マイディア、マイレディ!



 202号室の扉の内と外で、天馬と一成は攻防を繰り広げている。一成は部屋の鍵を掛けているようで、いくらドアノブを回しても一向に開く気配がない。籠城するつもりだ、と察した天馬は声を張り上げる。

「なんっで逃げるんだよ!」
「テンテンに見られたくないからに決まってるじゃん!」

 負けじと声を張り上げて、一成も叫び返す。声は思いの外近くから聞こえて、どうやら扉の前にいるらしい、と天馬は察する。鍵だけでは心もとないと、体重を掛けて扉を押さえているのかもしれない。

「ロケ明日までだったじゃん!? 今日は帰ってこないと思ってたのに……! おかえり!!」

 悲痛な声をしているくせに、出迎えの言葉はしっかり出てくるのが一成らしい。天馬もつられたように「ああ、ただいま」と返してからはっとした表情を浮かべて続ける。

「――ってそうじゃなくて、ここを開けろ」
「やだ!」
「なんでだよ!」

 言い合う声に比例して、二人ともだんだんヒートアップしていく。とはいえ、もともとの素質から荒い言葉を口にすることはない。ただ、周囲に声が聞こえていることはすっかり念頭になくなっているのか、思ったことが素直に言葉となって飛び出していく。

「そもそも、お前なんでそんな格好してるんだ。舞台とかじゃないよな?」
「ゆっきーとアザミンのインスピレーションが湧いた的な!」

 言った一成は、かいつまんで事情を説明する。感情的になっていても、二人の功績はきちんと伝えたい、という気持ちは揺るぎないので端的かつわかりやすい説明だった。
 天馬は「なるほど」とうなずく。カンパニーきっての実力派二名が、腕によりをかけた結果がさっきの一成だったらしい、と悟る。
 一成はすぐに逃げてしまったから、じっくり見られたわけではない。それでも、ほんの一瞬でも天馬の目にはしかと焼きついていた。落ち着いた雰囲気を宿した、清らかで可憐な面影は、あまりにも印象深かった。

「――その、似合ってたぞ」

 さっき見た姿を思い浮かべつつ、天馬は扉の向こうに声を掛ける。逃げ出した理由はさっぱりわからないけれど、もしかしたら女装姿を見られたことが恥ずかしかったのだろうか、と思ったのだ。
 そんなことはなかった、ときちんと伝えてやりたい、という気持ちからの発言である。すると一成は、勢いよく答える。

「だよねん! オレ、めっちゃ美人だったよね!? かわいくない!?」

 力強く返ってきた言葉に、天馬は目を瞬かせる。恥ずかしがっているのかも、と思っていたのでこの反応は予想していなかった。一成の声は絶対の真実を語るように揺るぎなく、一片たりとも強がりの響きはない。
 少なくとも、自分の姿にマイナス感情を抱いていないことはわかったので、どうして逃げたんだ、と頭にハテナマークが浮かんだ。
 ただ、一成の返事は天馬も心からうなずけるものだったので「ああ、かわいかった」と答える。実際本当にそう思ったのだから、肯定するのはやぶさかではない。

「――だから、もっとよく見たい」

 一成が自身の姿を嫌がっていないことはわかったので、続けて希望を口にする。ほんの少ししか見られなかったからこそ、もっとじっくり見たかった。恋人のかわいい姿なんて、無限に見たいに決まっているのだ。一成は即答する。

「やだ! むしろ忘れて!」

 全力のノーだった。天馬の眉が寄ったのは、一成は案外頑固だと知っているからだ。人に合わせる柔軟さは持っているものの、根っこの部分にある信念を曲げることを良しとしないところがある。
 そんな風に、自分の意見を臆せず口に出してくれるようになったことは、天馬にとって喜ばしい事態ではあるのだけれど、今発揮しないでほしかった。

「なかったことにして! 頑張って記憶消去して!」
「無茶言うな!」

 畳みかけられる言葉に、天馬は反射で答える。自由に記憶が消去できるような都合のいい作りはしていないし、もしできたとして選ぶわけがないのだ。その気持ちは、するりと言葉になる。

