終演までは、どうかワルツを。 34話




 六人全員で手をつないだまま、深々とお辞儀をする。
 終わった。やり切った。高揚感が全身を包んでいるけれど、一成は自分を奮い立たせる。これで全ては終わりじゃない。オレにはまだやることがある。
 頭を下げた状態で、一成はめまぐるしく頭を回転させる。言うべきことは何か。どの順番で何を口にして、どう伝えるか。要点をまとめてシナリオを組み立てる。
 頭上に降り注ぐ拍手の音を聞きながら、一成は自分がすべきことを頭に叩き込み、ゆっくりと顔を上げる。

「――ってわけで、夏組全員集合公演、ゲリラ告知でした!」

 開口一番、全開の笑顔でそう言い切る。一成の笑顔と言って誰もが真っ先に思い浮かべる、明るくてテンションが高くて、軽快な笑顔だ。
 一成は一歩前に進み出て観客の顔ぶれを確認し、こんな時にノリよく答えてくれそうな集団にアタリをつける。ついでに結局最後まで配信を続けたカメラに向かって手を振った。

「今度の夏組公演は全員集合だから、ただの告知じゃ面白くないっしょ? だから、ストリートACTでゲリラ告知してみたよん♪みんな、どうだった? いきなりで驚いたー!?」

 ハイテンションで語りかけると、案の定ノリの良さそうな女子高生集団から声が返ってきた。「びっくりしたー!」「驚いたよー!」という声に、「ごめんねー!」と返事をする。
 それから、さらにテンションを上げて質問を重ねる。

「ゲリラ告知ストリートACT、面白かったって人、手挙げて~!」

 あちこちから元気な「はーい!」という声と共に手が挙がるのは、ひとえに天鵞絨町という場所柄によるものと、一成の空気感によるものだろう。
「めっちゃ笑った!」「サイコーだった!」という声に、一成は両手を振って「ありがとー!」と答えを返している。
 一通り、集まった集団とコミュニケーションを取ってから、一成は一つ咳払いをした。
 夏組の空気が少し変わったのを背中で感じた一成は、いつもの笑みを維持したまま口を開く。

「みんな色々驚かせちゃったと思うけど、実は! 今回はテンテンにも色々小道具とかも用意してもらったんだよね~! 自分が使うものは自分で用意するって、さすがはテンテンオレらのリーダー☆」

 言葉とともに振り返り、「テンテン、カッコイイ~!」とはやしたてれば、椋が「さすが天馬くんだよね!」と乗って、九門も「天馬さんカッコイイよね!」と続いた。

「その辺ね、ほら、テンテンってガチじゃん? 役作りとかマジのマジで、成り切るタイプだから……小道具だろうと手は抜かない! っていうプロ根性でお店通い詰めて激写されてんのマジでウケるよね!」
「笑い事じゃないだろ」
「そういうところ、本当ポンコツだよね」

 不貞腐れたように天馬が言えば、幸が呆れたように肩をすくめた。三角が「サンカクの指輪にした~?」と問いかければ「どんな指輪だよ」と天馬が返す。
 夏組を知っていればいつもの光景で、映像でしか皇天馬を知らない層から見ればかなり新鮮な姿だった。

「――大体、お前らがもうちょっと早く合流すればすぐに告知に入れたんだぞ」

 一成の思惑を読み取った天馬がそう口にする。
 婚約指輪のスクープは小道具のために通い詰めていただけ。何のための小道具かと言えば、今回のゲリラ告知のためである。
 それを本当の婚約指輪だと勘違いしたゴシップ記事が突撃取材を敢行した、という筋書きだ。

「ごめピコ~☆でも、告知前だからって黙っててくれて、ありがとねん!」

 天馬が何も言わなかった点についても、それとなくフォローを入れる。
 あくまでも予定外の出来事だったため、どこまで何を話していいかわからなかったので話せなかった、という設定だ。

「でも、天馬くん、何も言ってないのにゲリラ告知のスタートわかってくれたの、さすがだよね!」

 はっとした顔で椋が言う。恐らく全員、一成の言葉から辿り着きたい結論を察している。だから、そのために必要な情報を考えて口に出しているのだ。
 多少無理があろうとも、さもそれが事実のような顔で言い切るしかないこともわかっている。力業で駆け抜けるのだ。

「まあね。本当だったらもう少しあとで、もっと色々準備してやるつもりだったんだけど……ポンコツがうっかり突撃取材なんてされるから、こうなったらこれを逆手に取るしかないってわけでこんな感じ」

 幸が呆れた顔をしつつ、状況を説明してくれる。
 今回の突撃取材はあくまでもイレギュラーであり、自分たちとは関係ない。ただ、それを幸いとして元々予定していたゲリラ告知に踏み切った、という体だ。

