終演までは、どうかワルツを。 22話
三角が帰ってきた。
両手いっぱいに「お土産」を抱えて帰ってきた三角は、MANKAI寮のメンバーに盛大に出迎えられた。
一つずつ、自分が見つけたサンカクを披露して、迎えてくれたメンバーに挨拶をしてから、三角は顔を明るくして一成に抱きつく。
「かず、おかえり~!」
「すみーが言っちゃう? でも、ただいま、すみー!」
ハグしあう三角と一成に、最終的に九門も混じって「安定の夏組」と言われながら、その日は三人そろって203号室で一夜を過ごした。
翌日はただの平日だ。九門は当然出勤しなくてはならず、一成と三角がそれを見送る。一成は特に打ち合わせなどもないし、三角は凱旋公演前の貴重なオフだった。
そうとわかれば、二人の行動は迅速だった。
「すみー、あっちのはどう!?」
「んんー、あれは良いサンカク!」
「やった! 今日初めてかも!」
用意してもらった朝食をありがたくいただいてから、二人は外へ飛び出した。
目的は当然サンカク探しである。天鵞絨町へ戻ってきた三角は新しいサンカクを探したかったし、一成はワクワクするような宝探しを三角と一緒にやりたかった。
なので、水分補給の手段と日よけの帽子を装備した二人は、天鵞絨町に散らばるサンカクを探し求めて歩き回った。
お店の装飾、看板の文字、商品パッケージ、窓の形、浮かぶ雲、街路樹の葉っぱ、建物の影。
目に入る風景から、二人はたくさんのサンカクを見つけ出す。三角による判定に一喜一憂しながら、一成は楽しそうに街の景色に目を凝らしていた。
「かず、こっちこっち~」
三角の先導で路地裏を進む。一成も天鵞絨町にはだいぶ詳しいし、抜け道の類はよく知っているほうだ。しかし、三角はそれに輪をかけて天鵞絨町の道に詳しい。
というか、道なき道すら把握しているので、もはや道という概念すらないのかもしれない。
今回は比較的ちゃんとした道(とは言っても細い路地裏を何度も曲がったので、同じ道を辿るのは中々難しそうだ)を進み、小さな公園へ到着する。
一成自身時々訪れたこともあるし、他のメンバーとやってきたことも三角と一緒に来たこともある。もっとも今回のようなルートは通っていないけれど。
三角と一成は、公園内でサンカク探しをしてから、木陰のベンチへ座った。帽子と水筒を装備した小学生の姿がちらほらあり、すでに夏休みが始まったことを告げている。
「やべー、オレらも小学生になったみたいな気がする!」
装備はもちろん、やっていることもわりと小学生らしい自覚はあった。もっとも、実際の小学生時代にこんな思い出がないのは一成も三角も同じだ。
「小学生のやり直しって感じだねん!」
「かずと小学生~」
手でサンカクを作った三角が嬉しそうに答える。
二人ともすでにいい大人なので、小学生も何もないことはわかっているけれど。ひとりぼっちの子ども時代をやり直せるのは、二人にとって充分意味のあることだった。
傍から見れば大人が何をやっているのか、と思われそうな事態でも、天鵞絨町という場所柄芝居関係だと判断されることも幸いなのだろう。
夏の太陽を木陰が遮り、くっきりとした木洩れ日がベンチに落ちる。二人は喉を潤し、飴を舐めてしばしの休息を取る。話すのは他愛のないことばかりで、空気はただゆるやかだ。
「猫さんも涼しいところにいるかな~?」
「夏だからね~。猫って涼しい場所探すの得意らしいし、お気に入りのところにいるのかも!」
「そっかー。じゃあ、帰りに挨拶行こうかな~。かずも一緒に!」
「オレも一緒していいの? やった」
キラキラと散る光の中で、ありふれてささやかな会話をしている。それは昔と何一つ変わらない風景で、一成の心は途端にあの頃に戻っていく。
