ハニー、こっちにおいで。



 天馬の髪を乾かす間も、「ダーリン」と呼んだら「ハニー」と答えてくれた。そのあと、リビングでソファに座っている時も、コンビニで買ってきたカップアイスを二人で食べている時も、天馬はきちんと「ハニー」と呼んでくれるので、一成はくすぐったい。
 普段の天馬であれば、そもそも呼んでくれないか、呼ぶとしてもきっともっと照れている。しかし、今の天馬は堂々としていた。

「ハニーのアイスも美味そうだな」
「ダーリン、一口食べる?」

 最初は若干の照れがあったのに、今では何でもない顔で天馬は言ってくれる。一成はくすぐったい気持ちのまま、自分のチョコレートアイスをスプーンですくって差し出した。
 天馬はためらわず口を開き、一成のスプーンを受け入れる。「美味いな」と言うと、当たり前のように自分のアイスをすくった。

「こっちも美味いぞ。食べてくれ」

 嬉しそうに差し出されるスプーンを、一成はぱくりと口へ入れる。コクのあるミルクに、バニラビーンズがふわりと香る。濃厚なバニラアイスの風味が広がり、冷たい甘さが心地よく溶けていく。

「ん、めっちゃ美味しい! さすが、ダーリンが好きなアイスだねん!」

 夕食の前に、一成は天馬とともにコンビニへ赴いた。泊まるのに必要なものを調達したかったのだ。
 さすがに天馬も、外でキスや手をつなぐことをねだりはしなかった。とはいえ、そばにいたいという気持ちは揺るぎないようで、ずっと一成のあとについてコンビニを見て回っていた。
 かわいいなぁ、ときゅんきゅんしつつ、「デザートにアイス食べたくね?」と言えば、天馬は嬉しそうにうなずいた。一成は最近発売されたチョコレートアイスを、天馬は好んでよく食べているバニラアイスを選んだのだ。

「それに、ダーリンが食べさせてくれるから、よけいに美味しいよん!」

 心からの言葉を、一成は告げる。濃厚なバニラアイスは昔からある定番品で、評価も高い。味については保証されているから、美味しいのは当然だと言うこともできるけれど、きっと違うのだと一成は思う。
 他の誰でもない天馬が、自分の好きなものを食べさせてくれる。一成に美味しいものをあげたいと、心ごと差し出すみたいに。天馬の気持ちを込めて、口へ運ばれるアイスクリームだ。世界で一番美味しく感じるのは当然だった。

「それならよかった。オレも、ハニーが喜んでくれると、よけいに美味く感じる」

 嬉しそうに言う天馬は、やさしく目を細めた。一成が幸せでいることが何よりの喜びなのだと、まなざしが告げている。
 そそがれるもの、渡される気持ち。天馬から伝わる何もかもで、一成の胸は甘く満たされていく。
 それからしばらくリビングで過ごしていると、いい時間になった。そろそろ寝ることにしよう、と天馬の部屋へ向かう。甘い気持ちは途切れることなく、一成は何だかふわふわとした気持ちで、勝手知ったる部屋へ入る。
 落ち着いた雰囲気の家具で統一された部屋は、ずいぶんと広い。ぎゅうぎゅうにはなるものの、夏組全員分の布団を敷けるくらいなのだ。
 ただ、今日は特にその用意はしていない。一成だけが泊まる場合は、ベッドにお邪魔するのが常だった。わざわざオレの分用意しなくていいっしょ、なんて言っているけれど、単純にくっついていたいだけだったし、それは天馬も同じだった。ベッドは充分な広さがあるので、二人でも寝られることは、経験上重々知っている。
 簡単にベッドを整えた天馬は、少し端に腰掛ける。それから、一成を見つめて口を開く。

「ハニー、こっちに――隣に座ってくれないか」

 そう言って自分の横を指し示すので、一成はこくん、とうなずく。それから、天馬の隣に隙間一つもないように、ぴったりと寄り添って座った。
 ただ、それだけでは足りない気がして、天馬の手に自分の手を重ねる。すると強く握り返されるので、一成は唇をほころばせて、ぎゅっと手をつないだ。
 ゆるやかに沈黙が流れる。言葉はなくても構わなかった。ただ、重ねた手から互いの体温を分かち合う。
 しばらくの間そうしていると、天馬が口を開いた。

「眠いか?」

 心配そうな声に、一成は「大丈夫だよん!」と首を振る。眠いなら今すぐベッドへ入った方がいいのでは、と天馬が考えていることはわかった。だから、一成は心から言う。

「もうちょっと、二人で話したいな」

 横になるのではなく、こうして座っているのはきっと天馬も同じ気持ちでいてくれるからだ、と一成は思っている。
 もっと二人の時間を過ごしたい。このまま寝てしまうのではなく、もっと話がしたい。声が聞きたい。二人の気持ちはきっと一つだった。
 それを裏付けるように、天馬は力強くうなずく。「オレも、もう少し話がしたかった」という言葉に、一成は嬉しそうに笑った。普段の明るさやにぎやかさではなく、とろけてしまいそうな、やわらかな笑み。
 天馬はその微笑をじっと見つめると、つないだ手に力を込めた。自分の方へ引き寄せる。
 一成はすぐに察して、目を閉じた。天馬の顔が近づいてきて、やわらかくキスを落とす。ついばむように何度か唇を食んで、ゆっくりと離れていった。
 まぶたを開くと、難しい顔をした天馬が目に入る。どうしたのか、と聞く必要はなかった。天馬は拗ねたような、ふてくされたような口調でこぼす。