「でもでも、おかげでめちゃくちゃいっぱい見てくれたっぽいよ! ほら!」

 スマートフォンを操作した九門が、SNSの様子を掲げて見せれば人だかりからも声がかかる。
「トレンドめっちゃ埋まってるよー!」「急上昇ワードも夏組ばっか!」「配信ランキング一位だよ!」との声に、一成がテンション高く反応した。

「マジマジ!? やっぴー! これはオレらの時代来たんじゃね!?」
「サンカク入ってる~?」

 わきあいあいと、夏組は歓声を上げて話題作りに成功したことを喜び合う。一通りそれが落ち着いてから、一成は生き生きとした笑顔で告げる。

「今回のはあくまでゲリラ告知だから、詳細は後日MANKAIカンパニーWebサイトにアップするから待っててねん♪全員集合した最強の夏組をお届けしちゃうよ☆」

 ウィンクを飛ばしてそう言えば、「待ってる~!」「めっちゃ楽しみ!」「全員集合すごい!」という返事。
 途中からスマートフォンでの反応を確認する係になっていた九門が「はやく見たい、夏組全員集合嬉しい、だって!」と報告を挟んでくれるので、Webでの反応も上々なのだろう。

「みんな話題にしてくれてほんっとにありがとう! めっちゃ嬉しい! じゃんじゃんSNSで投稿しちゃって! タグはもちろん、#MANKAIカンパニー #夏組!」

 一成が言えば、他の夏組もSNSでの拡散を呼びかける。天馬がこういった話でタグの使用を頼むことはあまりないので、中々貴重だった。

「サンカクのタグもいっぱいつけてね~」
「混乱するだけだから止めたほうがいいと思うけど」
「サンカクってタグつけられるのかな!?」
「並べたら、おにぎりいっぱいみたいでかわいいかも……!?」
「タグにかわいさ要るか……?」

 三角の言葉をきっかけにそれぞれの感想を述べる夏組を、一成は目を細めて見つめる。

 大事で大切な人たち。これから先、何があっても六人がそろっていればきっと大丈夫。逃げ出しても、怖くなっても、それでもオレを奮い立たせるのは。いつだってオレを強くしてくれるのはこの五人だ。

 その事実をそっと握りしめて、一成は表情を塗り替える。いつもの一成の笑顔を浮かべて、配信のカメラや人だかりに向けて言う。

「オレたちの名前でもじゃんじゃんつぶやいて、タグ付けもしてねん! トレンド全部オレたちで埋めちゃお! っていうか、MANKAIカンパニーでトレンド一位狙ってこ! これ、オレたちだけでやってるからあとで絶対怒られるんだけど、トレンド一位取れたらあんまり怒られないかもだし!」

 その辺りは現実的に切実な問題だった。
 今回の件は、完全に夏組の独断によるものだ。下手をしたらMANKAIカンパニーにも迷惑がかかる事態だったし、天馬などは事務所から厳重注意が待っていることは確実だった。

「オレたちを助けると思って、いっぱい感想投稿してねん! 待ってるよ!」

 お願い、のポーズを取ると「任せて~!」「投稿する~!」との返事があり、九門経由でSNSでもたくさんの投稿がされているとの報告が入る。夏組がそれぞれ感謝の言葉を述べていると、九門が言った。

「――あ、カズさん」

 九門はスマートフォンを一瞬確認したあと、ちらりと視線を人だかりの向こうへ投げる。夏組も同じ方向へ視線を投げて、意味するものを瞬時に理解する。夏組は再び手をつないだ。

「いきなりだったのに、楽しんでくれてありがとー! 次は夏組全員集合の劇場公演で会おうね!」

 そう言った一成が一つ呼吸を置く。息を吸い、よく通る声で言った。

「夏組ゲリラ告知にお付き合いいただき、ありがとうございました!」

 五人が同じように「ありがとうございました!」と唱和して、頭を下げた。
 鳴り止まない拍手にしばらく頭を下げていたけれど。クラクションの音が響いて、次々に頭を上げると「またね!」「ありがと」「サンカク~」「ありがとうございました!」と言って、人混みを抜けて走り出す。
 向かう先は、夏組にとっては見慣れたミニバン。運転手は井川である。

 集まった人たちに最後まで手を振っていた一成は、天馬に「行くぞ」と言われて、少し遅れて夏組の背中を追いかける。
 ただ、その前にちらりと振り返って、今までずっと自分たちをとらえ続けていたカメラに目を向ける。ほとんど風景と同化していたリポーターがびくり、と震えたようだけれど、一成は構わない。
 配信中を示すランプを確認し、カメラに向かって笑顔を向ける。ウィンクつきの、三好一成渾身の笑みだった。