(おまけ――「召し上がれ」のその前に)
これはチャンスだ、と一成は思ったのだ。天馬の昼食が弁当になって、しかも一人で食事をするなんて話が聞こえてきた時点で。
ガイの話を聞いて以降、実際に弁当を作ってみたいと思ったのも事実だ。インステ映えを追求して、デザインにこだわった弁当を作ってみるのも楽しそう、と本当に思ったのだ。だから、お弁当に使えそうな装飾だとか飾り切りだとか、情報収集はしていた。
ただ、天馬の弁当作りに名乗りを上げたのは、それだけが理由ではない。
(ハート見つけたら、テンテンどう思うかな)
お弁当におかずを詰めながら、天馬の様子を想像する。嫌悪を示すことはないだろうし、単なる友人としての好意だと受け取られる可能性が一番高いとは思うけれど、それ以外の何かを感じ取ってくれるだろうか。
(これくらいだと、もしかして気づかないかも? 一応、おにぎりはハートの作るけど――おかずはわかんなくても仕方ないか)
冗談みたいにハートだらけのお弁当にしようか、とちらりと思ったのだ。白米の上にはピンクのハートを散らせて、おかずの類も全部ハートの形にして、いかにもなお弁当を作ってもいいかもしれない、と一成は思った。
しかし、結局それを選ばなかったのは、いくら一人で食べるとは言え、周囲に人がいないわけではないだろう、と思ってのことだ。天馬はきっと恥ずかしがるし、変に負担を掛けたくない。
だから、正統派の幕の内弁当を意識して、あれこれとおかずを詰め込んだ。天馬はおかずの種類が多いとテンションが上がると言っていたこともある。
それから、理由はもう一つ。少しずつ、天馬への気持ちが変化していることを、一成が自覚していたからだ。
もともと大切で大好きな友人だったけれど、共に重ねた時間は天馬を特別な存在にするには充分すぎたのだ。だからこそ、冗談みたいにふざけてハートだらけのお弁当を作れなかった。
ただの友達なら、きっと楽しくハートだらけにできたのだけれど。自覚してしまった一成は、とても笑い話として済ませられる気がしなくて、結局正統派のお弁当に落ち着いたのだ。
それでも、何もかもを閉じ込めてしまうこともできなくて、こっそりとハートを忍ばせている。もしかしたら気づかないかもしれない。だけれど、できれば見つけてほしい。そんな気持ちが形になって、ささやかなハートをお弁当に潜ませることにした。
まだ今は、きちんと言葉にするだけの覚悟はないけれど。きっといつかその日は来る。
あふれそうな気持ちや、天馬へ向かう心はとどまることを知らず、日に日に大きくなっているのだ。こぼれだしてしまいそうな想いを、少しでもいいから伝えたかった。
ただ、どうすればいいのかなんてわからなかった。夏組をはじめとして、カンパニーメンバーはみんな仲がいい。天馬にだけ、「好き」と告げる場面なんてそうそう訪れることはないのだ。
だから、天馬にお弁当を作るなんて、またとないチャンスだったのだ。
気持ちを全部込めて、天馬のためだけにお弁当を作る。それはきっと、天馬にだけ告げる「好き」を忍ばせるにはこの上もないほどの好機だ。
気づかないかもしれない。一成らしいサプライズだと思われるだけかもしれない。それでも、見つけてほしい気持ちを、天馬のためだけに込めることは許される。
(美味しく食べてね、テンテン)
ハートを包んだ卵焼きを詰める一成は、心から思う。
どのメニューも臣から聞いて、天馬の好きな味付けにしたつもりだ。お弁当として冷めても味が落ちないよう、コツも教えてもらった。
盛り付けも飾りつけも、全体のバランスや彩りを考慮しながら、デザイン画まで描いて決めた。味はもちろん、見た目だって美味しい出来上がりになっているはずだ。
今日のお昼、お弁当の蓋を開くシーンを想像して、一成は思う。
どんなお弁当なのかは欠片も伝えてないから、きっと驚いた気持ちで開いてくれるだろう。どうか笑顔でいてほしい。驚きの中に喜びを包んで、お弁当を開いてほしい。そうして、どうか、と一成は祈る。
ハートに込めた心ごと、オレの気持ちも美味しく食べてね。
END