Sunny Today UpDate You






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「この部分何て言ってるんだ? pastは意味通じなくないか?」
「ええ……何だろ……ちょっと待って、もう一回聞いていい?」

 202号室では、タブレット前にして天馬と一成がうんうん唸っている。もう一人の部屋の主である椋は、用事があるということで出掛けていた。
 よく晴れた休日だ。行楽にもちょうどよく、寮でも外出しているメンバーが多い。そんな中、二人はタブレットを前にして奮闘していた。つい先日話していた、ショートドラマのためである。
 一成は「やりたい」と言ったら、即座に計画を立てる人間である。天馬もできないことはできないと言うから、乗り気になった時点で実行は決定だ。
 あとはどのタイミングか、という状況だったところ、今日が天馬のオフというわけで一成が誘いをかけたのである。
 他の誰かを誘ってもよかったのだろうけれど、一成は何だか天馬と二人の秘密にしたかった。結局一成は誰にも声を掛けなかったし、天馬も当然のように受け入れてただうなずいたのだ。

「声が落ち着いてるのはいいんだけど、ちょっとくぐもってる感じだよねん」
「あらためて聞くと、声質は大きいな……」

 海外発のショートドラマは、英語字幕も用意されていなかった。そのため、自分たちで台詞を書き出す必要があったのだ。五分とはいえ、分量としては決して少なくはない。さらに文章に起こすとなるとリスニング力が必要だった。
 英語学習用の教材ではないこともあり、全てが明瞭な発音ではないのだ。BGMなど他の音も入っているし、聞き取るのはなかなか難しい。耳は次第に慣れてきているとはいえ、何度も再生を繰り返して、「ああでもない」「こうでもない」と言い合っていた。

「ちょっと休憩しよっか。ずっと聞いてると疲れてきちゃった」
「そうだな。一旦リセットした方が、頭も回りそうだ」

 一成の提案に、天馬もうなずく。無理をして根を詰めすぎても、疲労がたまるばかりだ。時として休憩が必要なことは、二人もよくわかっている。

「五分でもやっぱガチで聞きこむと疲れるよね~」
「言い回しが文法通りじゃないっていうのもあると思う」
「たかし~。あっちのスラングとか混ざってるとわかんないんだよねん」
「その辺もやっぱり単語力になるのか?」
「そうじゃね。アプリでもその辺カバーしてるのあるし」
「ああ、現代英語みたいなアプリあったな。雑学知識っぽさもあったが」
「いろんな方面から知識増やすと、単語力鍛えられるし――あ、単語力っていうなら、単語バトル面白かったよねん」

 そういえば、という顔で一成が口にしたのは、一時期天馬と一成で繰り広げていた遊びである。
 一緒に千景に勉強を教わるようになり、単語力を鍛えたいと始めたゲームだ。ルールは単純で、お互いが単語を出題して答えられれば回答者の勝ち、正解が出てこなければ出題者の勝ちである。一定数以上負けが続くと罰ゲームが発動する。
 天馬は一成の言葉に、当時のことを思いだしたのだろう。面白そうに笑ってうなずく。
 出会いがしらに突然英単語を叫ばれたり、逆に英語で何を言うか尋ねられたりしていて、常に英単語参考書を携帯しアプリを起動していたのだ。おかげで覚えた単語も多くあるし、何より単語を覚えることが楽しくなった。

「気づいたら夏組も参加してたな。稽古前に英単語が飛び交ってて面白かった」
「ね。むっくんとゆっきーはさすが聖フロって感じだったし、くもぴはメジャー情報追っかけてるからか、結構ニュース系詳しかったよねん」
「三角は難易度の差が激しすぎるだろ……」
「わかる~。『猫さんは~?』とか聞かれてたらいきなり『hypotenuse』って言われた時のオレたち」
「斜辺ってなんだよ……日常会話で使わないだろ」

 当時のことを思い出して、天馬が顔をしかめている。直角三角形の、直角に対する辺の英単語など知るはずがない。
 三角は基本的に易しい言葉を出題する傾向があるけれど、時々数学用語が出てくるのだ。もちろん三角形つながりである。「三角関数」が「trigonometric functions」であることを、三角から教えられて夏組は初めて知った。

