おやすみナイチンゲール 24話
返却された模試の見直しがあらかた終わり、天馬と太一は談話室で一息ついていた。MANKAIカンパニー教師陣は、物腰はやわらかでもなかなか容赦がない。授業のほうが楽かもしれない、と二人は言い合っていたくらいである。
「二人ともお疲れ様」
ぐったりとした様子の太一と天馬に声を掛けたのは監督だった。二人が勉強していることは知っていたので、邪魔をしないようにと談話室からは人影が消えている。
監督も自室で作業をしていたのだけれど、飲み物が欲しくなってキッチンへ来たのだ。
「ホットミルク作ったんだけど、二人もどうかな」
教師役を務めた千景や紬は、用事があるということですぐに部屋へ引き上げたようだ。残っている天馬と太一をねぎらう意味も込めて、監督は尋ねる。
心情を察した二人はありがたくその申し出を受けることにした。すると、監督はきらきらと瞳を輝かせて言う。
「スパイス入りの特製ホットミルクだから、美味しいよ」
善意100パーセントで構成された言葉に、太一と天馬はぎくりと体を強張らせる。
彼女のカレー好きは劇団員全員身を持って知っているし、何なら今日の夕食もカレーだった。まさかホットミルクにもスパイスが登場するとは思っていなかったし、二人ともそこまでスパイスを欲しているわけではない。
ただ、やる気を出してキッチンへ立つ監督に、今さら「やっぱりいい」などと言えるはずもなかったし、そんな元気もなかった。
一体どんなものが出てくるのか、戦々恐々としていた。しかし、覚悟を決めてマグカップに口をつけてみれば、予想外に飲みやすい。
特有の香りはするものの、ホットミルク自体は甘さもあってスパイスが主張しすぎることもなかった。目をまたたかせながらマグカップを傾ける二人に、監督は苦笑を浮かべる。
「そんなにスパイス効いたもの作らないよ」
二人の向かいに座った彼女は、「カルダモンとシナモン、それから蜂蜜のホットミルク、案外美味しいでしょ」と満足そうに笑った。
「私の分はもう少しスパイス多めだけど、二人の分はちょっとした香りづけ程度だからね」
「そーなんスね! 確かに、匂いは何か独特だけど、甘くて美味しいッス! もっとカレーみたいなのかなって!」
「ああ。普通に飲みやすくて驚いた。てっきり、スパイスの効いたものが出てくると思ってたから」
太一がきらきらと瞳を輝かせれば、天馬はしみじみとした口調で言葉をこぼす。監督は自分のマグカップを両手で包んで、「二人とも私のこと何だと思ってるの」と軽やかに笑う。
太一と天馬が目を見合わせたのは、ここに幸がいたら「カレー星人」と答えるだろうな、と思ったからだ。
「私が作るスパイス入りのホットミルク、意外と評判いいんだから。みんなに振る舞う機会はあんまりないけど、東さんとか一成くんにもよく作ってるよ」
誇らしそうに胸を張った監督は、時々スパイスを効かせたホットミルクを団員に作ることがあるのだと教えてくれた。
それはおおむね、彼女がホットミルクを作る時に居合わせたかどうかで決まるので、つまりはタイミングの問題だ。
東はよく談話室にいるから、というより何となくそのタイミングを掴んでいるので、彼女のホットミルクを飲む機会が多いらしい。
ただ、一成の場合は少し意味が違うのだということは、天馬も太一も気づいている。
監督は恐らく、一成に関しては自分から積極的に声を掛けているはずだ。一成が心に負った傷を知ってから、監督はずっと一成のことを気に掛けている。
具体的に何か行動を起こすわけではない。ただ彼女は、一成の姿を見つけると必ず声を掛けて他愛ない会話を交わすのだ。
夜眠れないことだとか、調子はどうかと尋ねることはあまりない。今日はいい天気だね、だとか、スパイスの配合が上手く行って嬉しいだとか。はたまた一成の大学の様子や、夏組の面白いエピソードを聞いて楽しそうに笑う。
