Happy ever after――Scene3.message




 行きつけの喫茶店へ向かおうと、自宅を出た。さっきまでチェックしていたスマートフォンをポケットにしまい、数メートル進んだ時だ。どこから現れたのか、カメラやリポーターたちにどっと囲まれた。
 水瀬は一瞬驚きを顔に浮かべたものの、すぐに落ち着いた表情を浮かべる。突撃取材は初めての経験ではないし、理由ならおおむね想像はついていた。
 向こう見ずだった若い時分と違って、今では立ち回りもずいぶん上手くなっているのだ。スキャンダルになりそうなことにもとんと縁がないから、自身のことではないだろうと思った。何より、今世間を最もにぎわせる話題は充分承知していた。

「水瀬さん、皇天馬さんと三好一成さんの結婚についてコメントをお願いします!」

 リポーターの一人が叫ぶように言って、同時にカメラのフラッシュがたかれる。やっぱりこの話だったな、と思いながら水瀬は自身を囲むマスコミへ視線を向けた。
 雑誌記者に地上波や衛星放送、Web番組の取材クルー。様々な媒体が狙っているのは、つい先日結婚を公表した天馬と一成についてのコメントである。
 同性婚が法律で可能となり、幾人もの同性カップルが婚姻関係を結んだ。芸能界でも例外ではなかったものの、ほとんどは秘密裏に行われている。公表しているカップルはいても、あまり名前が知られていないからか、そこまで大々的に報じられることはなかった。
 しかし、そんな中で天馬と一成の結婚が突如として発表された。二人とも抜群の知名度を誇る人物である。世間は瞬く間にこの話題で持ち切りになったし、日本はおろか世界中に二人の結婚は伝えられてあっという間に時の人となった。
 ただでさえ、毎日どこかしらで顔を見かけるような存在である。くわえて、結婚についてあらゆるメディアが報じており、四六時中天馬と一成についての情報が入ってくるような現状だ。
 もっとも、全ての人が諸手を挙げて迎え入れたわけではない。同性愛への根強い忌避感は健在で、表立って嫌悪を口にすることはなくても、二人を心配する素振りをしながらひっそり毒を潜ませるような発言もあった。
 裏側にはマイノリティへの差別意識が見え隠れしており、二人の結婚は間違いではないか、といったことをオブラートに包んでコメントするのだ。
 世界的にも有名で才能あふれる二人が、同性を選ぶなんてもったいない。ふさわしい相手は別にいるはず。どうせ長くは続かない。すぐに離婚することになる。今からでも考え直すべきだろう。これはあくまで二人を思ってのアドバイスなのだ、と悪びれもなく主張する人間もいた。
 厄介なことに、そういった人たちの中には発言権が強い者も多く、一つの世論を形成しそうな雰囲気があった。
 だからなのだろう。迎合するように、二人の関係をいぶかしむコメントを探す向きがあったのは水瀬も理解していた。だからこそ、自分のもとに取材陣が訪れたことも。

「『浅き春のカノン』でも共演されていた水瀬さんであるからこそ、お二人の結婚に思うことがあるのでは?」

 先ほどとは別のリポーターがそう言って、マイクを突きつける。水瀬は少し考えたあと、ゆっくり歩き出した。閑静な住宅街で、こんな風に取材陣を一箇所に留めておくのは得策ではないだろうと思ったからだ。
 それに、喫茶店へ行くという予定を変更するつもりはなかった。店主は水瀬のこともよく知っているから、取材陣への対応もお手の物である。ある程度相手をしてから、喫茶店へ避難することにしよう、と密かに決意した。