「疲れて帰ってきたら、お前がやたらとかわいい格好してるんだぞ! 都合がよすぎて夢かと思うだろ!」

 忘れてほしい、なんて一成は言うけれど。天馬からすれば、記憶から消えないよう保護を掛けておきたい事態だった。

「スケジュール変更もやたら多いし、結構疲れたんだ。だから、ご褒美に用意してくれたんじゃないかとか考えただろ」

 天馬も大概疲れていたのだ。そんな中、寮に帰ったら恋人がめかしこんで待っていたわけである。思わず見惚れた上、ぼうっとしたまま「何かのご褒美か?」と思うのも無理はない、と天馬は思う。まあ、その後ダッシュで逃げられたけれど。

「別にお前がオレのためにそういう格好したわけじゃないってことくらい、頭ではわかってた。実際そうだったしな。でも、オレからすれば、その格好の一成が見られて嬉しかった」

 切々と言葉を落とす間、一成は何も言わない。反論もされないし、「忘れて」とお願いされることもない、という状況だ。
 ここぞとばかりに、天馬は言葉を続ける。どうにか説得して出てきてもらいたい、という気持ちだった。

「すごく似合ってるっていうのもあるし、その、かわいいし、きれいだと思う。落ち着いてて品があるし……そういう雰囲気の格好は嫌いじゃないというか、わりとオレが見たかったというか……」
「……テンテンの好み直撃?」
「……まあ、わりと」

 しどろもどろになった天馬の言葉を、一成は上手にすくい取る。あらためて告げられた言葉に、天馬は照れつつ肯定を返した。
 好み、と言われると恥ずかしくなってしまうけれど、恐らく言葉にするならそれが正しいのだろうと思えた。騒がしいよりも、落ち着いておしとやかな雰囲気の方が確かに好きだと言える。
 その点、一成は正反対のタイプと言えるのだけれど。いつでもにぎやかで騒々しいというのに、不快にならないどころか、むしろ明るくて好ましいと思うのだから、人間というのは不思議なものである。
 そう思う天馬は、だから、と思考をつなげる。好きな人間が、自分の好きな格好をしているのだ。もっと見たい、隠さないで見せてほしい、と思うのは自然な流れのはずだ。

「出てきてくれないか。お前の顔が見たいし――その、かわいい格好してる一成を、ちゃんと見たい」

 ちゃんと言おう、と思ったもののやっぱり気恥ずかしくて、天馬の顔は真っ赤に染まる。ただ、扉を一枚隔てているおかげで、最後まで言うことはできた。直に一成を前にしていたら、照れてしまって言えなかったかもしれない。
 天馬の言葉に、一成からの反応はない。たっぷりの沈黙が流れて、天馬は内心で「もしかして引かれただろうか」と焦る。
 一成がそんな人間ではないと知ってはいても、あまりにも女装姿が見たい、と言いすぎたのでは、という心配もあった。からかいや冗談ではなかったし、一成のことなので天馬の真剣さはきちんと受け取ってくれただろうとは思っているけれど。
 無理強いをするつもりはなかった。ものすごく残念だし、簡単に諦めたくないと思っているものの、見せたくない理由はよくわからないのだ。
 あまり強行に迫るのはよくないよな、と天馬は「悪かった」と口を開きかける。しかし、その前に、扉の向こうの一成が言った。ぽつりと、小さな声で。

「ありがと。そうやって言ってくれて、嬉しい」

 静かな声ではあるものの、困惑の類はなかった。天馬の言葉に戸惑っているだとかそういうことはなく、ただありのままに受け止めた上での答えだとわかった。
 一成はその調子のまま、真摯な響きで続ける。天馬の真剣さを感じたからこそ、同じように返そうという決意を宿して。