そういう時間の延長線上で、「一成くん、ホットミルク飲まない?」と声を掛けるのだろう。
彼女が何も言わないのは、MANKAIカンパニーの団員たちがその役目を充分果たしてくれること、一成ならそれを受け取ってくれると信じているからだ。
それならば、自分はただ一成をきちんと見ていてあげればいいのだと、彼女は思っている。今までだってそうしてきたように、後ろ姿を見守ることこそが己の役目だと知っているのだ。
「ターメリック入りのホットミルクもあるんだって、一成くんが教えてくれたんだよね。ゴールデンミルクって言うらしいんだけど、今度作ってみようかな」
マグカップを傾けた監督は独り言のように言った。恐らく監督は一成と共に、こんな風にホットミルクを飲みながらささやかな会話をしていたんだろう、と天馬は思う。
どうかそれが、穏やかな夜であればいい。一成が襲われたことも、ましてや殺された記憶も何も知らないような。ただ静かな、やさしい夜を一成が過ごしてくれていることを、天馬は願っている。
「そういえば今日、カズくんとストリートACTの帰りにスパイスの話になったッス。ついにカズくんもカレーに目覚めたのかと思ったんスけど、もしかして監督先生のホットミルクのことだったんスかね?」
はっとした顔で太一が言う。暗くなる前にストリートACTを終えたので、どこかに寄り道でもしようかという話になったのだ。その時、「ちょっとスパイス見たいんだよね~」と一成が言っていたらしい。ただ、距離を考えると途中で日が沈む可能性が高かったので、結局目的は断念した。
「でも、コンビニは寄って帰ってきたッス! 最近、カズくん寄り道してくれるようになったから嬉しくって」
明るい笑顔の太一は、一成とコンビニのチキンとポテトを半分こにしながら帰ってきたのだと教えてくれる。その様子はきらきらとした輝きにあふれていて、一成とコンビニに寄れることが嬉しくてたまらないと書いてあるようだった。
「そうだね。ちょっと前までは、真っ直ぐ寮まで帰って来てたもんね……」
少しだけ静かな口調で監督がつぶやいた。
一成は外出先で何度か気分を悪くしたことから、寮の外へ出ることを避ける傾向にあった。万が一外に出ても、どこかへ寄り道することなく寮へ帰ってくる。恐らく一成にとって、寮の外は何が起こるかわからない危険な場所という認識になってしまった。
しかし、団員たちとストリートACTへ出かけたり、ショッピングへ出かけたりと、少しずつ外へ向かう機会が増えた。
その度に、カンパニーのメンバーは一成に伝えたのだ。言葉や声ではなくても、体中全てで。何も怖くはないと。たとえ怖くても自分たちがそばにいると。
そうやって伝えられたものたちを一成は受け取ったのだ。わずかずつ外へと出かける機会を増やしていったし、ついには寄り道だってできるようになった。それはささやかながら確かな一歩だ。
「今日のストリートACT中も、ちょっと風が強くなってきちゃったんスよね。マズイかもって思ったら、カズくん音楽聞く演技入れてきたから、どうにか最後までできたッス!」
一成は瞬時に、スマートフォンの音楽を自然に聞けるよう演技の方向性を定めたらしい。結果として、木々の音を耳にすることなくストリートACTを続行することができた。
太一は「カズくんさすがッス!」と屈託がないけれど、恐らく最後まで完遂することができたのは太一がいたからだ、と天馬は察している。
一成の取った行動に対して、的確に答える相手がいなければ芝居は成り立たない。ましてや、一成は音を掻き消すために実際に音楽を聞いている。とんちんかんな反応をしてしまう可能性があるにも関わらず、芝居が成立したのはひとえに相手役である太一の演技力の賜物に違いない。一成もそれは充分理解しているだろう。
