ハニー、こっちにおいで。



 一成が皇邸のリビングへ入ると、満面の笑みの天馬がソファから立ち上がった。弾んだ声で「一成」と呼ぶと、真っ直ぐ近づいてくる。真正面に立つと、にこにこ一成を見つめる。
 天馬は比較的、感情表現が豊かで素直だ。だから、笑っていることが意外なわけではない。
 だけれど、目の前の天馬の笑みは、何だかいつもと雰囲気が違っている。普段浮かべる、射抜くような力強いものではない。嬉しくてたまらないという表情は、年端も行かない子供の無邪気さを宿していた。

「一成」

 どしたの、と問いかける前に天馬が口を開く。やたらとやわらかな声で名前を呼ぶと、そのまま両手を広げて一成を抱きしめた。
 思わず固まったのは、天馬からのハグが意外だったからだ。こういうスキンシップは、大体一成から仕掛けることが多い。友人としてはもちろん、恋人という意味でも。
 天馬と一成が恋人同士になってから、それなりに時間が経っている。少しずつ新しい色に染まっていくように、ゆるやかに関係性は変化して、互いを特別な人と認め合った。
 ただ、天馬は気恥ずかしさが先に立つようで、自分から積極的にスキンシップを取ることはあまりない。恋人らしい雰囲気になれば比較的触れてくれるものの、日常の延長のようにスキンシップをすることはなかった。
 その分オレがハグすればいいよねん、と一成は思っているから構わないのだけれど。
 そんな状態だったので、突然天馬から抱きしめられて、一成は固まった。え、なんで、どしたの。マジで。
 混乱のまま、脳内にハテナマークを乱舞させていると、天馬が動いた。腕の力がゆるんで、密着していた体がわずかに離れる。事情を聞けるだろうか、と思ったのも一瞬だった。

「ちょ、テンテン⁉」

 天馬は一成の頬に右手を添えると、ゆっくり距離を縮める。精悍な顔が近づいてくるので、思わず一成は天馬の胸に手を当てて押し止めた。何をするつもりか、わからないわけがない。天馬はキスをしようとしている。

「嫌か?」
「嫌じゃないけど!」

 しょんぼり尋ねられて、一成は勢いよく答える。
 天馬とキスをするのが嫌なんてこと、あるはずがなかった。むしろ、踊り出したいくらい嬉しい。それでも、素直にうなずけない理由はある。

「いがっちもカントクちゃんもいるよ⁉」

 二人きりの場面なら、意外に思いつつも喜んで天馬の唇を受け入れた。ただ、今は事情が違う。MANKAI寮とは違って天馬の自宅とはいえ、近くには井川が立っているし、ソファにはいづみも座っているのだ。
 交際を始めた時点で、二人に事情は話している。だから、恋人同士であることを隠す必要はないけれど、キスシーンを見せるのはまた事情が違うだろう。
 しかし、一成の言葉に天馬はさらりと答えた。

「別にいいだろ」
「いいんだ⁉」

 あっさり言われて、反射で言葉が飛び出る。
 いやでもこれはどっちかっていうと、カントクちゃんといがっち的な話でもあるわけで……あとオレも別にチューしてるところ見られたいわけでもないんだけど……。
 思わず考え込みかけて、手の力がゆるんだ。その隙を逃さず、天馬が距離を詰めてくるので、一成はぎゃあぎゃあ騒ぐ。

「待って、テンテン! チューするのは嬉しい! 嬉しいけど、ちょい待って!」
「なんでだよ」
「いやだって、やっぱ何かテンテンおかしいし――ねえ、説明! 説明して!」

 最後の言葉は井川といづみに向けてのものだ。一成とて、天馬とキスすることは好きだし、嬉しい。ただ、どうにもいつもの天馬らしくない。
 天馬の愛情を疑ったことはないから、積極的なスキンシップがないのは、気恥ずかしさゆえだと納得している。なので、こんな風にオープンに人前でも構わずキスをしようとするなんて、天馬らしくない。
 何か事情があるに違いないと思ったし、恐らく井川やいづみは理解しているはずだった。
 だってそもそも、今ここに一成がいるのは、一成一人だけで天馬の家に来てほしい、といづみに呼び出されたからだ。いつもと様子の違う天馬に、突然の呼び出し。何かが起きていることは明白だった。
 一成の渾身の叫びに、井川といづみは顔を見合わせてから、こくりとうなずいた。