「本気でそう思ってくれてるんだよね。だから、よけい見せたくないんだ」

 落ち着いた声で、きっぱりと告げられた言葉。冗談のような響きが一切ないからこそ、明確なノーはやけに強く響いた。それに気づいたのか、一成は慌てた調子で言葉を重ねる。いつもの様子に似た軽やかさで。

「あ、テンテンが嫌だとかそういうわけじゃないよん。テンテンの顔見たいのはオレもだし! でもさ、テンテン。オレ、女の子の格好、似合ってたでしょ?」

 この流れで発せられる質問の意図がいまいちわからず、天馬は内心で首をかしげる。ただ、尋ねられたことにはきちんと答えたかった。

「ああ、よく似合ってた」

 心からの肯定を返すと、一成は「だよねん。マジ、アザミンとゆっきーすごいし、めちゃかわで女の子みたいっしょ」と明るい声で答えた。ただ、それも一瞬だ。

「だからだよ。だから、テンテンに見せたくない」

 続いた言葉は、やけに重くて硬い響きをしていた。悪ふざけや冗談でもなく、ただ心の内から吐き出されたそれは、どこまでも真剣であることがうかがえる。一成は本気で言っているのだ、とわかる。ただ、どういう意味なのかまったく見当がつかない。

「どういうことだ?」

 一成の装いがよく似合っていることは、天馬と一成共通の認識と言っていい。
 似合わないから恥ずかしいと思っているわけではないし、むしろ似合っているからこそ見せたくない、と言うのだ。一体どうしてそんな結論になるのか、さっぱりわからない。だから、理由を問うたのだ。
 無理強いをするつもりはないけれど、せめて理由くらいは知っておきたい、と思うのは道理だろう。恐らく一成も、何も説明しないまま強行にノーを突きつけ続けるのもどうか、と思っていたに違いない。一成はそういう点を気にするタイプだ。だから、いくらかの逡巡のあと口を開いた。
 天馬の問い。似合っていると思っているからこそ見せたくない、その理由。一成は扉の向こうから、叫ぶような声で答えた。

「だって、女の子みたいなオレ見たら、テンテンやっぱり女の子の方がいいな~とか思わない!?」
「は!?」

 あまりにも予想外な答えに、天馬の口からすっとんきょうな声が漏れる。何言ってるんだこいつは、と思ったのは仕方ない、と天馬は思う。しかし、当の一成はそんな天馬の困惑にも気づかず、さらにまくしたてる。

「テンテンのことだから、浮気とか絶対しないじゃん!? オレが恋人って時点で、他の子に目移りしないのはわかってるんだけど!」
「それはそうだろ」

 何当たり前のこと言ってるんだ?と思いつつ、あいづちを返す。一成は「だよねん、かっこいい!」と言ってから、さらに先を続ける。一気にべらべらと、怒涛の勢いで。

「でも、同じオレなら違うじゃん!? 女の子の格好してるオレ、かわいいしめっちゃ美人で、女の子みたいで、しかもテンテンの好み直撃ってなったら、やっぱり女の子の方がいいなって思うかもしれないじゃん!」
「思うか!」

 どこをどうしてそうなった、と天馬は頭を抱えたくなる。
 ただ、一成の言葉を拾い上げれば、「女装姿を見せたくない」と言っていた理由はおぼろげながら察することができた。
 要するに一成は、自分の女装姿があまりにも女性らしさ全開であるため、天馬が「やっぱり女子っていいな」と思ったらどうしよう、と心配している。
 天馬の心変わりをまったく信じていないので、他の女性に目移りするとはまったく思っていないけれど。ただ、自分の女装姿(ストレートで天馬の好み)によって、天馬が女子への好意を思い出したらどうしよう、と思っているのだ。
 男の一成と付き合っているけれど、やっぱり女子ってかわいいな、と思い直されたら、という可能性を排除したくて、どうやら一成は姿を見せることを拒否している。
 察した天馬は、盛大に溜め息を吐く。
 言いたいことは山ほどあった。お前のその自分の女装への自信は何なんだ、いや確かに自信を持っていいレベルでかわいかったが、とか。オレが心変わりしないことを信じてくれてるのは純粋に嬉しい、とか。心配の方向性が、あくまで恋人の自分がかわいい、ということを前提としてるのがかわいい、とか。
 いろいろと言いたいことが胸の内でうずまいていたけれど、今口にすべきことは、一成の不安を打ち消すためのものだということはわかっていた。
 どんな理由にせよ、恋人が不安に思っているなら、心配ないと言ってやりたかった。実際問題、一成が心配することは何一つないので。