「ああいう、臨機応変な芝居できるのってストリートACTならではで楽しいってカズくんとも話してたんスよ。またやりたいッス!」
きらきらとした笑顔で太一は言う。そこにはどんな翳りもなくて、ただ純粋な喜びに彩られている。天馬はそれを、まぶしい気持ちで見つめていた。
太一は一成の現状をよく知っている。それでもいつだってこんな風に笑っていてくれた。
心配する気持ちは人一倍あって、何かできることはないかと懸命に太一は考えたはずだ。その結果導き出した答えが、一成と一緒にいる時間は楽しい気持ちで過ごすことだった。
一成が他人の感情に敏感で、相手の憂いを自分のことのように感じるのだということを、太一だって気づいている。だからきっと、自分が悲しい顔をしていれば一成は気に病むと思ったし、それなら逆も然りだと考えたのだ。
自分が心から楽しい時間を過ごせばきっと、カズくんも笑ってくれる。心配なんて一つもなく、一緒に楽しいって笑ってくれる。
太一はそうして、一成と共に過ごす時間をめいっぱい楽しくしようと決めたのだ。事件のことも、不安な夜のことも何一つ口にしない。まるで何も知らないみたいに、ただ楽しくて心弾むものを集めて一成と分かち合うことを選んだのだ。
それこそが太一の強さで、限りないやさしさであることを天馬は理解している。
だから「ありがとな」と言ったこともあるけれど、太一は「何のことスか、天チャン!」と笑っていた。自分の思うように行動しているだけで、お礼を言われることなんて何一つないのだと。告げる笑みは屈託がないようで、静かな決意を秘めていた。
「うん。ストリートACTも問題なくできるようになってきたし、ずいぶん良くなってきたと思うな」
落ち着いた口調で監督が言うのは、一成の現状についてだ。太一が言う通り、寄り道ができるようになったしストリートACTでも対処ができている。それらは、確かに一成の不調が少しずつ良くなっていることの証明だろう。
「……あとは、ちゃんと寝られるようになるといいんだけど」
ぽつり、と監督が言葉を落とす。太一も何だかうなだれるような空気を漂わせるのは、一成が未だに上手く寝られていないことを、薄々感づいているからだろう。天馬もほとんど空になったマグカップを無意識に握っていた。
ずいぶんと回復してきていることは確かだろう。できることは増えているし、以前の生活に近づいている。だけれど、一成は今もまだきちんと眠ることができていない。自然と深い眠りに落ちることは少なく、たいていは浅い夢にまどろんで覚醒を繰り返していた。
「東サンも気にしてたッス。カズくんが眠れるようにって色々試してるんだけど難しいねって……」
添い寝屋という経験から、東は睡眠に関する知識や技術が豊富だ。一成が上手く眠れていないことには早々に気づいていたので、夏組にも多くのアドバイスをくれた。時間を見つけては東自身も一成の眠りを手助けしてくれてはいるのだけれど、あまり上手く行ってはいないようだ。
「密さんも、一成くんを昼寝とかに誘ってくれてるみたい。よく眠れるポイントならたくさん知ってるし、密さんと一緒だと眠くなりやすいからって。でも、やっぱりちょっとだけ眠ってもすぐ起きちゃうみたい」
監督も密から聞いた話を口にして、一成がやはり上手くは眠れていないという事実を伝える。何一つ怯えることなく、安らかに眠れる時間はあまり取れていないようだ。
ただ、完全に睡眠が取れていないわけではない。浅いとはいえ眠ること自体はできているし、薬を飲めば深い眠りに落ちている。ただ、全体として覚醒しやすい傾向にある。
幸い、どうしても眠れない場合は処方される薬を飲んでいるため、体調を崩すほどの睡眠不足には陥ってはいない。しかし、このままでは薬を手放せなくなる可能性もあるし、それは避けたいというのが一成の希望だ。