「今はもっと新しい単語系アプリもありそうだよねん。対戦型単語バトルアプリとかもあったし、ゲーム性高いやついろいろあると思うな~」

 言いながらスマートフォンを取り出した一成は、すいすい操作する。目新しいアプリが何かないだろうか、と思ったのだろう。すると、一成の指先が不意に止まる。

「あ、テンテン。次の英語テストの予定出てるよん」

 告げたのは、単語アプリの情報ではなく、二人がそろってインストールしている総合型英語学習アプリの話題だった。単語やリスニングなどの特化型が多い中、総合的に学ぶことができるということで重宝されているアプリだ。
 中でも、イベントとして定期的に開催されるテストは、実力の推移が顕著にわかるということで評判だった。天馬と一成は、テストの結果を持ち寄って得点を競い合ったりしている。
 なお、一部社会人たちには、「学校の定期テストを連想させる」「昔に戻ったみたいで懐かしい」という意味でも評判である。

「分野別に分析出してくれるのもありがたいよね~。オレはテーマによってリーディングの点数が乱高下しちゃうんだよねん。テンテンは?」
「オレは、文法はそれなりにできるようになったと思う。リスニングも前よりは理解できると思うが――英作があんまりだな。一成はそうでもないか?」
「めちゃくちゃ得意!ってわけじゃないけどねん。この辺は、文章の組み立て方に慣れるまで大変だったけど、乗り越えたら結構できるようになったかも! 日本語で考えて変換するんじゃなくて、英語で考えるのが一番だよん」
「それは言われるが、なかなか難しいんだよな……。どうしても、一回日本語で文章作りがちだ。一成はその辺どうやって慣れた?」
「アウトプットいっぱいやるのがよかったかな。勉強って、インプットに偏りがちじゃん? ちょこちょこアウトプットするの大事だな~ってわけで、英語で一言日記書いたり、あとはSNSに英語で投稿したりとか!」

 スマートフォンを操作した一成が、天馬に投稿画面を見せてくれる。自分で撮った写真と共に添えられているのは、短い英文だ。そういえば時々、英語で投稿してたことがあったな、と天馬は思う。

「SNSなら大体いつも投稿してるからねん。あらためてやり始めるのは大変だけど、習慣の一部を変える感じかな~。日記的なその日の話だから、内容的にも気軽だしねん。あと、人に見られてるって思うと気合いも入るし!」

 明るい笑顔で一成が言って、天馬は「一成らしいな」とつぶやく。しょっちゅうSNSに投稿している一成だからこそ、その内容を英文に変えることでアウトプットにしているのだろう。

「テンテンはあんまりSNS使わないから難しいかもだけど――それなら、LIMEのやり取り英語にしてみるとかどう? オレ宛てだったらいくらでもおけまるだよん。オレの勉強にもなるしさ」
「まあ、LIMEならSNSよりは使うな。とはいっても、一成ほどやり取りはしてないが――試してみるか」
「そそ、何事もまずはやってみないとだねん!」

 夏組としていろいろなことに挑戦してきた結果だろうか。最初は渋ることも多かったものの、最近では一成の提案にも比較的すぐうなずいてくれることが増えた。今まで積み重ねた時間の成果だと思うと、一成は何だかくすぐったい。

「あ、そうだ。あと、英作文ならテンテンにはこれもおすすめ!」

 思いついた、という顔で一成は立ち上がる。ただ、自分の机から一冊の本を抜き出すとすぐに戻ってくる。天馬の隣に座り直して、シンプルな装丁の本を渡した。

「これ、英作文と添削内容が載ってるやつ。テンテン、こういう具体的なミスがわかるような本の方が合ってると思うんだよねん」

 天馬の勉強スタイルや考え方を鑑みての結論だ。天馬は理解するまではつまずくけれど、一度頭に染み込んでしまえばその後は問題なく進むことができるタイプだと見ていた。だから、つまずき箇所を具体的に知ることが有用だろうと考えた。
 案の定天馬は、顔を輝かせて一成の差し出す本を受け取った。

「確かに、こういう方がわかりやすい。正解はもちろん知りたいが、どういう風に間違ったのかっていう例が欲しかったんだ。でも、これは一成が使ってるんだろ?」
「まあねん。でも、一通り最後までは読み込んだし、テンテンの役に立つなら全然貸すし!」
「それはありがたいが――」
「あ、ならさ、代わりにテンテンおすすめの参考書貸してくんね? リーディング系のやつ借りたい! テンテンが選んだのって、オレとは観点違うから面白そう」