「いいか、一成。確かに、お前のその格好はかわいいし美人だし、よく似合ってる。正直オレの好みだ」

 耳を赤く染めつつ、天馬は言う。扉の向こうの恋人に向けて、心から。照れくさいし恥ずかしいけれど、一成を不安にさせたままよりはマシだ、と自分を奮い立たせて天馬は続ける。

「でも、その格好だけでかわいいって思ってるわけじゃない。一成だからに決まってるだろ」

 幸のセンスも莇の腕も天馬は充分知っている。だから、二人にかかれば魔法みたいに、誰だってすてきな装いにしてしまうけれど。こんなにも胸がときめくのは、ドキドキと高鳴って仕方ないのは、それが一成だからに他ならない。

「確かに、服とかメイクとか髪型とか、全部かわいい。だけど、女みたいだからかわいいって思ってるわけじゃない。一成によく似合ってるから、一成が身に着けてるからかわいいんだ」

 装いの全てが天馬の好みであることは事実だ。ただ、同じ格好の女性を見たところで、一成を見た時と同じ反応をするとは思えなかった。
 天馬が心を動かされるのは、つまるところ、一成が身に着けているから、その一点に集約される。女装姿がかわいい、の根幹は「女性みたいでかわいい」ではないのだ。「好きな相手が好みの格好をしている」からであり、結局「一成だからかわいい」に落ち着く。

「他の人間じゃこんなこと思わない。一成だからかわいいし、美人だって思うし――好きだと思う」

 そう告げる天馬の顔は真っ赤に染まっている。あらためて言うと、どうしたって気恥ずかしくて仕方ない。それでも、顔の見えない恋人にきちんと伝えたくて、どうにか言い切った。
 一成を不安にさせたくはなかったし、自分の気持ちはちゃんと届けたかった。「女の子の方がいいって思うかも」なんて、思わなくていいのだと伝えたかった。
 天馬の言葉に、返事はない。扉の向こうからはただ沈黙が返ってくるだけなので、天馬はそっと口を開く。

「――信じられないか?」

 これは少し意地悪な質問だな、と天馬は思う。一成は天馬の気持ちを、言葉を、きちんと受け取ってくれると知っている。だからきっと、この沈黙は天馬への不信ではないのだとわかっていたのだけれど。
 こう言えば、一成はきっと答えを返すだろう、と思っての言葉だという自覚はあった。案の定、一成は慌てた調子で「そんなことないよん!」と言う。焦った響きで、さらに続ける。

「テンテンが、ごまかしとかでこんなこと言うとか思ってないし! ただ、めちゃくちゃストレートに言ってくれるからちょっとドキドキしちった」

 照れたような声で、一成は言う。どうやら、今までの沈黙は戸惑いや困惑のためだったらしい。ただ、それはマイナスな意味ではなく、プラスの方面で。天馬はほっと息を吐き、一成へ答えた。

「はっきり言わないと、一成に伝わらないからな。変な方向に突っ走りそうだし――でも、オレの気持ちはわかっただろ。一成が心配することは何もない」

 あまりにも女性らしい女装姿に、「やっぱり女子はかわいい」なんて思うかも、なんて心配は要らないのだ。天馬がかわいいと思うのは、たった一つの大きな理由しかない。

「一成だからかわいいし、好きなんだよ」

 もう一度告げるけれど、あらためて口にするのはやっぱり恥ずかしかった。普段の力強さは影を潜めて、何だかしどろもどろになってしまう。照れた響きを、一成はしかと感じ取ったのだろう。笑いを含んだ声で問いかける。

