「state your answer」御影密:予備校に通う高校生(10代・学生)
問題。全身黒ずくめで片目が隠れた男は何者か。
予備校帰りによく寄るコンビニのイートインスペースで、ホットスナックのチキンを食べてた。帰ったら夕飯あるけど、家まで持たないし。
行き交う人をぼんやり見ていたら、大通りから一本入った路地裏でその人を見掛けた。ハイネックのシャツにロングコートとズボンの全てが真っ黒。片方の目は、銀色めいた髪の毛で隠されている。夜の中から現れたみたいなその人は、静かな足取りで道の奥へと消えていった。
思わず目が追いかけていたのは、やたらと雰囲気があるというか、まるで何かのキャラクターが現実になったみたいだったから。とても普通の人には思えない。黒ずくめの格好も片目だけが隠されてるのも、何かの意味があるように思える。
一体あの人は何者なのか。某かのスパイとか、それとも特別な力を宿した能力者か。いろんな想像が羽ばたいてしまい、荒唐無稽な選択肢が浮かんでは消える。同時に、一体何者なのかという問いがずっと頭に浮かび続けていた。
集中的に模試対策やってたから、何か頭がそういうモードだったんだと思う。何見ても問いと答えがセットになる期間だった。ただ、この問いに正解はない。本人に確認しようがないから、答え合わせができない。
一回目撃しただけなら、たぶん「インパクト強い人がいたな」って感想だけで済んだと思う。だけど、初めて見掛けて以降、たびたび目にする機会があった。予備校の帰り、コンビニで何か食べてる時に高確率で。
たぶん、行動時間帯がかぶっているとか、そういうことなんだろう。たまたま時間が重なるからっていうだけで、特に深い意味はない。わかってても、ようやく解放されて好きなものが食べられる時間っていうのもあって、何となくあの謎の人を見掛けたらワクワクするようになっていた。
何回か見た感じ、黒ずくめがデフォルトじゃないってこともわかった。黒っぽいコートのこともあれば、だぼっとした灰色パーカーのこともある。暑くなってきてからは白Tシャツのことが多め。ただ、片目が隠れているのは同じだし、いつもミステリアスな雰囲気が漂っている。そういうことがわかる程度には、結構目撃している。でも、さすがに毎回必ず見られるってわけじゃないから、もしも見掛けたら明日はツイてるかも、とか思うようになった。
そういう風にささやかな楽しみを見つけながら、何だかんだで予備校通いは続いている。通い始めた頃はようやく春って感じだったのに、気づけば夏。コンビニでのチョイスも、アイス系が増えてきた。
今日選んだのは、ちょっと高いバニラアイス。お腹には大してたまらないけど、試験対策頑張ったからいいものを食べたかった。こういうのは空腹よりもメンタルに効く。受験生、精神的なケアも大事。
予備校のすぐ近くじゃないから、同じところに通ってる学生にはほぼ出会わない。おかげで、リラックスしてアイスを食べられるし外の様子も観察できる。
いつも通り、イートインスペースに座って窓の向こうを眺めた。雑多な街の裏通りがよく見える。夜の暗さにお店の明かりが灯って、大通りとは違った雰囲気がある。
その様子をぼんやり見てるけど、何となく探しているのは例のあの人だ。黒ずくめの格好がやたらと似合う、片目を隠したあの人。最近見てないから、そろそろお目にかかりたい。もうすぐ本番の模試だし、ゲン担ぎ的に。
そんなことを考えながら、ちまちまスプーンを動かしていると、コンビニのドアが開いた。むっとした暑さが流れこんでくる。
お客さんが来るのは当然なので、特に気にしていなかったけど。本当に何の気なしに視線を上げて、ふとドアを見て固まった。ふらりと店内に入ってきたのは、だぼっとした白Tシャツに片目を隠した銀髪。間違いようもなく例のあの人だった。
