言葉だとわかっているけれど。忙しさを押してでも駆け付けたかったのは、何があっても出席したかったのは、自分たちの希望でもあるのだ。

「二人らしい結婚式ですごくわくわくしたし、夏組のみんなもすてきだったよ」

 にこにこと監督が言うと、ぱっと反応したのは一成だった。「でしょ、夏組のみんな、マジですごくね!?」と顔を輝かせる。実際、今回の結婚式は夏組の協力が欠かせなかった。

「衣装は当然ゆっきー作だけど、小物系とかも全部メイドインゆっきーだもん」

 目をきらきら輝かせて言うのは、幸が作ってくれた様々なものたち。結婚式を行うにあたり、服はオレが作る、と幸が手を挙げた。ただ、それだけに留まらず指輪を入れるリングケースも結婚証明書で使った羽根ペンもメインの制作は幸である。

「証明書の台なんかは三角が作ってくれたしな。必要な資材も三角がつてで手に入れてる」

 一成の言葉に、天馬も続く。夏組それぞれが担ってくれたことならよくわかっていた。三角は多くの舞台に出演していることから、案外顔が広い。くわえて動物ネットワークも持っているため、必要なものの手配には一役買っていた。

「くもぴは今回、即興劇の裏方担当してくれて、いっぱい走り回ってもらっちゃった!」

 即興劇においては、照明や音響も自分たちで行っている。ただ、当然即興で進むので明確な役割分担はできなかった。とはいえ、魔法担当の九門と三角が一番舞台から離れる時間が多いはずだ、という予想はできた。結果、九門が「なら、メインはオレってことにして、オレがだめな時だけバトンタッチする感じにしよ!」と申し出てくれた。

「椋はスケジュール調整や、全体の進行にも目を配って準備してくれたよな」

 出席者はもちろん夏組も全員多忙だ。期日通りに物事を進めるため、夏組の役割分担や進行にも椋は手腕を発揮していた。細々とした必要なものもしっかり把握して準備に臨み、滞りなく物事が進むよう手配してくれた。それぞれとの橋渡しも努めて、現場作業に邁進しつつ、椋が上手く進行してくれていたことは夏組全員知っている。

「デザインに関しては、一成が全部手掛けてる。さすがは一成だって何回も思ったし、アイデアを見せてもらえるのが楽しかった」

 夏組それぞれの貢献をたたえた天馬は、当然一成のことを口にする。
 今回の結婚式では、結婚証明書はもちろん、招待状のチケットなどデザインにまつわるものは全て一成制作だ。一成はリビングで天馬とソファに座りながら、「こんな風にしよっかな!」とスケッチブックを広げて見せてくれた。一成の見ている世界をのぞきながら、一緒にあれこれ考えられることが天馬には嬉しかった。
 その言葉を聞く一成は、ぴかぴか笑顔を輝かせて口を開く。言うべきことはとっくに決まっている。

「全体監修はテンテンなんだよねん。めっちゃ忙しいのに、それぞれからの質問とかにばっちり答えてくれててさ。かっこよくていっぱいときめいたもん」

 制作や進行は現場で各自が対応していたし、椋が橋渡しになっていてくれた。ただ、全体を見通して監修する役目が必要だった。
 それぞれが自分なりの意見を持っているからこそ、真剣になった結果、どちらも引けなくなることもある。そんな時、天馬がゴールを示す。目指すべき方向を示し、「こっちだ」と導く役目は天馬が負っていた。「ここはどうしたらいいか」なんて質問に、真剣な顔で答える天馬に一成は何度も胸をときめかせていた。
 一人ずつが自分たちの力を持ち寄って、作り上げたのが今日の結婚式だ。あらためて、天馬も一成もそれを認識する。まるで夢のような今日という日は、大好きな人たちの手によって実現した。夏組もMANKAIカンパニーのメンバーも、誰一人欠けても今日のこの瞬間は訪れなかった。
 それぞれの気持ちの集大成がこの結婚式だ。胸をときめかせて始まった今日は、大事な思い出をいくつも生んで新しい一ページを刻んでいった。これから先、何度も思い出す瞬間ばかりの今日だった。
 ただ、プログラムなら頭に入っているから、MANKAIカンパニー全員からの証人を得たことで、結婚式は無事に役目を果たしていることも理解していた。だからもう、式はお開きの時間を待つだけであり、やるべきことはあと一つだ。
 天馬は大きく深呼吸をしてから、一成へ目をやった。ばちり、と視線が重なるのと同時に一成はにっこり笑みを浮かべる。天馬の考えはすぐに伝わった。天馬の手をぎゅっと握ると、こくりとうなずく。
 その様子に、夏組も自然とあとに続く。天馬や一成と横並びになって、同じように隣同士で手をつないだ。夏組全員がきちんとそれぞれの手を握っていることを確認して、天馬は大きく深呼吸すると声を発した。