「テンテン、今めっちゃ照れてる?」
「当たり前だろ……」

 心からの言葉に、一成はころころ笑う。全力で照れていることはわかったようで、「うわ、どんな顔してんのかすげー気になる」なんて言うので。

「なら、この扉開けろ。オレの顔なら好きに見られるぞ」

 楽しそうな言葉に、天馬は真顔で返した。いい加減一成の顔を見たかったし、きっとそれは一成も同じはずだ。ロケに赴いている間、顔を見ることはできなかったので。
 案の定、数十秒の沈黙のあと、ゆっくり扉が開かれる。天馬の気持ちなら、一成はもう充分わかっている。恐れる必要も、心配する理由も、何一つないのだ。部屋に籠城する意味は、もうなかった。

「――照れ顔のテンテン、めっちゃかわいい」

 扉の向こうに現れた一成は、はにかんだ笑顔でそう言う。その様子に、天馬はどきりと胸が高鳴るのを感じている。
 落ち着いたワンピース姿は、清らかで可憐な雰囲気を宿す。施されたメイクは、一成の魅力を最大限に引き出して、やたらと全てがきらきらとして見える。
 透き通るような肌も、愛らしい唇も、つややかな髪の毛も、薔薇色の頬も、濡れたような瞳も。そっと浮かんだ微笑もあいまって、何もかもが天馬の胸を直撃するのだ。
 だからこそ、心の底からの想いを込めて、天馬は一成に答えた。

「お前の方がかわいい」











END











(おまけ)
 お騒がせしました、と談話室へ顔を出す。中庭のメンバーは、とっくに撤収していて談話室でくつろいでいたのだ。

「カズさん、めっちゃ美人!」
「かず、かわいい~!」

 いつの間にか帰宅していた九門と三角が、きらきらとした笑顔でそう言う。出先から戻っていた監督も「うん、一成くんとってもすてきだよ!」とにこにこしている。
 一成はそれぞれに「ベリサン~」と返した。褒められるのは嬉しいし、みんなが笑顔でいてくれることも一成の心を浮き立たせる。天馬が「かわいい」と言ってくれたことや、心配する必要はないと告げてくれたこともあって、何だかふわふわとした気持ちになっていた。

「ね、テンテン。今なら堂々とデートできるんじゃね? 手とかつないじゃう!?」

 冗談の響きで、一成は天馬に言った。天馬の職業上、デート場面なんてスキャンダルになるから本気で言っているわけではない。まあ、一成の女装であることが発覚すれば、面白い話題提供になるくらいだろうけれど、わざわざ危ない橋を渡る必要もないだろう。
 だからこれは、浮かれた気持ちでつい口に出しただけの、単なる軽口だ。ノーと言われることが前提だったから、天馬が難しい顔をしても意外に思わなかった。しかし、天馬が真顔で口にした台詞に、一成は固まる。

「見せびらかしたい気持ちはあるが、お前を見せるのがもったいないからだめだ」

 舞台で必要であるなら当然構わない。だけれど、これは単なるプライベートだ。カンパニーのメンバーならともかく、大多数の前にわざわざ見せることはしたくない、と天馬は言う。理由は一つで、一成のかわいい姿をあまり人目に触れさせたくないからだ。
 あまりにも真剣に言われて一成は黙るし、顔中に熱が集まる。さっきの天馬に負けず劣らずの赤い顔で、完全に照れている。
 何も言えなくて、ただ天馬を見つめる。その瞳は熱っぽく潤んでいて、可憐な雰囲気に拍車をかけるので。天馬の心臓までドッと音を立てるし、二人は照れたまま黙り込む。ただ、視線の先はしかとお互いに向けられている。
 やたらと甘酸っぱい雰囲気が流れて、見つめ合う様子はまるで少女漫画のワンシーンだ。
 椋が両手を口に当てて無言の歓喜を表現するし、幸は心底呆れている。九門は楽しそうににこにこしていて、三角は「二人ともなかよしだね~」とさんかくクンに話しかけている。