「Little Adventure」泉田莇:冬休みの小学生(10代・小学生)
暇な冬休みだった。父ちゃんも母ちゃんも寝てばっかだし、どこも連れてってもらえない。姉ちゃんはチューガクの友達と遊びに行ってるけど、オレの友達は大体どっかに出かけてる。海外行くやつもいるし、じーちゃんとかばーちゃんの家に行くらしい。うちは、近所に住んでるからしょっちゅう会ってる。わざわざ冬休みに会いに行っても面白くない。
一応新年の挨拶みたいなことはしたけど、それも一日で終わりだし。父ちゃんも母ちゃんも家にいるからずっとゲームやってると怒られるし。宿題はもうちょっとしたら頑張る。
そういうわけで、暇だった。一緒に遊ぶ友達はいないし、家でゲームもできないし。何にもやることがなくて、部屋で暴れてたら姉ちゃんに「うるさい、どっか行け!」って言われた。何だよあいつ、うるさいのはずっとスマホで話してるお前じゃんって思ったけど、それ言うとよけいに怒られるから黙ってた。
でも、「どっか行け」っていうのはいいな、と思った。どこにも連れてってもらえないし、出かける予定は特にない。だけどそれなら、自分で好きなところに行けばいいんじゃん。
気づいたオレは、リュックにお菓子とちょっとお金の入った財布を入れてチャリで出かけることにした。母ちゃんにはどこ行くのかって言われたから、適当に友達の名前を言っておいた。あいつたぶん、海外行くって言ってたけどまあいいか。
どこへ行くかは決めてなかった。でも、普段行けない場所がいいなってわけで、隣町を目指すことにした。どこから隣町か知らないけど、まあ何か行ったことない場所だ。
最初は寒かったけど、この前買ってもらったダウンを着てるからあったかい。それに、ずっとチャリ漕いでたら暑くなってきた。
適当に走ってたら川に出て、知らない橋を渡る。何があるかなってワクワクして向こう側に着いたけど、ぶっちゃけ近所とあんまり変わらない。家がたくさんあるだけで、面白いものは特になかった。
このまま帰るのもつまんないよな、と思いながら適当にチャリを漕いだ。そしたら、何か時代劇に出てきそうな家を見つけた。壁は長いし、城みたいな屋根も見える。これは何かすげー金持ちの家なんじゃないかと思った。
どんな人間が住んでるんだろ、と思ったオレはチャリのスピードを落としてゆっくり家の周りを回った。もしかしたら、どっかから入れるかも。うちの近所にあるでかい家は生垣の所に見えない穴があって、ネコとかよく出入りしている。
大人だと無理だけど、子供なら意外と行けるってくらいの穴はあったりするかもしれない。だからまあ、そういうところを探してウロウロしてた。せっかくなら中見たいし、学校で話すネタになるし。
でも、この家はあんまり穴とかなさそうだった。ガッカリしながら壁を見上げてると、不意に声がした。
「この家に何か用か?」
振り返ったら黒髪の兄ちゃんが立ってた。聞かれたから素直に「中入れないかなって思って」って答えたら、兄ちゃんは何か不機嫌そうな顔になるから。あ、やべ、これ言ったらまずいやつかもって思った。
でも、もう言っちゃったから、どうしようもなかった。「どういう意味だ」って言われて、嘘ついても仕方ないから冒険しに来てでかい家見つけたから中に入りたかったって言った。
「――冒険? どっから来たんだ?」
兄ちゃんが不思議そうに聞くから、住所を答える。そしたら、兄ちゃんは小さく息を吐き出して笑った。「チャリでここまで来たのかよ」って言うからうなずくと、「結構距離あるぞ」って言われた。この辺の地名教えてくれたけど、よくわからなかったからマジで遠いっぽい。
「ここからだと帰るのも時間かかりそうだし。まあ、近道通ればそうでもないかもしれねぇけどな……どうやって帰るんだ?」
「どうやって帰るんだろ」
