今日の佳き日に




 天馬と一成は嬉しそうな笑みを浮かべたあと、視線を移動させた。向かう先は、観客席の最前列中央。きらきらとしたまなざしで、ずっと舞台を見ていてくれた監督だ。
 MANKAIカンパニーに入団して、今日までの日々にはいつだって監督がいた。いつでもどんな時も寄り添っていてくれた人だ。
 カンパニーのメンバーは、どれほどまでに監督に助けられたのかを知っている。彼女がいなければ成しえなかったことは、見られなかった景色はたくさんある。MANKAIカンパニーのメンバーは、それぞれが自分なりの形で監督のことを大事に思っている。それはもちろん、天馬と一成も例外ではない。

「監督にはたくさん世話になったよな。オレ個人としても夏組としてもだし……一成と付き合うようになってからもだ」
「オレたちのこと、ずっと応援してくれてたよねん。すっごく心強かったよ!」

 監督は、二人の関係を伝えられた時からずっと二人の味方だったし、いつでも親身に応援してくれていた。長い間、関係を公にしてこなかった二人にとって、それは確かな力になったのだと、一成はしみじみ言う。
 ただ、監督は思い切り首を振った。たいしたことなんてしていない、全ては天馬と一成二人の力なのだ、と言い切る。そんな風に自分が成したことの大きさを自覚していないのは昔から変わらない、と一成と天馬は目配せをして笑った。
 そんな監督に、告げたいことはたくさんあった。これから先の未来まで歩いていくと決めたからこそ、誓いたいのは。

「監督はどんな時もオレたちを信じていてくれた。だから踏み出せたし、決意だってできた」
「カントクちゃんは、いつでもオレたちを見守って背中を押して勇気づけてくれたよねん」

 そんなことないよ、なんて言うとわかっていたけれど、これは単純な事実だ。監督がいたから、今日までの道はつながった。見守って、支えになって味方でいてくれたから、止まることなく歩いてこられた。
 監督から向けられる愛情を、慈しみを、降るように理解しているからこそ。誓う言葉は、告げる気持ちは決まっていた。天馬と一成は、大きく深呼吸する。真剣なまなざしで、凛とした決意を宿して、真っ直ぐ監督を見つめて言った。

「どんな時も、何があっても、お互いの一番の味方であることを誓います」

 監督とMANKAIカンパニーで過ごした日々。全てが順風満帆ではなかった。ハードルに怯んで、壁を前にして立ちすくんでしまうこともあった。それでも決して逃げ出さず、夏組をはじめとした仲間たちと乗り越えて、もっともっと高くへ駆け上がっていった。
 その中心は監督の存在だ。彼女がいつでも、どんな時でも見守っていてくれると知っているから。何があっても絶対に味方でいてくれると知っているから。だから前へ進めたのだ。
 そんな風に味方でいると、天馬と一成は他でもない監督に誓った。今までずっと、揺るぎない味方でいてくれた人へ捧げる約束だ。
 春組、秋組、冬組、それから監督。大切なMANKAIカンパニーのメンバー、一人一人に誓ったのは、これからの未来を歩く決意だ。
 大好きな人たちが持つ掛け替えのないものを、自分の中で確かにする。今はとうてい足元には及ばないとしたって、そうありたいと願い続けて踏み出せば、いつの日かきっと叶うと知っている。だから、世界でたった一人の特別な人と歩いていく未来が、何よりもまばゆく輝くように。大好きな人たちへ向けて、心からの誓いを紡いだのだ。
 MANKAIカンパニーのメンバーは、天馬と一成の気持ちを真正面から受け取った。これから先の未来を見据えた時、カンパニーの一人一人を思い浮かべたからこその誓いだ。天馬と一成の未来には当たり前のように自分たちがいるし、未来の希望と同じ意味だと思っていてくれている。こうありたいと、こんな自分たちでいよう、と何よりまばゆい気持ちで思っている。
 みんなのことが大切だと、大事なのだと、言葉やまなざし、紡ぐ声、あらゆる全てから伝わった。観客席のメンバーは、二人からの誓いを確かに受け取ったのだと厳粛な面持ちで、それでいて晴れ晴れとした表情でうなずくことで答える。
 すぐに察したのは椋で、無事に誓いの言葉が宣言されたことから「それじゃあ、次は――」と口を開く。結婚式はまだ続くのだ。司会らしく、次へ進行させようとしたのだろう。しかし、それは叶わない。