長い年月が経ったなんて嘘みたいだ。MANKAI寮に帰ったら、夏組がみんなそろっているような、そんな錯覚を覚えるくらい三角と一緒にいる時間は、昔と変わらない。
「帰ったら何しよっか?」
「おにぎり作る! それから、紙飛行機飛ばそ~?」
「りょっす!」
これからの予定を聞いてみれば、すぐに答えが返ってくる。
本日は一日サンカクデーになるのだろうし、一成にとってもそれは楽しい予定だ。三角が好きなものと過ごす時間は一成の心を躍らせるものでもある。
それから二人はサンカク探しを再開させて、公園や街中を歩き回った。いい時間になったので寮へ帰り、宣言通りおにぎり作りに取り掛かる。
寮にいたメンバーにおにぎりを振る舞えば、「このキレイなサンカクおにぎり見ると三角さんが帰ってきたって気がすんな」というコメントがあり、三角と一成は顔を合わせて笑った。
少し休憩をしたあとは、中庭で紙飛行機大会が開催される。デザイン重視の一成の紙飛行機や、ぐんぐんと飛距離を伸ばす三角の特製紙飛行機がよく晴れた空を飛び交う。
気づけば二人以外も紙飛行機を作り始めたのは、もはやMANKAI寮にとってはお決まりのパターンかもしれない。
誰かが楽しそうなことを始めたら、他のメンバーも集まって参加する。人数が少なくなってもそれは変わらない。
一成がMANKAI寮にいた頃から、24人の団員がみんなそろっていたあの頃から、何一つ変わらない。
いつだって簡単に、この場所は一成をあの頃の自分へ引き戻す。
大人に近づいて、だけれどまだ子どものままだった。背伸びをして未来を見ようとして、立ちすくんだら隣に立って手をつないでいてくれる人がいた。子どもから大人に向かっていく最後の季節を過ごした。
ここにいると、あの頃の自分がすぐに顔を出してしまう。それはきっと、周りにいる人たちが変わらない顔でいつだって出迎えてくれるからなのだろう。
しみじみした気持ちで一成は思っていたし、どこかしんみりした雰囲気を漂わせていたのだけれど。
紙飛行機の散乱した中庭を発見した左京に、惨状を怒鳴られた時はつい爆笑した。あまりにもあの頃の自分たちをトレースしすぎていて、面白くなってしまったのだ。当然よけいに怒られた。
そういうわけで、一成と発案者である三角は、左京によって中庭の片づけを命じられた。
「――はー、これで全部かな?」
「うん! この袋で最後だよ~!」
元々片付けは自分たちで行うつもりだったので、テキパキと作業を行った。ただ、ついでに中庭の掃除も始めたので、夕食を挟んでから片付けは完了した。
ぎゅっと袋の口を締める。あとは明日の朝、ちゃんとゴミ出しを終えれば終了だ。
「くもぴは遅くなりそうなんだっけ?」
「そう~。お仕事終わらないんだって。しょぼーん」
肩を落とす三角の言う通り、九門からは帰宅が遅くなる旨の連絡が来ていた。
三角も帰ってきたし早く帰りたいのに! と言っていたけれど、明日有給を取っていたはずなので、その関係で今日はよけいに仕事が立て込んでいるのかもしれない。
「だから、先に始めててーだって」
気を取り直したように言うのは、九門が帰ってきてから始めようと言っていた酒盛りである。三角もせっかく帰ってきたし、ささやかながら三人で酒宴を催そうという算段だった。
「くもぴ帰ってきてからでいいんじゃない?」
どうしても今すぐ始めなければいけないわけではないし、という気持ちで一成は言う。しかし、三角は勢いよく首を振った。
「くもん、オレたちがずっと待ってたらそっちのほうが悪かったなって思っちゃう」
「それはあるかも~……」
九門の性格を考えればそれはさもありなん、という事態だった。先に始めてたよ、と迎えたほうが確かに九門の負担にはならないかもしれない、と一成は考える。
「それじゃ、くもぴに甘えて先に始めてよっか~」
そう声をかければ、三角が嬉しそうにうなずいた。