「『浅き春のカノン』での水瀬さんの演技は素晴らしいものでした。だからこそ、結婚発表に対しても水瀬さんならではの視点でお答えいただければ――」

 落ち着いた口調でいながら、らんらんとした目をして問いかける。その意図は、水瀬も理解していた。

「浅き春のカノン」は、世界的に有名な染井芳暢監督が長い沈黙を破って、久方ぶりにメガホンを取った作品である。事前の期待に違わない傑作として、公開後はあらゆる賞にノミネートされ、輝かしい成果をいくつも残した。出演者である水瀬の知名度もそれまでと比べものにならないほど飛躍したし、現在の活動につながるきっかけと言えるだろう。
 その主演を務めたのが天馬と一成だったし、二人が恋人同士を演じたことから、結婚報道後はあらゆる媒体で言及されることになった。すでに鬼籍に入っていた染井監督の功績も同時に語られることになり、水瀬をはじめとした染井監督ファンには嬉しい副産物だと言えた。
 もっとも、今回マスコミが水瀬に突撃取材を敢行したのは、単なる出演者だからという理由ではない。どうにかして水瀬から引きずり出したいのは、二人の関係に懐疑を向けるコメントだ。
 一体どうして水瀬なのかと言えば、「浅き春のカノン」において二人の関係を徹底的に否定した人物を演じているからだ。
 駆け落ちした二人に対して、そんなものは一時の感情で間違いなのだと、諭すように言葉を向けた。そんな役を演じていたし、年代的にも同性愛に対して忌避感を抱く人も少なくない。
 水瀬自身のシニカルな性格が周知されていたこともあり、同性同士の結婚に対して冷笑的なコメントを残す可能性が高い、と思われたのだろう。
 天馬と一成、二人が恋人を演じた映画の出演者が、実際の二人の結婚に対して疑問を呈する。同性愛を忌避する層からすれば、心強い援護射撃になるはずだ。だからこその、今回の突撃取材である。

「そうですね」

 ゆっくりと歩きながら、水瀬は口を開く。閑静な住宅街の昼下がりだ。歩道はないものの、車が通ることも少ない道なのでマスコミを引き連れて歩いてもあまり問題はないだろう。
 近隣住民からすれば迷惑極まりないだろうけれど、高級住宅が多いこともある。防音はしっかりしているし、通り過ぎるだけなら道路での騒ぎなど、たいして気にしない人たちが多いことは知っていた。

「天馬くんと三好くんが結婚を公表した、と聞いた時は驚きました。本当に」

 しみじみとした口調で、水瀬は言う。
 二人が特別な関係であることは察していたから、結婚自体に驚きはなかった。ただ、公表するとは思っていなかったから驚いたことは事実である。婚姻届けを提出したとしても、特に公表はしないのではないか、と予想していたのだ。

「特に何かそういった話があったなんてことは――」
「ないですね。親しくはしていますが、そういう話をする間柄ではありませんでしたし」
「では、何か思うことがあるのでは……」

 期待に満ちたまなざしで問いかけられて、水瀬は笑みを浮かべた。皮肉げなものではなく、心底の喜びをたたえたような、水瀬にしては珍しい類のものだ。リポーターが一瞬怯むものの、構わず水瀬は言った。思うことなんて、たった一つに決まっていた。

「ええ。なんておめでたいことかと思いましたよ」

 きっぱりと告げる。取材陣が何を求めているかなんて、よくわかっていた。二人の結婚をいぶかしんで、間違っていると言ってほしいのだ。それを求める人間がいるから、迎合するようにコメントしてほしいのだ。わかっているから、いっそう晴れやかに水瀬は言う。

「どう見てもお似合いの二人でしょう。そろって並ぶとなんて絵になる二人かと思いましたし……性格的にもよく合ってますよ」

 水瀬の頭に浮かぶのは、天馬と一成の姿だ。
 初めて共演した時は、「あの皇天馬か」と思った。噂はいろいろ聞いていたから、さてどんなものかと思えば、芝居に対してどこまでも真摯で、強い意志を持つ役者だった。打ち解けてくれば、案外子供っぽいところも見え隠れしてほほまえしいと思ったものだ。
 一成のことは、天馬の話からあれこれ聞いていた。初共演の時もその印象は変わらず、にぎやかで面白い人間だと思った。しかし、芝居や人となりに触れていくうちに、芯の部分のやさしさに気づいていく。
 プライベートでの付き合いが増え、二人がどんな人間なのかをより深く知っていくうちに、水瀬は理解する。