「本日は、参列いただき、誠にありがとうございました!」

 今まで何度もそうしてきたように、こうして幕を閉じてきたように。夏組はそろって頭を下げる。

 再び拍手が会場を包む。夏組への惜しみない賞賛だ。もっとも、しばらくすれば少しずつ収まっていったので、夏組はゆっくり頭を上げる。その瞬間だった。
 軽やかな破裂音が鳴るのと同時に、金銀の紙テープやカラフルな紙ふぶきが劇場に舞う。観客席のあちこちからクラッカーが鳴らされたのだ。予定には何一つなかったので、夏組は反応できず固まっている。
 その姿に、観客席から弾けるような笑い声が響き、同時に声が上がる。

「おめでとう、天馬くん、一成さん!」

 晴れやかな笑顔を浮かべて咲也が言う。心からの喜びではちきれてしまいそうな。咲也の持つ快いものを全て詰め込んだような表情だった。

「ようやくって感じだな」

 心からといった風情で続いたのは万里だ。今までずっと、近い場所で二人を見守ってきたからこそ、今日という日の意味を噛みしめているのだろう。

「二人をお祝いできて、本当に嬉しいんだ」

 おだやかな微笑で、紬は告げる。離れてしまう選択肢は確かにあって、一度はそれを選びかけても、二人は手をつなぐことを選んだ。だからこその今日だと知っている。
 各組リーダーからの言葉に、観客席からも声は続く。「おめでとう」「幸せにね」「本当によかった」「嬉しい」と、二人を祝福する言葉ばかりだ。
 くわえて、結婚式の招待状を受け取ってからせっかくなのでサプライズの準備を進めてきたことも教えてくれる。夏組のことなので、全力で結婚式を開催することはわかっていた。だから、こちらからもお返しを用意しよう、という意味だった。
 驚きはしたものの、もちろんその気持ちが嬉しい。だから夏組はにこにこしているし、天馬と一成はくすぐったそうに視線を交わし合っている。その様子を他のメンバーはほほえましく見守っていたのだけれど、にぎやかに声を上げたのはシトロンだった。

「フラワーシャワーも用意してあるネ! どんどこ配るヨ~!」

 そう言って、座席に置いてあったらしいカゴを手に取る。中には花びらが封入された透明な袋が並んでいた。どうやら、夏組には内緒で各組せっせと作っていたようだ。
 シトロンをはじめとした春組が率先して配り歩いて、あっという間に全員へ行き渡る。すると、花びらの袋を持った咲也が朗らかに舞台上へ声を掛けた。

「夏組のみんなの分もあるんだけど、どうかな?」

 質問は、天馬と一成以外の夏組四人へ向けてのものだ。これから、本日の主役である二人が退場する。その門出を祝うための花びらだ。誰より夏組の四人が祝いたいだろう、と思っての問い。
 幸たち四人は顔を見合わせると、すぐに笑みを浮かべてうなずきあう。
 椋が「ボクたちもやりたいです!」と元気よく答えたあと、「オレたちも用意してたんだ~」と三角が続く。その言葉を合図に、九門が舞台袖へ走っていく。

「まあ、花びらじゃないんだけど」

 淡々とした調子で言った幸は、さらに詳細を教えてくれる。夏組が用意したのは、いわゆるコンフェッティシャワーで紙ふぶきのことだ。きらきら光る紙は三角形をベースとしており、ときどきハート形が混じるものとなっているという。
 天馬と一成は「退場の時も期待しててね!」と言われていたものの、詳細は知らなかった。なので、「そうなのか」「絶対きれいじゃん」と感想を口にしてソワソワした空気を流した。

「はい! これ、みんなの分!」

 舞台袖から戻ってきた九門は、明るい笑顔で袋から紙製のテトラパックを取り出した。受け取った三角たちが観客席へ降りて、MANKAIカンパニーのメンバーへ渡していく。同時に夏組四人も咲也から袋を受け取り、準備は全て整った。
 夏組は通路側の端、もっとも二人に近い場所へスタンバイし、他のメンバーも立ち上がって、袋の封を開けている。あとはもう、今日の主役が退場する瞬間に投げかけるだけだとわかっている。
 天馬と一成は視線を交わしてから、笑みを浮かべてうなずくと観客席に降りてくる。

「おめでと」
「おめでとう、天馬くん、カズくん!」
「おめでと~!」
「天馬さんもカズさんも、おめでとう!」

 夏組四人の言葉を合図にして、周囲からもにぎやかに声が上がる。真っ直ぐ先を見つめた天馬と一成は、まばゆい表情で一歩踏み出した。同じ歩調で通路を並んで歩く二人には、色とりどりの祝福が降り注ぐ。






END