「――ちょっと待って!」

 一成が強い響きで声を掛けたのだ。その言葉に、椋はもちろん他の夏組も不思議そうな表情を浮かべる。誓いの言葉は全員終わったのだから、次へ進むのではないか、という顔をしている。

「まだ終わりじゃないだろ?」

 夏組に向かってそう言ったのは天馬だった。楽しげな雰囲気を漂わせているし、それは一成も同じだった。いたずらを仕掛けるような、わくわくとした表情で天馬は言葉を続ける。

「春組、秋組、冬組、監督までだって言ってあったけどな」
「夏組への誓いがないわけないじゃん?」

 心底嬉しそうに一成が言って、観客席からは「確かに、それはそうだ」やら「うん。ない方がおかしいと思う……」といった感想が漏れる。二人の結婚式で率先して司会を務めるのが夏組なのだ。二人のことが大好きなのだということが伝わるし、それは天馬と一成だって同じに決まっている。

「サプライズ夏組への誓いだよん!」

 はちきれんばかりの笑みで言った一成は、天馬と共に夏組へ向き直る。下手側に夏組、上手側に天馬と一成という配置だ。舞台上で向かい合う様子を、観客席は見守る。交わされる誓いを見届けるのだ、という気持ちで。

「――幸」

 真剣なまなざしを浮かべた天馬が、幸の名前を呼んだ。幸は驚くこともなく、クールに二人を見返す。ともすれば無表情にも見えるけれど、奥底には確かな親愛が宿っていることを二人は知っている。

「お前が強い意志を持っていてくれることに、何度だって助けられた」
「ゆっきーはいつだって、真っ直ぐオレたちのこと信じてくれたよねん」

 幸ははっきり意見を言うし物怖じしない。だからこそ、怯みそうになっても踏み込む力になってくれていた。
 天馬の将来を思って、一成が身を引くことを選ぼうとした時もそうだ。自分の気持ちすら押し殺そうとした一成に、「自分の好きを否定するな」と揺るぎなく告げた。互いを思い合う二人は一緒に幸せになるのだと、それが確かな未来なのだと、当り前みたいに強く信じてくれていた。

「強い意志でお互いを真っ直ぐ信じ抜くことを、幸に誓う」

 凛として告げられた言葉は、すっと胸の奥まで届く。幸は数秒沈黙を流してから、ふっと唇をゆるめると「破ったら容赦しないから」と答えた。
 これが幸のエールであることくらい、わからない二人ではない。楽しげにうなずいて、幸の言葉を受け取った。
 それから雰囲気を切り替えると、幸の隣に立つ椋へ目を向けた。二人の視線に、椋が緊張したような面持ちを浮かべる。

「むっくん」

 緊張をほぐすような、やわらかい声で名前を呼ぶのは一成だ。同じ部屋で過ごしてきた、愛すべきルームメイト。これまでの日々を思い起こさせる声に、浮かんでいたこわばりがほどけていく。

「むっくんはいつもオレたちに寄り添ってくれた」
「椋の気持ちが嬉しかったし、確かにオレたちの力になったんだ」

 椋は人を気遣うことに長けていて、心の内を慮って一緒に歩いていこうとしてくれる。蓋をしようとしていた一成の気持ちを丁寧にときほぐして、天馬に対しても心からのメッセージを伝えて、力になってくれた。こうすることが当たり前なのだと、持っているものの全てで二人のために動いてくれたのだ。
 決してわかりやすい力強さではない。それでも、これが椋の確かな強さでありやさしさなのだと知っている。

「どんな時も寄り添ってお互いの力になることを、むっくんに誓うよ」

 しなやかな声で、一成は言う。誓いを受け取った椋は、今にも泣き出しそうな感極まった表情で「二人なら、絶対叶えてくれるよね」と大きくうなずいた。
 椋の言葉に笑みを浮かべた二人は、視線を隣に移す。これまでのやり取りをにこにこ見守っていた三角は、ぱっと顔を輝かせた。天馬と一成、二人が目の前にそろっていることが、嬉しくてたまらないといった様子で。