「三好くんは、天馬くんをこの上もなくよく理解している。いつだって最適な手助けのできる人です。天馬くんも、三好くんにとって心強い味方ですね。何があっても前に進むのだと、手を引いてやれる」

 夏組やカンパニーのつながりの強さなら、よく知っている。ただ、その中でも天馬と一成の結びつきは、どれとも違った形をしていた。
 二人がそろっていれば、二人でともにいれば、何だって立ち向かえる。何だってできる。揺るぎのない信頼で、天馬も一成も思っていた。
 あなたがいれば、未来は明るい。お互いを未来の明かりにして、どこまでだって歩いていこうと、意志や決意よりもっと素直に、ただ自然に知っている。そんな二人だった。

「だから、天馬くんと三好くんの結婚はめでたい話だなと思っています。お似合いの二人が手を取り合ったなんて、嬉しい話じゃないですか。まだちゃんとお祝いを言えていないんですが」

 肩をすくめてそう言うと、取材陣は戸惑ったような空気を流す。それはそうだろう。求めているものとは正反対のコメントなのだから。
 これで諦めて引き下がってくれればいいんだけれど、と思いつつ水瀬は相手の出方を待つ。喫茶店まではまだ少し距離がある。果たして辿り着くまでに解散してくれるだろうか。まあむりだろうな、と内心で思っているとリポーターが口を開く。

「――ですが、同性同士での結婚ともなれば違和感を覚えることもあるのでは。特に水瀬さんの年代ではそのような人が多いですし、いくら認められたとはいえ、心理的に抵抗を覚えるんじゃないですか」

 あまりにもストレートに尋ねられて、水瀬は目を瞬かせる。どうやらオブラートに包んではいられない、と判断したのだろう。すぐに水瀬が答えを返さなかったからだろうか。すかさず別のリポーターが言葉を挟む。

「昨今の風潮として、おおっぴらに言ってはいけないということになってますけどね。水瀬さんは人気商売だから、そういうものに迎合しなくちゃいけないのはわかるんですが――正直、気持ち悪いと思うのは仕方ないことですよ」

 やや砕けた口調で、世間話のような雰囲気で言った。ここがどこかのビルの一室で、仕事仲間の一人と交わす会話のような風情。恐らく、日本のどこかでこんなシーンはあるのだろう。
「昔は気持ち悪いなんて、普通に言ってたのに」「言っちゃいけないとか言うけど、実際気持ち悪いんだから仕方ない」なんて、そう言う人たちはゼロではない。

「――はは」

 思わず、といった調子で水瀬の唇から笑いがこぼれた。侮蔑だとか嫌悪の類ではなく、ただおかしくてたまらなかった。その雰囲気を感じたのだろうか。
 取材陣は、はっとした表情で水瀬へ視線を向ける。同調の声を上げてくれるのでは、と期待をしたのだろう。そんな気配を感じながら、水瀬は言った。

「私は役者なんですよ」

 場にそぐわない答えだ。案の定、リポーターたちは怪訝な表情を浮かべるけれど、水瀬は構わなかった。

「役者とは、どういう生き物かご存じですか。まあ、みなさんの解釈はこの場合重要ではないので、私の話をしましょう。役者とは、心を動かす瞬間を、情動を、己の内に宿して芝居という形で発露する生き物なんですよ」

 笑みを浮かべたまま、水瀬は言う。
 様々な偶然が重なって芝居の道に入り、今も役者として生きている。それは、自身の魂の形がこうだと定められてしまったからだ。心が動く。叫び出したくなる衝動で、体中が貫かれる。どうしようもなく、狂おしい気持ちを知っている。
 それら全てを、芝居にしていくことを選んだのが、役者という生き物だ。
 だから、答えなんて一つしかないのに。目の前の人間が、あまりにもとんちんかんで的外れで、いっそおかしくなってしまった。本当に、何一つわかってなんかいやしないのだ。

