ヤドリギの下でキスがしたい!




 クリスマスパーティーは気づけば酒盛りに移行している。すっかりいつものパターンだ。お酒を飲まないメンバーも、それぞれが思い思いに楽しそうに時間を過ごしていた。

 天馬と一成は、にぎやかな談話室をそっと抜け出す。みんなで騒ぐことはもちろん楽しいけれど、二人きりの時間を過ごしたかった。
 行き先について特に何も示し合わせてはいないものの、二人の足は自然と202号室へ向かう。
 一成と同室の椋が「今日は幸くんのところに泊まろうかな」と言ってくれたからであり、それが幸を含めての気遣いであることはわかっていた。一成が散々「テンテンが足りない」と言っていたことは、カンパニー全員が知っているからだ。
 もっとも幸には「変なことしたら寮から叩き出す」と釘を刺されているけれど、さすがに二人ともそんなことをするつもりは毛頭ない。なので、全力で首を上下に振ったのだ。

「むっくんたちにはマジで感謝だよねん」
「ああ。気を利かせてくれてありがたい」

 一成の言葉にしみじみと天馬はうなずいて、部屋の中央にあるラグの上に座る。隣の一成との距離は近く、肩が触れそうだった。

「結果としては、バレてよかったのかもしれないな。こうやって、気を利かせてくれるのもオレたちが恋人同士だってわかってるからだろ」
「まあ、ほぼみんな気づいてたけどねん」

 イタズラっぽい表情の一成が言う通りなので、天馬は何とも言えない顔をしてしまう。一成は面白そうに笑ってから「でも」と続けた。

「公になってるから、こうやってアシストしてくれるのも事実っしょ。オレたちが言ってなかったら、二人きりで過ごせるようにって思っても何もできないし」

 いくら気づいていたとしても、表面上はただの友人なのだ。わざわざ二人きりにする、なんてことはできないだろう。だけれど、今ではもう二人が特別な関係であることがわかっているから、堂々とアシストもできる。

「――アザミン驚かせちゃったのは悪かったけど」

 事の顛末を思い出した一成が言えば、天馬も重々しくうなずく。わざとではないけれど、結果として莇が一番迷惑を被ったのだから、悪いことをしたと二人とも思っている。
 ただ、天馬は厳しい表情をふと崩す。唇に笑みを刻んで、ぽつりとつぶやいた。

「でも、莇はやさしいよな」

 莇とのやり取りは一成から聞いて知っている。たとえ、どんな確かな形を結べなくても二人が一緒にいることを願った。永遠を誓ってほしいのだと言って、ヤドリギを渡してくれた。
 二人への真っ直ぐとした祈りだからこそ、天馬にも届けたいと一成は一部始終を話したのだ。
 それを聞いた天馬は、きちんと受け取ったのだ。ぶっきらぼうでクールな、カンパニー最年少のとびきりのやさしさを。

「うん。わざわざさ、ヤドリギ贈ってくれるんだもん」

 うなずいた一成はポケットを探った。取り出したのは、莇にもらったヤドリギのヘアピンだった。
 丁寧な指先でヘアピンをつまみ、手のひらへ乗せる。細長く丸みを帯びた葉と白い実の飾り。クリスマスに伝説を持つ植物。
 一成は去年の時点で、ヤドリギにまつわる話を天馬にしている。ただ、去年のことだし伝説なんて忘れているかも、と思ったけれど、天馬はきちんと覚えていた。
 その事実に一成が意外そうな表情を浮かべると、「印象深すぎて忘れる方が難しい」と告げたのだ。ファーストキス未遂事件は忘れられない思い出に入るようで、それに関連しているからこそ、ヤドリギの伝説も強く覚えていたらしい。
 二人は何も言わず、一成の手のひらの上のヘアピンを見つめた。部屋には沈黙が流れる。ただ、漂う空気がほのかに色づくようなのは、ヤドリギにまつわる伝説を思い出していたからだ。
 その木の下でキスをすれば、永遠に愛が続くという伝説。去年果たすことができなかった。だけれど、今年なら。
 同じ思いでいることは、二人ともわかっていた。

「……一成」

 そっと名前を呼ぶと、天馬は一成が持つヘアピンを手に取った。真正面から向き合う。一成は全てを理解したような表情で、じっと天馬を見つめた。何をしたいか、どう動くべきか。言葉はなくてもわかっている。
 天馬は一つ深呼吸をすると、一成へ手を伸ばした。わずかに落ちかかる前髪を指先でつまむと、手にしたヘアピンをつけてやる。金色の髪と若草色の瞳に、ヤドリギの緑はよく映えた。
 一成のあらわになった瞳はきらきらとした輝きを放ち、天馬の胸に降り積もる。見とれるような気持ちでいると、一成の瞳がやさしく細められた。唇に笑みを浮かべて、軽やかな声で言う。

「一応これも、ヤドリギの下だよねん」

 本物のヤドリギではないし、実際に吊り下げられているわけではない。それでも、前髪に留めたヘアピンがヤドリギであることは変わらないし、二人の気持ちが示す方向は一つだった。

「ああ。ちゃんとヤドリギの下だろ」

 自分たちが同じ気持ちであること。莇が願ってくれたこと。その事実が確かだと知っているから、この状況は伝説をなぞらえているのだ、と思えた。ただ、天馬は少しだけ考えたあと口を開く。

「気になるなら、来年は本物のヤドリギを用意してやる。一回だけしかだめだ、なんてことないだろ」

 当たり前のような顔で告げられる言葉に、一成の胸はあたたかくなる。これから先だって一緒にいるつもりだけれど、はっきりと天馬が口にしてくれたことが嬉しかった。
 来年は用意する、というのはつまり来年のクリスマスも自分たちは恋人同士だということを疑っていないからだ。

「――うん。楽しみにしてるよん」

 やわらかな笑みを浮かべて答えれば、天馬はまぶしそうな表情で一成を見つめた。きらきらと光がこぼれて、降り注ぐように思えた。
 そのまばゆさに吸い寄せられるように、天馬は動いた。一成の頬に右手を添えて、ゆっくりと距離を詰めたのだ。しかし、吐息がかかるような位置でぴたりと動きを止めると言った。

「――莇が来たりとかしないよな?」

 倉庫でのキスシーンを目撃された結果の、今日までの顛末だ。このタイミングで再び莇が部屋に来て現場を目撃されでもしたら、左京の雷が落ちるだけでは済まないだろう。
 そもそも、気をつけなければいけないと二人とも肝に銘じているのだから、ここは慎重にならなくてはいけない。

「アザミンはアリリンの話し相手してたから、しばらく抜けられなさそうだったよん!」

 天馬の言葉に、一成は楽しそうに答えた。談話室での様子はしっかり把握している。めいめい、大いに盛り上がっていたので部屋を訪れるような人はいないだろうと予想していた。

「それに、もしも誰か来たらちゃんとノックしてくれると思うしさ」

 だから大丈夫、という意味を込めて一成は手を伸ばした。天馬の頬に両手を添えるとやわらかな力で引き寄せる。天馬は少しだけ驚いたような顔をしたあと、力強い笑みを浮かべる。

「そうだな」

 一つ答えると、天馬は嬉しそうにヘアピンを撫でてから唇にキスを落とす。一成が応えるように背中へ腕を回し、口付けが深くなる。
 やわらかな感触を確かめるように、隙間一つ許したくないと訴える力強さで。つながる箇所から、全ての愛おしさが伝わるように願いながら。
 ヤドリギの下で、永遠を誓いたい人とキスをする。







END