 談話室のものとは違う、高級ソファに一成は腰掛けている。皇邸の調度品はどれも一級品で、座り心地も抜群だった。さすがテンテンの家だなぁ、と若干現実逃避気味で思っているのは、そうしないと挙動不審になりそうだからだ。
 隣に座る天馬が、ぴったりくっついて手を握っている、という現実を直視してしまうので。
 あれから天馬は、井川といづみの説得もあって、ひとまず体を離してくれた。
 ただ、一成から離れるのは嫌だ、としょんぼり言われたので、くっつくこと自体はオッケーだと伝えた。
 すると、天馬は嬉しそうに「なら手もつないでいいか?」と聞くので、一成は「おけまるだよん!」とうなずいた。結果として、天馬はまばゆい笑顔で一成に寄り添って、手を握っている。
 スキンシップ自体は嬉しいので、この状態が嫌なわけではない。ただ、隣の天馬は全身から一成への好意を発しているため、どうにも落ち着かなかった。
 普段そういう顔をあまり見せないだけに、新鮮ではあるのだけれど。それよりも、真っ直ぐ向けられる「好き」というオーラが、照れくさいやらむずがゆいやらで、一成は叫び出しそうな自分を必死で抑えている。

「えっと、つまりテンテンは今、催眠術にかかってるってこと?」
「そういうことになりますね……」

 深呼吸をした一成は、聞き終えた説明について尋ね返す。井川は恐縮した様子でうなずく。
 今日の天馬は、打ち合わせのためテレビ局へと赴いていた。出演するのは、超能力や心霊現象などのオカルトを科学的に検証する、と謳ったバラエティー番組だ。その中で催眠術に関するくだりがあり、番組内の被験者を決めるにあたって、かかりやすさを調べたい、と言われたらしい。

「かかりにくい人と、かかりやすい人を事前に公表した上で、番組内で催眠術を行う、という流れでしたので、ひとまず天馬くんも対象になっていたんです」

 そういうわけで、天馬は複数の共演者とともに催眠術を受けた。何人かはすぐにかかったものの、天馬には特に変化がなかったので、かかりにくいタイプである、ということで落ち着いたのだ。

「打ち合わせは順調に終わったので、いつもの通り車で移動していたんです。実家から持って帰りたいものがあるから、というわけで、寮ではなくこちらに向かっていたんですが――」

 当時のことを思い出して、井川は遠い目をした。
 自宅への道を辿っている最中、天馬は突然、「井川にはいつも世話になってるな。ありがたいと思ってる」と言い出した。井川は面食らったものの、内容としては嬉しいものだ。恐縮しつつも礼を言えば、天馬はさらに言葉を継ぐ。

 ――MANKAIカンパニーへ入る時は、無理を言って悪かった。オレに強く出られないのをいいことに、押し切る形になってしまった。父さんたちには黙っててほしいなんて、無茶を言ってもその通りにしてくれたことも感謝してる。井川には心配も掛けたと思う。でも、おかげでオレはMANKAIカンパニーで芝居を続けられたし、あいつらとも特別な時間を過ごすことができている。井川の協力があったからだ。ありがとうな。

 淡々とした言葉ながら、真摯な思いが込められていることはわかった。天馬にとって、MANKAIカンパニーや夏組が、どれほど大切なものであるかは井川も知っているので、内容自体は意外に思わなかった。ただ、天馬が素直にそれを口にしている、ということに戸惑った。