そういえば、と思って言う。何か適当にチャリ漕いでたから、帰り道とか全然考えてなかった。ここからどうやって帰るんだろ。まあ、適当に来たから適当に帰れるんじゃないかなって気がする。
そう思ったんだけど、兄ちゃんは何か変な顔をしていた。困ったみたいな、何か考え込んでるみたいな、そういう感じの顔だった。
「帰り道わからないとなると、マジで結構かかると思う。家着く頃には夜だぞ」
「え、そうなの?」
それはさすがに怒られるんじゃないかな、という気がしてきた。というか絶対怒られる。
そこでようやく、オレは何かマズイことになってるかもしれない、と気づいた。ここから家まで結構かかるってことは、夕飯までに間に合わないかも。そうなったら、母ちゃんたちはオレを探すし、そしたら適当に言った友達の家に電話とかするかも。海外行ってるから電話出られないし、オレが嘘ついたってことがバレる。嘘ついて勝手に遊びに行ったとかバレたら、めちゃくちゃ怒られる。冬休み遊びに行くの禁止とかされそう。
もしかしてすごくマズイんじゃ、と思って何か泣きたくなってきた。どうしよう、と思っていると兄ちゃんが言った。
「スマホとか持ってないのか」
「持ってない……」
「……なら、家とか誰かの電話番号はわかるか」
「わかんない……あ、財布に入ってるかも」
そういえば、と思ってリュックをごそごそ探して財布を取り出す。何かあった時のために、父ちゃんたちの携帯番号書いたメモ入れてた気がする。祈るみたいな気持ちで探したらちゃんとあったから、「電話できる!」って言ったら兄ちゃんがうなずく。それから、ポケットを探ってスマホを取り出した。
「俺のスマホを貸してやるから、電話しろ。それで、迎えに来てもらうなり何なり決めろ」
兄ちゃんの言葉にオレはうなずく。暗くなる前に電話すれば、たぶんまだそんなに怒られない、はず。なんでそんなところまで行ったんだとかは聞かれると思うし、怒られることは怒られると思うけど……。あ、でも嘘ついたことはどうしよう。海外行ってるの知らなかったことにしようかな。
そんなことを思いながら、受け取ったスマホで電話しようと思ったんだけど。
「うわわ、兄ちゃん、電話!」
ちょうどいいタイミングで電話がかかってきたから、慌ててスマホを返した。兄ちゃんは画面を見て顔をしかめてから、ぶっきらぼうに電話に出た。
「ああ? ちょっと出るって言っただろ――遅い? 仕方ねぇだろこっちにも用事が……そうだよ、緊急だよ。外で迷子拾った。放って帰れるわけねぇだろ」
迷子。もしかしなくてもオレのことかなって思ったら、ちらってこっちを見るから、オレのことだなって思った。
「連絡先はわかってるから今から電話するとこだったんだよ。タイミング悪ぃのはそっちだろ。ああ、わかってる。最後まで付き合うに決まってんだろ。だから帰るのは遅くなる」
兄ちゃんはそれからオレにはよくわかんない話をしてから、電話を切った。オレはそんな兄ちゃんに、もしかしてと思って聞いてみる。
「オレのせいで家帰れないから怒られてんの?」
なかなか帰ってこないから電話で怒られたんじゃないか、って思ったからそう言った。そしたら兄ちゃんは、びっくりしたような顔をしてからニヤリと笑って答えた。
「まあな。でも、正直家帰りたくねぇからラッキーだった」
今の時期はやることがたくさんあって、できればあんまり家にいたくないらしい。でもサボったりするのは難しくて、ちょっとした買い物くらいしか外出できなかった。そんなところに、たまたまオレを見つけたらしい。
「さすがに迷子放っておけって言うことはねぇからな。そういう理由があるなら、家にいなくても文句は言われねぇし」
だから、と言う兄ちゃんは、面白そうに笑った。それから、いたずらを仕掛けるみたいなそういう感じで、きっぱり言った。
「っつーわけだから、お前にはしっかり最後まで迷子でいてもらう」