「今話題になっている写真、ご存じですか」

 取り巻く取材陣に対して、水瀬は問いかけた。「写真?」という空気を流した者が数人、はっとした表情を浮かべた者が数人。水瀬の言いたいことに思い至ったのだろう。

「天馬くんと三好くんの結婚が公表されてから、二人に近い人たちが祝福のコメントをしていたでしょう。その内の一つとして、投稿された写真です」

 二人の結婚について真っ先にコメントを発したのは夏組で、その後がMANKAIカンパニーのメンバーだった。
 交際していたことや結婚については、カンパニーにずっと前から報告はしていたという。ただ、口外しないよう頼んでいたので、誰一人交際を匂わせるようなことしなかった。
 しかし、結婚を公表とした今となっては何一つ隠す必要はない。夏組を筆頭として、天馬と一成への祝福から二人がどんなに相思相愛なのかを伝えるエピソードを、それぞれが投下していくのでSNSを中心としておおいに盛り上がっている。

「答えなんて、あの写真一枚で充分でしょう」

 水瀬の頭に浮かぶのは、SNSに投稿された一枚の写真だ。
 つい最近撮られたというそれは、天馬と一成二人が写っている。場所はMANKAI寮の一室で、ロケを終えた天馬が顔を出した時のものだという。一成も寮を訪れており、天馬を出迎える形になった。その時のワンシーンだ。
 決してドラマチックな場面ではない。ロケとはいってもそこまでの長期間でもないし、天馬にとってはよくあることだ。付き合いの長い一成のことなので、今までに何度もこんな風にロケを終えた天馬を出迎えたことはあるだろう。だから、これまでに何度か経験したことの一つであり、ありふれたワンシーンだと言うことはできた。
 しかし、その写真は見るものの心を強く打った。MANKAI寮の一室を背景にして、写真の中央に写るのは向かい合う天馬と一成。その顔は、この上もないほどの喜びにあふれていた。
 一成の瞳はきらきらと輝いて、頬は薔薇色に染まっている。はにかむような笑みを浮かべて、天馬が目の前にいることを噛みしめて、歓喜を全身で表していた。
 対する天馬も、まばゆいばかりの笑みを浮かべている。真っ直ぐ一成を見つめるまなざしはやさしくて、一成に対する愛おしさがこぼれていくようだった。
 ささやかな日常だ。ドラマチックなキスシーンや大げさな抱擁があるわけではない。それでも、二人の気持ちが手に取るようにわかった。
 やっと会えた。大好きな人。目の前にいてくれる。ここへ帰ってこられた。お互いを目に写した瞬間の震えるような喜びと、泣きたくなるような幸せが、写真には確かに宿っていた。
 だからこそ、投稿された瞬間から写真は瞬く間に拡散されていた。
 これが愛おしさだと、写真を目にした誰もが理解していたからだ。どんな言葉も要らない。具体的な行動さえ必要ない。浮かんだ表情で、そそがれるまなざしで、身体中の全てで目の前のこの人が大切だと、何より強く伝える写真だった。
 当初は日本国内だけの拡散だったけれど、さっき水瀬が確認した時にはどうやら国外にまで到達していたらしい。ただでさえ多かった反応が、よりいっそう増えていた。それほど、たくさんの人の心を動かしたのだろうし、それも当然だと水瀬は思っている。
 だってきっと、愛を形にしたのなら。あなたが大切だと、あふれるほどの愛おしさを描いたのなら、きっとのあのワンシーンになるのだと、写真を見れば理解するしかないのだから。

「私は役者なんですよ」

 繰り返し、水瀬は言った。自身を囲む取材陣に対して、投げかけられた問いへの答え。どういう意味かといぶかしむ気配に、諭すように続ける。

「生きていく中で感じる心を、形にして芝居にしていくのが役者という生き物です。時には怒りや悲しみ、醜さを表現していくこともある。だけれど、私はどうしようもない世界で、美しさを拾い上げてきました」