「天馬くんはずっと、私への感謝の気持ちを伝えてくれて、それはものすごく嬉しかったんですが、どうもおかしいと思いまして」

 ひとまず自宅へ辿り着いたあと、あらためて井川は天馬と向き合った。
 天馬は普段と変わらないように見えたのだけれど。両親について話題にしてみると、きらきらとした表情で「忙しくてあんまり会えないのは寂しいけど、仕事してる姿はかっこいいよな。尊敬してる」と答えた。
 その様子に井川は確信した。絶対におかしい。
 天馬が両親を尊敬していることは、井川とて重々承知している。ただ、素直に口にできない性分なので、こんな風に答えるはずがない。
 同時に井川は、薄々原因の予想はしていたのだ。ついさっきまでの、番組の打ち合わせ。全員にかけられた催眠術は、「普段思っていても言えないことを、言えるようになる」というものだった。つまり、人をものすごく素直にさせる催眠術だ。
 打ち合わせ中の天馬は、至って普通だった。そのあとも、特に変わった様子は見られなかった。突然素直になったのは車中からで、もしかして時間差で催眠術にかかってしまったのでは、と思ったのだ。
 そんなことがあるのだろうか、とは思ったけれど、可能性があるなら、検討する必要がある。このまま天馬を放っておくわけにはいかないのだ。
 言っている内容に害はないし、むしろ「普段そんなことを思っていてくれたんだな」とじんとしてしまう。天馬自身、健やかな性根の持ち主なので、素直になってもあまり問題はないのかもしれない。
 ただ、あとあとこのことを知ったら、天馬が恥ずかしさのあまりどうにかなりそうだし、仕事という意味でも守秘義務は厳守だ。何でもかんでも全てを口にする、という事態は歓迎できない。

「催眠術のせいではないか、というわけで急いでプロデューサーに連絡を取ったんです。ただ、天馬くんに催眠術をかけた方は、スケジュールの関係でアメリカへ旅立ってしまっていて、すでに飛行機の中だと」

 本人に連絡は取れなかったものの、マネージメントを担当している事務所とはすぐにつながった。事態を説明すれば、慌てた様子で何度も謝罪の言葉を口にする。
 さらに、専門的な知識も持っていたため、今後の行動について、対処法を含めたアドバイスをしてくれたのだ。
 状況や前例から考えて、天馬は十中八九催眠術がかかっている状態である。解除は、催眠術をかけた術師本人が行うのが原則となっている。
 ただ、本人は今日本にいないし、呼び戻すにしても時間がかかってしまう。かといって、かけた本人以外が何らかの手を加えることも避けた方がいい、というのがあちらからのコメントだった。
 それに、かかるまでに時間を要したなら、ゆるやかに催眠が解除される可能性はある。実際、そういった例もいくつか存在しているらしい。

「ひとまず、一晩様子を見てほしいとのことでした。ただ、そうなるとこの状態の天馬くんをMANKAI寮へ送ってもいいものかと思いまして、監督さんにご連絡を」

 ちらり、と井川が視線を向ければいづみがこくりとうなずいた。深呼吸をしてから、記憶を丁寧に取り出す素振りで、一成へ事情を説明する。

「もともと、天馬くんは自宅に寄ってから寮に帰るって言ってたの。もちろん、最初の予定通りにしてくれて構わなかったんだけど、一応状態を確認しておいた方がいいかなと思って、お邪魔させてもらったんだ」

 井川からの連絡を、いづみは出先で受けた。他劇団との打ち合わせを終えた帰りということもあり、そのまま天馬の自宅へ向かったのだ。そこで、いづみは天馬の様子を知ることになる。

「天馬くん、私に対してもたくさん感謝を伝えてくれて、嬉しかったよ。劇団のみんなも、天馬くんが素直になれないだけで、みんなのこと大切に思ってるってわかってるでしょ? だから、一晩くらい天馬くんが素直になっても、大丈夫かなって思ったんだよね」

 そう言ういづみからは、MANKAIカンパニーメンバーへの揺るぎない信頼があふれている。
 事実として、天馬からの真っ直ぐな好意を受け止めてくれる人たちであることは、間違いないだろう。まあ、そのあとさんざんからかうメンバーもいないではないけれど。少なくとも、天馬の不利になるような行いをする人間はいないので、そのまま寮へ帰ってきても問題ないのでは、といづみは思ったのだけれど。

