終演までは、どうかワルツを。 27話
「二人が一緒にいる光景は、すごく綺麗だったんだよ、カズくん」
目を細めて、やわらかな口調で告げる椋の言葉を一成はどんな顔をして聞けばいいのかわからない。
寮を出たばかりのころは特に忙しくて、天馬と話していてもつい船を漕いでしまうことがあった。そのまま天馬に寄りかかって寝てしまって、起きたあとに慌てて謝ることも多かった。
だけれど、そんな時の天馬はひどく嬉しそうに「別にこれくらい何てことはない」と答えたのだ。
あとになって聞いてみれば、「オレの隣で安心して寝てるのも、寝顔を見てられるのも嬉しかったんだよ」と言われて、一成は顔を染めることになったし、天馬にとってあの時間は恋人として過ごせる貴重な時間だと思われていたことも知った。
だけれど、そんな風に。愛おしさの全てを込めて頭を撫でられていたなんて、まるで知らなかった。
「――っていうか、やっぱりむっくんも気づいてたんだね……?」
飽和してしまいそうな頭どうにかしたくて、ひとまず一成は軽口めいた言葉を投げる。椋はおだやかに答えた。
「何となくだよ。天馬くんに『オレと一成は恋人同士だ』って言われた時は、やっと答え合わせできたなぁって気持ちだったけど」
椋の言葉に、一成は頭を抱えたくなる。幸にも気づかれていたし、三角も何だかんだで勘づいていた節がある。恐らく完全に気づいていなかったのは九門だけだろう。
そんなに自分たちはわかりやすいのだろうか、と思っていると椋が静かに言った。
「隠さなくてもいいのになぁって思ってたよ。二人があんまり言いたくないみたいだから、ボクたちも黙ってたけど……」
「やっぱりちょっと恥ずかしかったんだよねん……。むっくんたちを信用してないとか、そういうのじゃ全然ないんだけど!」
そこは否定しておかないと、と全力で否定すれば椋はふんわり笑った。
「うん、わかってるよ。だから、二人ともボクたちにちゃんと教えてくれたんだよね」
たとえ勘づかれているとしても、MANKAIカンパニーのメンバーには正式に「一成と天馬が恋人同士である」とは伝えてはいない。
しかし、夏組にはちゃんと言葉で宣言したのは、大切な彼らに隠し事をしたくなかったからだ。それをきちんと受け取ってもらっていることを察して、一成は「うん」とうなずいた。
それを聞いた椋は、なんだか嬉しそうに、目をキラキラさせて言う。
「恥ずかしがって教えてくれなかったカズくんが、今回天馬くんのことどれだけ大切に思っているかを話してくれて嬉しかったんだ」
それは、幸や九門、三角に伝えた言葉を指していた。
一成の言葉はどれをとっても天馬への想いにあふれていた。大好きで大切。世界で一番大事にしたい。笑ってほしい。幸せでほしい。
だから隣にはいられないという結論だったとしても、一成の言葉はただ真っ直ぐと天馬に向いていた。それを語ってくれたことが、椋にはたまらなく嬉しかった。
「だからね、今度はカズくんの話が聞きたいな」
にっこりと力強い笑顔で言われて、「ん?」と一成は首をかしげた。自分の気持ちなら充分話したのでは、という気持ちで。椋はそんな一成の戸惑いを察したのか、さらに言葉を継ぐ。
「カズくんが、どれだけ天馬くんを大事に思ってるかは聞いたよ。でも、天馬くんにこうあってほしいっていう話じゃなくて、カズくんがどんな時にどんなことを思って、どうしたいって思ったのかを聞きたいんだ」
「――んん?」
普段はだいぶ察しのいい頭をしている一成だけれど、いまいち椋の言いたいことが分からなくてハテナを浮かべる。椋は気を悪くすることもなく、華やかな笑顔で尋ねる。
「告白はどっちからだったの?」
「なんで!?」
「だって、カズくんずっと隠してたからこういう話できなかったし……。ちゃんと教えてくれた時には寮を出ちゃってたでしょ?」
しょんぼりとした顔に、一成は言葉に詰まる。
確かに、寮にいる間は何も言っていなかったのでそんな話はまったくしていない。恋人同士であると宣言した時には、一成が寮にいなかったし椋も就職が決まって何かと忙しかったのでそういった話をするほど深い時間を設けられなかったのも事実だ。
「――ボク、ずっとカズくんとこういう話したかったんだ。だめかな?」
うかがうような調子に、一成は黙る。一成は椋の――椋に限らないけれど――弱ったような顔に弱い。できることなら何でもしてやりたくなってしまう。
椋の場合、そういう一成の性質を見抜いていないにも関わらず、自然体でできるのがある意味最も厄介だった。
「――告白はテンテンかな……?」
観念した一成は、とりあえずそう告げる。
椋はぱっと顔を輝かせて「天馬くんなんだ! 格好良かったんだろうな~。あ、秘密にしたいことは話さなくていいからね!」と言っていて、配慮があるのかないのかよくわからない。
「初めてのデートってどこに行ったの? 待って、でも天馬くんは芸能人だからデートとか行けない……? それともお忍びデートとか……!?」
「デートっていうか……オレたち普通に二人では出かけてたからね……」
「でも、カズくん的にデートって認識したお出かけはあったと思うんだ。やっぱりそれを初デートで呼ぶんじゃないかな」
椋が力説するので、一成は何となく「そういうものなのか」と納得する。あまり深く考えてはいけない気がした。
「デートかぁ……。オレはテンテンと一緒ならどこでも嬉しかったからなー……。買い出しだって、テンテンと一緒ならめっちゃテンション上がったもん」
思い出しながら言えば、椋がキラキラとしたまなざしで一成を見つめている。うんうん、と激しく首を上下に振っていて何やら全力で肯定しているようだった。一成は思わず苦笑を浮かべる。
「むっくん、この話聞いてて楽しい?」
「すっごく! ボク、カズくんと恋バナしたかったんだ……!」
「恋バナ……これ恋バナなの!?」
「カズくんと天馬くんは恋人同士なんだから恋バナだよね」
キラキラと断定されて、一成は何だかむずがゆい気持ちになる。確かに言われてみればその通りなのだけれど、甘酸っぱいその言葉が自分にあてはまる日が来るとは思わなかったのだ。
「天馬くんって、デートの時はエスコートしてくれるのかな。それとも、オレについてこいってタイプ……? カズくんはどっちのほうが好き?」
「エスコート頑張ってるテンテンも、引っ張ってくれるテンテンも好きだよん。でも、一緒に楽しめるのが一番好きかも」
「わあ、素敵だなぁ。そうだよね、二人で出かけるんだもんね……!」
椋は一成の言葉一つ一つに、時には手を叩いて喜び、時には頬を染めて酔いしれる。
一成は苦笑しつつも椋が喜んでいるという事実に、まあいいか、と思ってその光景を眺めていた。