 水瀬が今まで演じてきたのは、決して心やさしい役ばかりではない。「浅き春のカノン」では、二人の愛を否定して間違っていると告げる役柄だったし、後味の悪い結末を迎える作品にも多く出演してきた。
 だけれど、見るものを呪うために演じたことは一度だってなかった。
 どうしようもない現実を描くことが、嫌悪を示す役柄を演じることが、ハッピーエンドを迎えないことが、時として誰かの救いになると知っている。だから水瀬は、怒りや憎しみ、醜さと言われる情動さえも形にして演じてきた。だけれどそれは、何もかもを否定するためではない。

「この世の全てが幸せにあふれているだとか、美しさだけでできているなんて、私も思っていませんよ。あなたがたもそうでしょう。現実はどうしようもないことばかりですからね」

 淡々と告げる言葉には、実感がこもっている。酸いも甘いも味わいながら、ここまで歩いてきたのだ。理不尽なんて嫌というほど知っているし、やさしさが踏みにじられる場面なんていくらでも見てきた。だからこそ、水瀬は決意している。

「憎しみを武器にするのは簡単です。怒りを原動力にするのも容易い。それでも私は、美しいものを探すことを諦めるつもりはないんです。それが私の、役者として生きることの意味だ」

 静かな口調で、それでも確かな意志を宿して水瀬は告げる。思い出しているのは、天馬と一成の写真だった。スマートフォンで情報収集している時に見つけた、あの写真。多くの人の胸を打ったワンシーンは、水瀬の心にも強く残った。
 自身の全てで愛おしさを告げる。目の前のこの人が特別で、大切で、心の全てで愛して止まないのだと、写真一枚から伝わってくる。こんな風にお互いを想い合う二人を前にして、掛ける言葉なんて一つきりだ。

「同性同士がなんでしょう。確かに些細な問題ではないかもしれないし、マイノリティであることも間違いないでしょう。嫌悪を持つのは個人の自由だからご勝手にどうぞ。しかし、それを表に出して同調を求めるなら、私から返す答えは一つだけですよ」

 間違っていると、気持ち悪いと、否定してほしいことは理解している。それなら、はっきりと答えるまでだと水瀬は思っている。

「私は役者だ。美しいものを見つけて、演じていくことを選んだ」

 根底にあるのはいつだって祈りだ。醜さも悲しみも怒りも憎悪も全てを抱いて、それでも美しいものはあるのだと言いたかった。それが困難な道だとしても、何もかもを否定する方が簡単だとわかっていても、そうやって生きたいと望んでいる。
 水瀬は目の前に並んだ人間を、順繰りに見渡した。仕事の一環と下世話な好奇心で、取材を敢行した連中だ。人数は多いけれど、揺るぎない信念でここにいるわけではない。この場の主導権を握っているのは、間違いなく水瀬だった。
 天馬と一成のことを思い浮かべる。
 いつだって光を抱いて、どこまでも明るい道を歩んでいく二人だ。やさしくて、誠実で、快い空気を持っている。それぞれの才能も買っているし、役者として評価もしているけれど、何だかんだで長い付き合いの中で、二人の人柄を何よりも好ましく思っていた。
 あの二人が、互いの手を取ることを選んでともに歩いていく。お互いへの愛おしさを隠しもせず、心の全てで抱きしめるように、特別なのだと伝え合った。

「あの二人を否定するなら、私は役者としての自分を否定しなくてはならない」

 天馬と一成が一緒にいること。そこに宿るもの、形作られる全て。今まで二人を見てきて感じたものが、あの写真には写し出されていた。
 同時に水瀬は理解したのだ。ああこれは。二人の間にあるものは。私が芝居をする時に掲げたものと同じじゃないか。
 だからこそ、水瀬の答えは一つだ。役者として生きると決めたその時から、揺るぎなく心に誓っている。美しいものを握りしめるのだ。美しいものはここにあると、掲げていくのだ。確かな決意を宿す水瀬が二人に送るのは、祝福の言葉一つきりに決まっている。








END