「ただね、天馬くんにちょっと、カンパニーのみんなのこと聞いてみたんだ」

 そう言ういづみは、何だか困ったような、照れるような表情を浮かべるので。一成は薄々この話の結末を予想した。

「天馬くん、すごく素直にみんなの尊敬してるところとか教えてくれてね。特に、夏組のみんなのこと、尊敬してるし大好きだって教えてくれて、すごくほほえましかったんだけど……」

 その時のことを思い出しながら、いづみは言う。
 質問を向けると、天馬はすぐにカンパニーメンバーの尊敬ポイントを、つらつら語り始めた。夏組に対しても、普段は言えないことをためらわず言葉にする。
 幸は衣装作りの才能はもちろん、妥協しないプロ意識が見事だし、自分の軸をしっかり持ってる。椋は、一緒にいると気持ちが和むだけじゃなくて、芯が強くてかっこいいよな。三角の演技力は唯一無二だっていつも思うし、何よりあいつはすごくやさしい。九門は根が真っ直ぐで気持ちがいいやつで、いつでも一生懸命な努力家だ。
 よどみなく並ぶ言葉を、いづみは笑顔で聞いていた。夏組のみんなをよく見ている、天馬くんらしいコメントだな、と思いながら。

「一成くんのことも、いろいろ教えてくれたよ。いつでも笑顔でいてくれることに、何度も助けられてるとか、たくさん才能があってすごいと思うとか、人の気持ちを汲むのが上手くて尊敬してるとか、いっぱい言ってくれたんだ」

 そう告げたいづみは、苦笑を浮かべて「でも」と続けた。
 夏組に対する天馬の気持ちは、真っ直ぐ伝わった。本人はあとで恥ずかしがるだろうけれど、天馬にこんなに思われているのだと知らせるのは、悪いことではないのかも、なんていづみは思ったのだ。一成への続きの言葉を聞くまでは。

「一成くんはかわいいって話が止まらなくて」
「一成はかわいいだろ」

 いづみの言葉に反応して、天馬が「何当たり前のことを言ってるんだ」とでも言いたげな表情で口を挟む。握った手に力を込めて、「一成はいつでもかわいい」と重々しく言う。

「整った顔立ちしてるからな。大きな目はこぼれそうだし、きらきらしててすごくきれいだ。肌も色白で、髪色もあいまって人形みたいだ。でも、笑うと途端にいきいきするだろ。オレに向かって笑うところがすごくかわいい。いや、黙っててもかわいいが」
「わかった! ありがとう、テンテン! 続きはあとで聞かせてほしいな!」

 真剣な顔で言い募られて、一成は声を上げる。天馬に褒められること自体は嬉しい。ただ、真正面から「かわいい」と言われることには慣れていないし、そもそもテンテンそんなこと思ってたの⁉という意味で心臓が忙しかった。

「そうか? 今じゃだめか?」
「えっと、ほら、みんながいるところだと恥ずかしい的な? 二人の時に聞かせてほしいかも!」

 天馬の言葉を聞きたくないわけではない、という意志表示をすると天馬は嬉しそうに「そうか」とうなずいた。あどけない表情に、一成の胸がきゅん、と高鳴る。かわいいのはオレじゃなくてテンテンだと思うんだけど!
 一成が内心で悶えていると、いづみは遠慮がちに言葉を挟む。

「さすがに、寮でこの感じはマズイかなって思って。付き合ってること、みんなには言ってないでしょ? 伝えるとしても、こんな風にアクシデントの結果じゃない方がいいかなって思ったんだ」

 もしも伝えるなら、二人の意志のもとで行われるのがベストだろう、といづみは考えた。
 素直になった結果の本心とはいえ、普段の天馬とは違うのだ。この状態での報告なんて、我に返った天馬からすれば事故みたいなものではないか。それは避けた方が賢明だ、といづみは判断したし、井川も賛成した。

