福音を歌う
談話室には、監督を入れて十二人が集まっている。
夏組が全員そろっているのは当然として、それ以外では至・千景・左京・太一・東しかいない。事前に集合するよう言っていたわけではないのでそれも当然だろう。
天馬は、今ここにいる人たちにまずは報告しよう、という気持ちで口を開きかけたのだけれど。その前に、千景に制された。
「セッティングが終わるまで少し待ってくれるかな」
そう言う千景は、ノートパソコンとカメラを談話室の机に置いて、ソファに座る天馬と一成(三角が用意した大量のサンカクに埋もれている)を収めようとしていた。
天馬には何をやっているのかさっぱりわからなかったけれど、一成はすぐに気づいたらしい。
「チカちょん、なんで配信の準備?」
「ああ、MANKAIカンパニー専用のオンラインルームにつないで、二人の話を配信するからね。セキュリティーは万全だから安心していいよ」
さらりと言ってのけられた言葉に、天馬は面食らって一成は爆笑した。
「マジで!? オレらの話配信するの!? てか、MANKAIカンパニー専用のオンラインルームとかあったんだ!?」
「まあ、主に春組でしか使ってないからね。ただ、今回は二人から報告があると言われただろう。リアルタイムで聞きたい人間はアクセスするよう、アドレスを送っておいたよ。結構入ってきてるみたいだね」
ノートパソコンの画面を二人のほうへ向ければ、区切られた四角の中にシトロンや綴、万里に莇、誉とガイの姿があった。
MANKAI寮には集まれなくても、リアルタイムで報告を聞くつもりなのだということがはっきりとわかって、天馬と一成は何だかくすぐったい気持ちになる。
「ちなみにアーカイブも残るから、とちらないようによろ」
淡々とした調子で至が言う。それぞれ忙しい身の上の人間も多いので、リアルタイムで配信を見られるとは限らない。そんな人向けに、あとで見られるようアーカイブも残すらしい。
「めっちゃ本格的じゃん。言ってくれればオレ機材持って来たし、てか、オレが普通に配信したよ!?」
動画配信は言ってみれば一成の本業でもあるのだ。恐らく一番慣れていると言っても過言ではないのだから、自分に声を掛けてくれればよかったのに、という気持ちだった。至は肩をすくめて笑った。
「ま、急きょ決まったから仕方ないでしょ。一応事前に申し入れはあったけどね」
言いながら向かった視線の先にいたのは椋だった。どういうことかと思えば、至は平坦な調子で答えた。
「もしかしたら、稽古期間中か公演期間中に報告することがあるかもしれない、とは聞いてたんだよね。だから、すぐに対応できるように準備はしてた。まさか初日とは思わなかったけど」
唇に小さな笑みを浮かべて告げられた言葉。椋は恐縮した様子で「ありがとうございます……!」と頭を下げているし、九門や三角、幸もお礼を言っている。
その様子に、天馬と一成はおおよその事情を察した。
きっと夏組の彼らも、この期間に報告があるかもしれないと思っていたのだ。だから事前に、この場にいない人たちにも伝えることができるよう、手を打った。それに応えたのが千景と至だったのだろう。
「みんな事前準備バッチリじゃん! さすが~☆」
テンション高めに一成が称賛を送る。
やたら手際がいいとは思ったし、あらかじめ準備をしていたのではないかと予想していたけれど、それは半分正解で半分間違いだったのだ。
前もって、どう動くかは決めていた。だけれど、本当だったらもっとあとに報告が行われると思っていた。
ただ、左京の言葉をきっかけにして、天馬と一成が今日報告することにしたのを察して、各自がやるべきことを果たしたのだろう。
「みんなにはお世話になりっぱなしだから、いっぱい恩返ししなくちゃだねん!」
キラキラとした笑顔で一成が言えば天馬も同意を返すけれど。夏組はめいめいが口を開いて答える。
「別にオレたちが勝手にやってることだからそういうのは要らない」
「うん! オレたちは、二人がみんなに報告してほしいな~ってやってるだけだし!」
「迷惑じゃないかだけ心配だったから……喜んでくれたなら嬉しいな」
「みんなでお祝いできるねぇ」
四人それぞれの言葉へ答えるように、談話室に集まったメンバーも肯定を返した。
二人からの報告を聞きたいのはみんな同じ気持ちだから、場所をセッティングすることは手間でも何でもなかったのだと言い切る。それはきっと、配信を見るために集まってくれているメンバーも同じだろう。
全員の気持ちを受け取った天馬と一成は、改めて談話室に集まった顔ぶれを見渡す。
それから、配信を見ているノートパソコンに映ったメンバーを確認し、今ここにはいなくても、きっとあとできちんと見届けてくれる人たちのことも思い浮かべた。
大事で大切な、MANKAIカンパニーのメンバー。
どんな困難も、彼らと一緒なら乗り越えられると信じてきた。人生において、これほどまでに大事な人たちがいることの幸福を知っている。
同時に、共に人生を歩むのだと決めたことを伝えられる喜びも、二人は何よりもよく知っている。
彼らに伝えたいこと、届けたいこと。胸の内であふれていく思いを抱きしめながら、天馬と一成は口を開く。