だから、薬に頼らずともきちんと眠れるようになることが目標の一つでもあった。
体調が良くなっていくにつれ、不眠傾向も改善されるのではないか、という期待があった。しかし、今のところ一成は上手く眠れないままだった。太一や監督の言葉に、天馬も思案気な顔で口を開く。
「夢を見る頻度は減ったみたいだけどな。でも、やっぱり今も夢を見てる」
夜の暗さや木々の音に直面した時、一成は自分自身が殺されるという体験を鮮明に頭に描き出してしまう。その時の様子を、一成は夢に見る。
動かない体にナイフを突き立てられて、ただ殺される。徹底的な暴力で蹂躙され、命を奪われる。悪夢と言っていいその夢を、一成は浅い睡眠で何度も繰り返し見ていた。
夏組が一緒に寝るようになって、その頻度は減ったらしい。ただ、時々夜中に具合が悪くなることがある、と三角や椋から聞いていた。
一成は「夢だってわかってるから大丈夫だよ」と言うけれど、その顔は真っ白で呼吸も細い。今にも消えてしまいそうに弱々しかった、と悲しそうな顔で言っていたことを覚えている。天馬はマグカップを両手で握った。
夢を見る頻度が減った、その事実は喜ばしい出来事だ。夏組と一緒に眠ることで悪夢を遠ざけることができたなら嬉しいと思う。
だけれど、本当は悪夢なんて全て消し去ってやりたいのだ。自分自身が殺される夢なんて、二度と見てほしくなんかない。
一成が見る夢は、ただ美しくて色あざやかなものがいい。一つだって心を傷つけることのない、ただ幸せな夢がいい。
「一成にできることなら何だってしてやりたい。できるなら、悪夢なんて全部オレが引き受けてやりたい。一成はそんなこと望まないけど、でも、もう二度と悪夢なんて見てほしくない」
誰に言うでもなくつぶやかれた言葉は、天馬の心からの本音だった。
一成の心がこれ以上傷つくことがないように、苦しむことがないように、天馬は何だってしてやりたかった。一成が悪夢を見るというなら、代わりに全部自分が引き受けたかったし、幸せな夢だけをあげたかった。
「そんなこと言ったって、あいつはうなずかないだろうけどな」
苦笑を浮かべた唇で、天馬は言葉を継ぐ。テンテンだけ苦しい思いをさせるなんて嫌だよ、と言う一成の様子は簡単に想像できる。自分の傷が誰かの傷になるのなら、一人で抱えていることを選ぶのが一成なのだと知っている。だけれど、それなら、と天馬は思う。
「――あいつの傷くらい、オレに分ければいいんだ」
もしも天馬が一人で傷を抱えれば、自分に分けろと言うくせに。自分の傷は握りしめて離そうとしない。天馬や夏組に渡ってしまわないよう細心の注意を払うに決まっている。
それは一成のやさしさであり、同じくらいに彼の強さの証だと知っている。天馬はそれを尊敬しているし、大事にしてやりたいとも思っている。
だけれど、一成の悪夢に消える気配がないのなら。未だに一成を捕まえ続けて離さないというのなら。
「抱えきれなくて苦しくて、一人で悪夢を見るくらいなら、重荷も苦しみもオレたちに分けてほしい」
ずっと思っていたことがあった。心の底にあったけれど形になることはなかった思いは、監督や太一と話している内に具体的な姿となり、天馬の唇からこぼれ落ちる。
己の心を形にした声が自身の耳に届いたことで、天馬は確信を深める。奥底の望み、願っていることがある。
一成はずっと、たった一人で悪夢に耐えている。夏組がいるからあんまり夢を見なくなったよ、と笑うけれど、その夢を夏組に渡そうとは決してしない。
夢の内容なら話してくれるから知っている。だけれどそれだけで、この悪夢は自分一人で耐えるべきなのだと頑なに信じている。
一成の強さを、夏組も天馬も信じている。だから、いつか力になれる日が来たら、すぐに手を差し述べるのだという決意だけを胸に、黙って見守ることを選んだ。