突然の登場に、なんで!?と頭が混乱する。いやそらこの辺でよく見掛けるんだから、客として来てもおかしくはない。おかしくはないんだけど、まさかコンビニで遭遇するとは思わなくて予想外の事態すぎた。
あくまで見てるだけで、自分の行動範囲にかぶることはないと思ってた。だから、こんな風にテリトリー内で遭遇するのは、何ていうか画面の向こうのキャラクターが現れたみたいな、そんな気分だ。
心臓がドキドキと早鐘を打ち始めて、全身の神経が店内を歩くその人に向かう。顔には出さないけど、不自然にならない程度に席を移動して、それとなく店内の様子をうかがった。よかった、イートインスペース使ってるお客さん他にいなくて。
その人は、ふらふらとした足取りで店内を歩く。棚の影に隠れてしまうと何をしてるのかはわからないけど、動きがないのでどこかで立ち止まったらしい。目的の品物を見つけたのかも。
それからしばらくして、通路からレジの方へ出てきたな、と思ったらその人は袋を一つ抱えていた。大きな袋だったから商品もわかる。マシュマロの大入り袋だ。
マシュマロ?とちょっとびっくりする。大切そうに抱えているし、好物なのかもしれないけど、何かちょっと意外だった。もっとクールなものが好きそうなイメージだったから。でも、ミステリアスな雰囲気なのにマシュマロが好きっていうのも、いい感じのギャップなのかもしれない。
そんなことを思いつつ、レジへと注意を向ければちょうど会計が終わっていた。そしたらもう、イートインスペースを通り過ぎて、店の外へ出るはずだった。だけど、その人はドアへ向かう途中でふと立ち止まる。そのまま、じっと視線を向けるのはイートインスペースで、つまりこっちをばっちり見ていた。
え、なに、見てたのバレたとか!?って、さっきとは別の意味で心臓がドキドキする。いやでも、顔には出してないしまさか視線だけでわかるわけない……ないよな!?
ひとまず自分を落ち着かせるためそう言い聞かせて、もしかしてここでマシュマロ食べたいのでは?と気づく。単にイートインスペース使いたいだけかもしれない。
というわけで、空いた椅子に置きっぱなしにしていたリュックを移動させようと、ストラップを引いた瞬間。閉め忘れていたらしいファスナーから、一番上に置いていたスマホが滑り落ちる。
あ、やばい。それなりに高さもあるし壊れるかも、という可能性にギクリとするけど、とっさに体が動かない。叩きつけられるスマホを見ているしかできない、はずだった。
しかし、予想は覆される。
落ちる、と思った次の瞬間、スマホは見事に手の中にキャッチされていた。あの、片目が隠れたミステリアスな例の人の手の中に。
え、なにどういう反射神経!? 普通キャッチできるかこれ!? 絶対常人の動きじゃなくない?
リュックとの距離を考えると、どう考えても異常な反応速度だった。だって、こっちが全然動けないのに、一瞬で距離詰めてちゃんとスマホをキャッチしているのだ。瞬きしたら目の前にいるとか、現実で体験することある? 一体どういう反応をしてどうやって動いたのか、さっぱりわからない。いや本当に何が起きたの? 一瞬寝てた?
「――はい」
軽くパニックに陥っていると、例の人は静かな声でスマホを差し出してくれた。直接声を聞けるという事実にびびりつつも、どうにか受け取ってお礼を言う。すると、その人はじっとこっちを見てから、ふっと唇に笑みを浮かべた。一瞬ドキッてしたけど、すぐに何でもない顔に戻ってコンビニを出ていった。
思わずぼうっと背中を見送ったけど、あの人への困惑と謎がますます深まって、頭の中にはいつものあの問いが浮かんでくる。
問題。全身黒ずくめで片目が隠れた男は何者か。
解答。とりあえず常人離れした運動神経を持ってることがわかったので、やっぱり只者じゃないと思います。