 申し訳なさそうな天馬の表情を見て取り、一成はとっさに提案したのだけれど。いざ口に出すと、とてもいい案のように思えた。自分で選ばない参考書で勉強するのは、新しい視点を得られるのではないか、という予感があった。
 天馬は目をぱちりと瞬かせたあと、「もちろん構わない」とうなずいた。ただ、「どれがいいんだ……?」と考え始めるので、様々なテキストが頭に浮かんでは消えているのだろう。「物語がいいかニュース系がいいか……」と真剣に悩んでいる。
 テンテンらしいなぁ、と思いながら一成は軽い調子で言った。

「そんな考えなくて平気だって。オレら、そこまで英語レベル差ないと思うし、合わなかったら合わなかったで、これは向いてないな~ってわかるし!」

 語学の学習においては、自分のレベルに見合った勉強が重要だ。天馬と一成では一成の方がやや上といったところだけれど、最近では天馬もめきめき実力をつけている。そこまで極端な差があるわけでもないので、天馬の持つ参考書も充分役に立つだろう思っていた。
 もちろん、合わない可能性はあるけれどそれも一つの情報として重要だ。
 天馬は一成の言葉に納得したようで、「あとで中身確認して持ってくる」とうなずいた。一成は軽やかに「ベリサン~」と答えたあと、ぴかぴか明るい笑顔を浮かべた。
 心底嬉しそうな、心弾む笑顔だ。天馬が首をかしげて「どうした?」と尋ねると、喜びをあふれさせて答える。

「こんな風に参考書貸し借りするの、同じ学校通ってるみたいだなって思って!」

 天馬と一成には明確な年の差がある。天馬が高校生の時一成は大学生だったし、天馬が大学に進学した時点で一成はそろそろ卒業だった。そもそも進学先も違うので、同じ学校に通うという経験は一切なかった。
 だからこそ、今のやり取りが新鮮だった。もしも同じ学校に通っていたら。同じ年齢だったなら。テスト前や受験期に、こんな風に勉強の話をして参考書の貸し借りをしただろうか、と一成は思っていた。
 夏組として出会った今までの自分たちという関係性は、一成にとって大事な宝物だ。だから、年の差だって現状の自分たちで出会ったことだって、何一つマイナスには思っていない。これが自分たちだと胸を張って言える。
 ただ、それとは別の話として、まるで同じ学校のクラスメイトのようなやり取りが嬉しかったのも事実だった。
 もしももしもの仮定の話で。いつかどこかの別の世界で。こんな風に、天馬と勉強をしている瞬間があったのかもしれない、なんて考えるのは楽しい想像だった。
 満面の笑みで告げられた言葉に、天馬は数秒黙り込んだ。しかしそれも一瞬で、すぐに笑みを広げると楽しそうに言った。

「もしもクラスメイトだったら、こんな風に一緒に勉強してたのかもな。どんな勉強が効率的なのかなんて話をして、テストの結果を競ってたかもしれない。まあ、一成と仲良くなってたらの話だが」
「そこは仲良くなってるって言うとこ!」

 冗談めかして告げられた言葉に、一成も同じ温度で返した。気心が知れているからこその軽口だ。一つだって心を傷つけることのない、ただ楽しくてわくわくする空気が心地いい。その気持ちのまま、一成はさらに言葉を継いだ。

「クラスメイトじゃなくってさ。全然別の関係で出会ったのに、今こうやってクラスメイトみたいだねって言えるの、めっちゃラッキーだよねん。両方体験できる感じじゃん?」

 年齢も今まで歩いてきた道もバラバラな自分たちは、夏組として特別な仲間になった。それにくわえて、まるでクラスメイトのような関係だって結ぶこともできる。カンパニーで過ごすメンバーとは、一つだけの関係に留まらずにどんな名前だってつけられるのだ。
 目の前の天馬とだって、夏組で友達でそれからもっと別のつながりも結んでいけるのかもしれない。それはきっととても幸運で、幸せなことなのだと一成は思う。

「クラスメイトエチュードで勉強するのも楽しそうだしやる気になるし! 今度のテストも、最高点の更新目指して頑張ろうねん」

 楽しそうに、嬉しそうに、きらきらとした輝きで力強く一成は言った。すると、天馬は一成の言葉にふっと笑みを浮かべた。
 太陽のように力強い、まばゆいものではない。もっとやわらかくて、すがすがしい、透き通るような笑み。胸の奥まですっと入り込んで、撫でてゆくような。思わず見つめると、天馬は静かに言った。