「だから、今日は寮に帰らないで、自宅で過ごしてもらおうってことにしたんだ」

 いづみの説明に、一成は「なるほど」とうなずく。この状態の天馬が寮に帰れば、即座に一成との交際はバレる。それを阻止するために、一晩自宅へ泊まる、という結論になったのだろう。
 事情は理解したものの、一成はすぐに首をかしげた。

「んん? なんでオレ呼ばれたの?」

 天馬は寮に入るまで、一人自宅で過ごすことが多かったと聞いている。今回、天馬は素直になって本音を口にするようになったとはいえ、別に幼児になったわけでもないし、怪我をしたとか具合が悪いとか、そういうわけでもない。一晩一人で過ごすくらい、わけはないだろう。

「テンテン一人にするのが心配とか? なら、オレじゃない方がよくね?」

 普段とは違う、という状態であることは確かなので、心配する気持ちはわかる。しかし、最適な人選が自分かというと、首をかしげざるを得なかった。
 一成とて、何かあればすぐに動くつもりはある。ただ、特別緊急事態に強いわけでもないし、仕事関係のことであれば井川の方がよっぽど役に立つ。大学で絵を描いていた一成に、いづみがわざわざ連絡する必要があったのか、と不思議に思うのも無理はなかった。
 一成個人の気持ちとしては、天馬と一緒にいられることは嬉しいけれど、客観的事実として適任者は別にいるだろう、と思ったのだ。

「オレは一成が来てくれて嬉しい」

 黙って話を聞いていた天馬が、そっと口を開く。一成が思わず顔を見つめると、天馬はにっこり笑った。嬉しそうに、頬を薔薇色に染めて。

「一成に会いたかったんだ」

 直球で放たれた言葉に、一成は「うぐ」とうめく。ストレートなテンテン、めっちゃ心臓に悪い! でもオレも会いたかったから嬉しい!

「天馬くん、ずっとこんな感じだったんだ」

 一成が胸をときめかせていると、いづみは笑みを浮かべて言った。

 曰く、一成について話を振ったら、一成のどんなところがかわいいかを語り出して止まらなくなった。ただ、その間に時々、「一成に会いたいな」と言っていたという。今ここに一成がいないのが寂しい、としょんぼり肩を落とすのだ。
 その様子は、雨に濡れた子犬だとかそういう雰囲気で、どうにも憐れみを誘った、といづみは述懐する。
 もともと、意地を張りがちな天馬が素直になっている、という時点で何だかいたいけな子供みたいだな、と思っていたのだ。さらにそこへ、雨に濡れた子犬要素まで加わるとだめだった。私がどうにかしなくては、といづみの使命感に火がついてしまったのだ。

「今日は寮へ帰れないから、一成くんにも会えないし……。それなら、一成くんに来てもらって、一晩泊まってもらったらどうかなって」
「もともと、天馬くんを一人にするつもりはなかったんです。私が泊まり込む予定ではありましたが、できればその役を、三好さんにお願いできないかなと……」

 いづみの言葉に井川も続いて、一成は事態を察した。
 恐らく二人とも、天馬があまりに気落ちしているから、どうにか元気づけたいと思ったのだ。素直な天馬は、喜怒哀楽もはっきりしている。寂しい時は寂しいと言うし、悲しい時は見るからに悲しい顔をする。もともと天馬に好意的な二人なので、どうにかしたいと思うのもうなずける。
 オレだって、テンテン元気づけられるなら、何だってしちゃうからわかるけど!
 心から一成は思った。もしも自分が逆の立場で、天馬が見るからに気落ちしていて、さらにその解決策を用意できるとあれば、それはもう頑張ってしまうだろう。理解できるから、二人の言葉に対する答えなんて決まっているのだ。
 だってそもそも、天馬は一成に会えなくて落ち込んでいるのだ。そんなことを言われたら、やるべきことなんて一つしかないだろう。

「一成、今日泊まれるのか」

 いづみや井川の言葉に、天馬は顔を輝かせる。きらきらとしたまなざしで、握った手に力を込める。いづみも期待に満ちた目を向けるし、井川は「お願いします」と懇願する雰囲気を漂わせている。
 それらを全て受け止めた一成は、「お世話になっちゃおうかな~」と明るく答えた。