だけれど、一成のもとから悪夢は未だに去らないのだ。血だらけの夜に閉じ込めたまま、一成の心を傷つけていくだけなのだ。だからもう、それなら。
「一人で全部を抱えるには重すぎるなら、オレたち6人で分ければいい」
真っ直ぐとしたまなざしで放たれた言葉は、揺るぎのない天馬の決意だった。奥底の思いが形になってしまえば、自分のすべきことはすぐにわかった。
だからこそ、天馬は口に出して声にする。願いを、祈りを、形にして告げれば、それは強固な決意となり、自身の心に火を灯すのだ。
一成の傷を5人で引き受けたら、きっと悲しそうな顔をすることはわかっていた。そんなことはしなくていいと首を振るに違いない。それでも、天馬は決めたのだ。夏組だってきっと同じ気持ちに違いない。
たった一人で悪夢に耐えるのは、一成の果たすべき義務ではないのだ。一成はきっと、一人だけでもどうにかなると言うし、それだけの強さもあるだろう。
だけれど、もう奥底の願いに気づいてしまった。これ以上たった一人で耐えてほしくない。その苦しみも重荷も、オレたちに分けてほしい。
未だに去らない夜に囚われているのなら、悪夢が一成を離さないというのなら、その苦しみも重さも全部、一緒に持ってやればいい。たった一人で悪夢に耐える必要なんかない。6人で分けてしまえば、きっとその重荷は軽くなる。
「――天馬くんらしいね」
天馬の言葉を聞いた監督は、静かにつぶやいた。太一もこくりとうなずいて「夏組リーダーって感じッス」と言葉を添える。
夏組の仲の良さは、MANKAIカンパニーの人間誰もが知るところだ。気づいたら全員一緒にいるから大体セット扱いされている。
そんな夏組は、何よりも6人でいることの意味を強く知っている。いつだって手をつないで走っていく。誰かが倒れそうなら、他の5人が手を引いてどこまでだって空高く駆け上がっていく。それこそが夏組だ。
二人の言葉に、天馬の決意はよりいっそうあざやかになっていく。背中を押されるような気持ちで、そっと自身の心を握りしめる。
たった一人を思い描けば、祈るような心がするりと形になる。
笑っていてほしい。これ以上傷ついてほしくない。一成の笑顔を知っている。ピカピカと明るく笑う顔、やわらかな光で紡いだみたいなほほえみ。暗闇を照らし出すような、そっと明かりを灯していてくれるような、そんな風に笑ってくれる。大切な、オレの宝物。
これ以上傷つくことがないように、辛い思いをしないように。その痛みを、重荷を、苦しみを分かち合うと決めた。
そのために何ができるか、と思案を浮かべた天馬は、はっとした表情を浮かべる。思い出したことがあった。全員で分け合えば、どんな痛みだって抱えていられた経験なら自分たちは知っている。
世界が終わってしまうような痛くて苦しい現実だって、全員で分け合ってどうにか自分を支えていた。一成がいなくなった時、残された夏組はその痛みを5人で分け合った。どうにか崩れ落ちずに済んだのは、全員一緒にいたからだ。
「――監督」
強い決意を浮かべた天馬は、真っ直ぐと監督を見つめた。
訪れなかった過去の記憶が告げている。あの時、悪夢みたいな現実を前にして、残された夏組は5人で共にいることを選んだ。あまりにも大きな喪失は、一人で抱えることなどとうていできなかったからだ。
全員一緒に同じ時間を分け合って、痛みも傷も等分することで、どうにか自分を保っていた。
「頼みがあるんだ。聞いてくれるか」
どんな意味があるのか、天馬にもはっきりわかっているわけではない。それでもきっとこうするのが正解だ、と天馬は思った。
あの時の自分たちがギリギリのところで踏み止まれたのは、全員で痛みを分け合ったからだ。たった一つの大きな喪失をどうにか分け合った場所でなら、きっと一成の痛みを等分することだってできるに違いない。
だから今度はきちんと6人で、同じ場所で同じ夜を過ごして、同じ夢を分け合うのだ。