終演までは、どうかワルツを。 24話




 帰宅した九門を出迎えて、屋根の上の酒宴は続いた。
 もっとも、三角は明日から凱旋公演の稽古が始まるし、九門も明日は用事がある。それに、あまり遅くまで外で騒いでいるわけにもいかない。最終的には203号室に場所を移して、ささやかな夜を過ごした。
 その途中で、一成は前から思っていたことを切り出した。「そろそろ家に戻ろうと思う」と。
 九門と三角は「えー!」「ずっといればいいのに~」と言うし、それは心からのものだろう。しかし、一成とて寮が嫌になって出ていくわけではないのだ。
 あまりお世話になるは気が引けるというのもあるけれど、仕事の関係上やはり自宅のほうが何かと勝手が良いのも事実だ。
 そう言えば、ことさら引き留めることをしないのが二人だというのもわかっていた。一成の仕事に対する情熱を理解して、背中を押してくれるのだから。
 しかし、「あ、でもだめだよ、カズさん!」と九門が声を上げた。予想外の言葉に一成が瞬きをすると、スマートフォンを掲げて九門は言う。

「椋から、『ボクもカズくんとお泊り会したいです!』って来てて。ほら、幸もオレもすみーさんも、カズさんと一緒にお泊りしてるでしょ。椋だけやってないから、自分もお泊り会やりたいんだって」

 そういうわけで椋は、九門に対して一成が家に帰らないよう引き留めてほしいとお願いをしたらしかった。
 一成は「えーと」と口ごもる。確かに、成り行きで幸とも九門とも三角とも同じ部屋で寝泊まりはしているけれども。

「かず、どうしても忙しい? 急ぎの用事ある?」
「そういうわけじゃないけど……」

 眉を下げた三角に問われて、脳内でスケジュールを確認して答えた。
 広い所で作業したいとか、現物で確認したい資料があるとか、そういった細々とした点で自宅に戻ろうと思ってはいたけれど、直近の締め切りがあるわけではないことも事実だ。
 そろそろ次の日本画のアイディア出しはするとしても、実際の制作まではまだ時間はある。
 三角は一成の言葉に、ぱっと嬉しそうに笑った。

「それなら大丈夫だね~。むくと一緒にお泊り~」
「やった! それじゃ、カズさん、椋に返事していい? えっと、都合が良ければ明日には迎えに来るって言ってたけど」
「早くない!?」

 自分のいない所で何だか勝手に事態が進んでいる。しかし、三角は「善は急げだよ~」とのんびりしているし、九門も九門で「椋ずっと待ってたから!」と快活に答える。
 知らない所で外堀はとっくに埋まっていたのだろう。それに。

「かず、だめ?」
「カズさん、だめかな?」

 うかがうような様子の三角と九門を前にして、否定の言葉を口にできるわけもない。何より、愛すべき元ルームメイトの望みとあらば、答えなんて決まっている。

「ううん。大丈夫だよん」

 あまりにもとんとん拍子に進んでいくので驚きはしたけれど、嫌だったわけじゃない。だから一成は、思わず笑みの浮かんだ唇で心からの答えを返した。