「そうやって何でも楽しんで、当たり前みたいに一緒に頑張ってくれてありがたいと、ずっと思ってる」

 定期試験で追試を免れるとか、目標の大学に入るだとか、明確な区切りとしてのゴールがあるわけではない。試験もあるにはあるけれど、不自由なく英語を話せるようになる、というのはなにがしかの点数がつけられるようなものではない。
 少しずつできることが増えるとしても、ある日突然英語が話せるようにはならないのだ。緩やかな変化は成果を実感しにくい。停滞することもあるだろう。そんな時、投げ出してしまいたいという誘惑に駆られることだってある。

「単語バトルみたいにゲームを考えたり、試験内容がどうだったとか言い合ったり、競う相手がいるともっと勉強を頑張ろうって思える。どんな勉強法がいいかって、情報交換するのも結構楽しいしな」

 白い歯をこぼして、目を細めて天馬は言う。
 大学の試験や課題と違うのは、止めようと思えばいつだって止められるところだ。落第や追試もないし、誰かに強制されているわけではないから、歩みを止めてしまえばそれで終わり。何もやらずとも咎められることはない。
 それでも、今日まで努力を続けた。腐らずに投げ出さずに、今日までずっと勉強に励んできた。
 天馬自身が中途半端に終わらせることを良しとしない性分だし、一度決めたことはやり抜く性格だからというのが主な理由だろう。だけれど、きっとそれだけではないと天馬は思っている。

「一成が近くで頑張ってるっていうのは大きいと思う。隣で一緒に走ってくれるだろ。だから、オレもやる気になる。疲れてても、一成が勉強してるならオレもやるかって思える」

 少しだけ照れたように、天馬は言った。
 天馬とて、疲労困憊になることもやる気が出ないことだってあるのだ。そんな時、一成が「今日はこれやったんだ~」なんて英語アプリを見せてきたり、おすすめの洋画を教えてくれたりする。ミニテストの結果を持ってきて、「テンテンどうだった?」なんて聞いてくる。
 そのたび、天馬の消えかかったやる気に火がつくのだ。

「それに一成はいつでも楽しそうだ。まあ、やる気が出ないことがあるのも知ってるが……。でも、一成はいつも『英語ができるようになったら、こんなことしたい』って言うだろ。それが嬉しかったし、背中を押された」

 真っ直ぐ一成を見つめた天馬は、とっておきの宝物を取り出すように一成へ告げる。
 英語を勉強している時、一成は言うのだ。楽しそうな笑顔で、きらきら瞳を輝かせて。
 「英語できたら、今よりもっと友達できるよねん」だとか「世界中で個展開いて、来てくれた人といろんな話したいな~」だとか。広がる未来にわくわくして、まばゆいばかりの表情を浮かべている。
 だから天馬も、つられるように「今度はお前の通訳なしで、ジム・クーパー監督と話せるようになる」「受賞スピーチは、完璧な英語でしてみせる」なんて答えた。
 聞いている一成は、「めっちゃいいじゃん!」と嬉しそうにうなずいていた。きらきらとした輝きをまとって、天馬の話す未来を大事に抱きしめるように。

「昔は勉強なんて、義務で苦痛なだけだった。でも、一成は勉強が楽しいって言って、楽しむ方法もいろいろ考える。何より、勉強するのは未来のためだって思えた。一成がいつも未来の話をしてくれるから――これから先の見たい景色のための力になるんだって思える」

 一緒に頑張ってくれること。楽しもうとしてくれること。未来の姿を思い描くこと。そういう諸々が力になったのだと、天馬は言う。照れくさそうに、真っ直ぐなまなざしで、心からの言葉を一成に告げる。

「だから、ありがとな」

 きらきらとまばゆい光をこぼして、そんなことを言うから。一成は一瞬大きく目をまたたかせたあと、深呼吸してから口を開いた。だって、ありがとうだなんて。

「そんなの、オレだって一緒だよ」

 一成は昔から勉強が好きだった。知らなかったことがわかるようになるのも、新しい知識に出会うのも好きだった。だから英語を習得したいと学ぶことも、一成にとっては自然な流れだった。
 いざ勉強を始めるとやっぱり楽しかったし、心も弾んだ。もちろん常にやる気に満ちあふれていたわけではないし、気乗りしない瞬間だってあった。それでも、楽しいのだと間違いなく言えた。

