Happy ever after――Scene1.calling
――やあ、久しぶり。この前のドラマ撮影以来かな。珍しいね、電話なんて。ああ、時間なら大丈夫だよ。舞台が終わったばかりだからね。少し余裕があるんだ。
はは、ありがとう。アクションには力を入れてるからね、そう言ってもらえるとやり切った甲斐があるな。いや、本当に……ああ、今度その辺りの話を詳しく聞きたいと思ってるよ。でも、忙しいんじゃないかな。天馬くんは、今をときめく話題の人じゃないか。
まあ、天馬くんの顔はどこでも見られるけどね。配信ドラマもずいぶん好調だろう。アメリカの会社が制作してるんだったかな。八十カ国での配信だって聞いたけど――へえ、百二十カ国に増えたんだね。
ということは、それだけの人間が天馬くんの演技を見てるわけだ。最初はあまり印象に残らない役だと思ってたけど、あれも仕込みだったとはね。はは、そんな意外そうな反応しなくてもいいじゃないか。配信ドラマはそれなりにチェックしてるし、面白そうなものなら見てるさ。
天馬くんが出てるから、というのも理由の一端ではあるけど。お礼を言われるようなことじゃないさ。勉強にもなるし、ロケ撮影の話なんかはいろいろ聞きたい――ん? 今日はその話じゃないって?
いやいや、わかってるよ。世間話のためだけに電話を掛けてきたんじゃないってことくらい。今天馬くんが――いや、天馬くんたちか。話題になってる理由はよくわかってる。
電話でというのも味気ないけど、あらためて言わせてもらおうかな。本当なら、直接顔を見て言いたいところだけど、お互い忙しい身の上だ。ひとまず電話で失礼するけど――。
天馬くん、三好くん、結婚おめでとう。
ああ、三好くんは近くにいるんだろう? わざわざ代わらなくても――はは、聞こえたよ。本当にきみたちは、二人そろうとにぎやかだね。ああ、ありがとうって伝えておいてくれるかな。
まあ、二人の結婚自体はそこまで驚くことじゃなかったけどね。はっきり公表したことには驚いたけど、結婚に関してはうなずくところしかないよ。仲がいいことはよく知ってたし、ずっと二人で一緒に暮らしてるし。最近はみんな薄々気づいてたんじゃないかな。天馬くんたちも隠さなくなってきてたしね。
とはいっても、いざ同性婚が可能になったとしてすぐ公表するとは思ってなかった。もう少し時間が経ってからかなと思ってたんだけど、予想が外れたな。
まあ、隠しておいても仕方ないかもしれないけど。早く公表した方が、堂々とお互いをパートナーとして紹介できるわけだし。長い間、ずっと黙ってきたんだろう?
いつからってほどはっきりとはしてないよ。「浅き春のカノン」撮影中は、さすがに本当にパートナーだとは思ってなかったからね。ただ、それから何度か共演する機会があって、プライベートの話を聞くようになっただろう。そういうものを積み重ねるたび、二人がお互いのことを大切にしてるなってことを、強く感じるようになっただけだよ。
ああ、そうだね。そのくらいかもしれない。……さては、天馬くんたち隠すつもりがなくなってきてただろう? いずれ公表するっていう算段で動いてたわけか。ずいぶん前から、この日を待っていたんだろう? それなら、やっぱり直接顔を見ておめでとうと言うのが筋だな。なにせ、息子の結婚なんだから。
はは、懐かしいだろう。でも何だか、あらためて思い出してたんだよ。天馬くんと初めて共演した舞台は、いろいろと印象深かったこともあるし――連日天馬くんと三好くんの結婚報道が流れていれば、昔を思い返すきっかけなんて山ほど転がってるからね。
本当にずっと流れてるんじゃないか。大きな事件がないからということもあるし、平和な証拠だとは言えるよ。それぞれの代表作から二人が共演した作品、今までに受賞した賞の数々だとか――本当にきみたちは話題に事欠かないな。だからこそ、よけいに騒ぎ立てるんだろう。同性婚が可能になって、初めて公表したビッグカップルだから。
考えなしに公表したとは思ってないさ。二人のことだから、よく考えた上での結論なんだろう。でも、少し思ってしまうところもあるよ。もう少し落ち着いてから、ひっそりと公表する道もあったんじゃないかなんてね。まあ、天下の皇天馬の結婚報告なんて、どう努力してもトップ記事は免れないか。
だからこんなに大騒ぎになってるわけだ。あらゆるメディアで、天馬くんと三好くんの結婚について取り上げてる。二人が恋人を演じたという点で、「浅き春のカノン」も再び注目されてる。それは喜ばしいことだけど――だからこそ、私のところまで取材が来たんだろうね。
ああ、天馬くんも見てたのか。生中継だったらしいけれど、よく見られたね。はは、別にそこまで苦じゃないから気にしなくていい。あれくらいなら慣れてるよ。いくら出演者が少ないとはいえ、わざわざ私へコメントを求めに来る人たちのご期待には添えなかっただろうけれど。
作中では、はっきりと二人の関係を否定するのは私だけだったからね。だからこそ、私のコメントを取ろうとしたわけだ。あの頃とはずいぶん時代も変わったっていうのに、まだまだ旧時代の思考というのは根深いものだと感心したよ。一定以上、同性婚への否定的意見は需要があるということかもしれないけど――役と役者が同じ考えを持ってるわけじゃないだろうに。
何を期待されてるかくらい、もちろんわかってたよ。だからって、期待通りのコメントをするわけないだろう? 台本も渡されていない舞台で口にする言葉なんて、自分の心に従うまでだ。
ああ、天馬くんたちなら充分理解してるだろう。私が素直に、求められるコメントを言うような人間だと思うかい。はは、その通り。空気が読めるということは、無視することも容易いんだ。その辺り、私への理解が足りなかったと言わざるを得ないな。取材不足を恨んでくれとしか言えないだろう。
SNS? ある程度の反応があったとは聞いてるけれど……へえ、そんなことになってるのか。これは思いがけない幸運というところかな。
まあでもきっと、三好くんたちの存在が大きいんだろう。SNSの扱いは三好くんがお手の物だし、きみたちに好意的な人も多い。私はあまり投稿もしないしね。チェックはするし、流行りは押さえているけれど、自分から話題を提供するタイプではないから。
二人や夏組、MANKAIカンパニーのファンが発端なのかな。はは、何ともきみたちらしいと思うよ。天馬くんと三好くん、二人の歩いてきた道の答え合わせだな。
未だに反対する人間はいるだろう。受け入れられない人間も、心無い言葉を口にする人間もゼロじゃない。だけれど、きみたちの元にはそれより多くのエールが届いただろう。もう少し前なら、もしかしたら悪意の方が大きかったかもしれない。だけれど、もうそんな時代じゃないんだ。
ん? ささやかなきっかけになれたなら嬉しいとは思うけれど――後押ししたのは私じゃないよ。夏組やMANKAIカンパニーの存在があったからこそだ。もちろん、お礼を言ってくれるのは嬉しいし光栄に思うよ。でも、これは天馬くんと三好くんが勝ち取ったものだろう?
はは、言っただろう。芝居をする場面じゃないなら、私の言葉は自分の心に従ったまでだよ。
ああ、そうだね。これは二人が二人として、今日までの道を歩いてきたからこその結果だと思う。だから、心からおめでとうと言わせてほしい。本当に、きみたちが人生をともにすること、それを公表して祝福を贈られたことが嬉しい。
やっぱり今度、時間を作るよ。直接おめでとうと言いたいし――それに、二人に渡したいものがあるんだ。楽しみにしていてほしい。