「すみー」

 三角の笑顔を受け取った一成は、くすぐったそうな表情で名前を呼んだ。その言葉に、声の響きに、三角はいっそう嬉しそうに、はちきれそうな笑みで二人を見つめる。

「すみーは、心の中のものを全部ぎゅって抱きしめてくれるよねん」
「オレたちの話をいつだって真剣に聞いて、わかろうとしてくれた」

 さんかくが大好きでマイペースな三角は、奇妙奇天烈に思われることが多いけれど、周りをよく見る聡明さと真っ直ぐなやさしさを持っている。一成の震える心を大切に抱きしめてくれたことも、天馬の憂いや戸惑いにも一つずつ丁寧に向き合ってくれたことも、二人はよく知っている。
 何があっても、どんなことが起きても、三角は決してやさしさを失わない。三角はいつだって、両手を広げて抱きしめるように分かち合おうとする。

「心を丸ごと大事にしてお互いの声にちゃんと耳を傾けることを、すみーに誓うよ」

 今まで三角からもらったものを思い出しながら、一成は告げる。三角はやわらかく目を細めると、「ちゃんと受け取ったよ~」とにこにこ答えた。
 夏組一人一人へ、天馬と一成は誓いを懸ける。次は自分の番だとわかっている九門は、目をきらきら輝かせて二人へ視線を向けた。

「九門」

 九門に負けないほどの輝きを放って、天馬が名前を呼んだ。「はいっ!」と元気良く返事をするので、一成は大きな口を開けて笑うし、天馬は楽しげに白い歯をこぼした。それから、まばゆい輝きで二人は言う。

「九門は苦しみを知っていても、明るさを決して忘れずにいてくれた」
「くもぴは素直に自分の気持ちを伝えてくれるから、いつも嬉しいんだ」

 九門の持つ明るさは、決して当たり前ではない。土砂降りも暗い影も知ってなお、九門は晴天へ駆け出し光を目指した。九門の持つ輝きの意味を二人は強く理解している。だからこそ、二人にとって九門の明るさを何よりまばゆい。
 笑顔でいてくれたこと、真っ直ぐ気持ちを形にしてくれたこと。九門の持つ明るさに、心の内を惜しみなく形にして、裏表ない言葉をくれたことに、何度だって助けられたのだ。

「明るくいることを心に刻んで、自分の気持ちを言葉にしていくことを、九門に誓う」

 九門の持つ光を見つめるように、天馬は目を細めて告げる。どれほど強く、心から思われているのか。九門の持つものを大事にしてくれているのか。理解する九門は、「オレ、ばっちり証人になるから!」と力強く答えた。
 一人ずつに懸けた誓いを、四人はしっかり受け取ってくれた。その事実を噛みしめて、天馬と一成は視線を交わし合った。嬉しい。くすぐったい。幸せだ。湧き上がる感情がこぼれていくように、笑みがあふれる。そのままの空気で、二人は四人を順繰りに見渡した。
 幸、椋、三角、九門。向けるまなざしが何より雄弁に語っている。大切だ。目の前の彼らが、共に時間を過ごしてきたみんなが、どうしようもなく大事で仕方ない。
 言葉はなくても、確かに伝わる。天馬と一成のまなざしが、笑みを浮かべる唇が、きらきらと輝く何もかもがはっきりと告げている。
 大事で大切な仲間たち。これから先の人生で唯一絶対の、宝物みたいな友達。ここまで歩いてきた道のりにいつだって一緒にいてくれた。これからだって一緒にいてくれる。
 すぐ近くで助けになって、鼓舞してエールを送って一緒に走ってくれる。最高の友人たちに見守られて、世界でたった一人の特別な相手と人生を生きていく。
 だから、そんな彼らに言いたいことは。心から伝えたいことは。
 天馬と一成は、真っ直ぐ四人を見つめると背筋を正す。大きく深呼吸すると、心からの気持ちを込めて告げる。大好きな夏組のみんなへ。掛け替えのない、いつだって大切なみんなへ。

「宇宙で一番、幸せになることを夏組に誓います」

 二つの声が紡いだ一つの誓い。これから先の未来までの力強い約束は、確かに全員の胸に届いた。夏組だけではなく、MANKAIカンパニーのメンバー全員がしかと受け取った。
 自然と観客席からは拍手が起こり、舞台上の夏組も気づいたように軽やかに手を打ち鳴らす。二人の誓いを確かに受け取ったのだという、それぞれに懸けられた誓いの証人になったのだという答えだった。