「テンテンがいたから、一緒に勉強してくれたから、オレも頑張ろうっていっぱい思ったよ。思いついたことを『いいな』って言って、試してくれるのが嬉しかった。テンテンがいたから、ずっと楽しいんだ」

 かつて勉強が好きだった一成は、ずっと独りぼっちだった。ただ教科書や参考書と向き合うだけの日々だった。だけれど、今勉強をしている一成は違う。
 千景は先生として新しい知識を教えてくれる。天馬は一成と一緒に試行錯誤しながら英語を身に着けようとしている。一人ではなかった。隣を一緒に走ってくれた。一成はもう、独りぼっちではなかったのだ。

「こんな風に勉強したらどうかなとか、面白いテキストあったとか、リスニングにぴったりのドラマ見つけたとか、テンテンと話せるのが嬉しかった。気になってた問題があったら、二人でああでもないこうでないって考えて、正解出せた時はめっちゃハッピーだった。だから、オレこそテンテンにたくさんありがとうって言うよ」

 心からの感謝を、一成は天馬に伝える。
 独りぼっちで勉強していた時は叶えられない瞬間を、一成は何度も感じてきた。芝居や日常の些細な瞬間とは違う。切磋琢磨して勉強していくとはこういうことなのだと、何度も実感した。

「少しずつできることが増えていって、世界が広がっていくのが好き。テンテンと一緒に、昨日よりちょっとだけレベルアップするのが嬉しい」

 一成は何度も、やっぱり勉強が好きだと思っていた。過去よりも今の方が、もっと強くそう思った。恐らくそれは、天馬という隣を走ってくれる存在があるからだ。
 一人でもきっと走って行ける。天馬だってそうだ。それでも二人で一緒に、隣に同じものを目指して走って行く喜びを今の自分たちは知っている。その気持ちを抱きしめながら、一成は続けた。

「それに、テンテンはオレが未来の話をしてくれたって言うけど、オレも同じだよ。テンテンがいつでも未来を見てるから、オレはいつも見たい景色の話をしてるんだよ」

 だってどんな時も、天馬の目は真っ直ぐ未来を見つめている。そのまなざしが一成はずっと好きだった。胸の奥まですっと入ってくる。力強い希望が形になる。揺るぎなく未来へ向かう意志だ。明るい光がどこまでも未来を照らすのだと、揺るぎなく信じている。
 そのまなざしに、天馬の持つ光に導かれるように、一成の胸には火が灯るのだ。天馬の熱を受け取って、体中を情熱が巡っていく。
 だから未来へ駆け出したくて、これから先に広がる景色を口にした。きっとこんな未来が待っているのだと、疑いなく思えた。できること、やりたいことが、無限に浮かんでいくらでも未来の話がこぼれていったのだ。
 天馬はまるで一成の手柄のように言ってくれるけれど、本当はそうじゃない。天馬がいたからこそだと、一成は知っている。
 一成の言葉に、天馬は驚いたように目を瞬かせた。そんなことを言われるとは思っていなかったのだろうし、予想外の言葉だったのだろう。
 しかし、不快に思っているわけではないことは一成もわかっている。だって、浮かんだ表情が。驚きからじわじわと広がっていく笑みが、こんなにやさしくてまぶしいのだ。

「同じことを思ってるのは不思議だが、面白いし納得できるな」

 嬉しそうに言った天馬は、さらに確信めいた調子で告げる。
 天馬は一成が未来の話をしてくれるから、背中を押されて力になった。一成が未来の話をするのは、天馬のまなざしが未来を見つめているからだ。お互いから未来の気配を感じ取っているからこそ、二人は真っ直ぐ前を向ける。
 過去は大事だ。一つだって蔑ろにせず、両手で抱きしめて歩いていく。だけれど、ただ静かに理解している。
 二人でいると、自然と未来の話になる。これから先の見たい景色を、思い描く夢を自然と口にできる。隣を一緒に走っている人は、同じものを見ているのだと知っている。
 だから、と言う天馬の言葉に一成は大きくうなずく。

 ――だからきっと二人なら、もっと遠くの未来まで行ける気がするんだ。












END