「今日は何もしないって決めたからな。ここまでだ」

 残念そうな響きで言うので、一成は面白そうな笑みを浮かべる。
 すっかり夜になった時間帯。恋人同士でベッドの上。互いの思いを確かめ合った口付け。ここまで条件がそろっているのだ。二人も何も初めての夜というわけでもないので、そういう流れくらいわかる。

「オレは別にいいよって言ったのに!」
「オレが嫌なんだよ」

 からかう口調で一成が言うと、天馬が重々しく返した。心の底から、といった響きできっぱりと。

「明日になったら、忘れてるかもしれないんだ。そんなの嫌だろ」

 告げられた言葉には、揺るぎない意志がみなぎっている。一成は笑みを浮かべたまま、ついさっきのやり取りを思い出す。
 リビングのソファでも、天馬と一成はくっついて座っていた。距離は自然と縮まって、じゃれあうようなキスを交わす。ただ、それは親愛の延長にあるような、おだやかなものだった。熱や欲を感じさせない口付けを送ったあと、天馬は「残念だが、今日は何もしない」と告げたのだ。
 思わず目を瞬かせたのは、天馬の家を訪れる時は、そういう雰囲気になることが多いからだ。
 何もそのためだけに家へ行くわけではないけれど、いかんせん寮では人目を忍んでいる。触れ合いたいと望む二人が、誰の目も届かない場所で二人きりという状況になれば、抑えていた欲を解放させるのも道理と言えた。
 なので、今日もそんな感じなのかな、と思っていた一成は、天馬の言葉を意外に思ったのだ。そんな戸惑いを察して、天馬は理由を口にした。どうして今日は何もしないのか。重々しく、怖いくらい真剣なまなざしで告げる。

 ――催眠術が解けた時に、忘れてたら嫌なんだ。

 素直になっただけで、別人になったわけではない。自分の状況について、天馬にもきちんと説明している。だから天馬は、自分が催眠術にかかっていることも、普段と違って、やたらと素直になっていることも自覚している。
 ゆるやかにかかった催眠術なら、一晩経てば解除されるかもしれないことも、もしもそうなったら、かかっている間のことは忘れてしまうかもしれないことも。
 全てを理解しているからこそ、天馬は「何もしない」と決めたのだ。明日になって、全てを忘れていたなら今日の夜のことも、みんな記憶から失われているかもしれない。触れる熱も、自分だけにしか見せない顔も、甘い声も、体中全てで感じる何もかもも。
 そんなことはしたくない、というのは天馬の揺るぎない決意だった。その時のことを思い出して、一成は弾んだ声で言う。

「さすがはオレのダーリン! 一個一個、大切にしてくれて嬉しいよん」

 明るい響きで、冗談めかして言うけれど、これは至って素直な一成の本心だ。
 一成とて積極的に忘れられたいわけではないけれど、何も初めての夜ではない。今日で終わりということもなく、これから先何度だって肌を重ねることはあるだろう。
 だから、その内の一つとして忘れてしまったとしても、それはそれで仕方ない、と言うことだってできる。触れたいという望みを優先させて、刹那的に一晩を過ごす選択肢もある。だけれど、天馬はそうしない。
 心と体の全てで、互いの想いを分かち合う。境界線すらなくなって、一つに溶けていく時間の特別さなら何より知っている。だからこそ、真摯に天馬は告げた。
 一成の全てを抱きしめて、ともに重ねる時間がどれほどかけがえのないものか。理解しているからこそ、忘れてしまう可能性があるなら、何もしない決意をしてくれたのだ。
 一成の言葉に、天馬は顔中に笑みを広げた。それから、楽しそうに弾んだ声で告げる。

「大切にするなんて当たり前だろ、ハニー」

 くすぐったそうな笑みに、心底嬉しそうな雰囲気を漂わせて。一成が望んだ通りの呼び名で答えてくれる。その事実に一成の胸はぎゅっと詰まる。
 天馬の気持ちを疑ったことはないけれど、こんなにも大事にされているのだと、何もかもの全てで愛されているのだと、天馬の言葉が、声が、表情が、行動が、降るように教えてくれる。

「テンテン、好き」

 届けられる思いに突き動かされるみたいに、自然と声になっていた。天馬は少しだけ驚いたような表情を浮かべたあと、すぐにやさしい笑みを浮かべる。やわらかに手をつないだまま、「オレも好きだ」と答えた。それから、いたずらっぽい口調で尋ねる。

「ハニーはもういいのか?」
「そういうわけじゃないけど、テンテンって呼ぶのも好きだもん」

 いかにも恋人らしい呼び方も心が躍るけれど、いつもの呼び名だって当然好きだった。天馬の名前を紡げることも、天馬の声が己の名前を呼ぶ響きも、同じくらいに特別だ。
 一成の言葉に、天馬はきゅっと目を細めた。それから、心の奥底からにじみだすような声で言う。

「ああ、オレも一成って呼ぶのが好きだ。名前を呼ぶだけで幸せな気持ちになれるんだって、初めて知った」

 告げられた言葉は、明確な「好き」よりも強く響いた。そんな風に思っていてくれたんだな、という気持ちで一成は天馬を見つめる。
 はっきりと口に出さなかっただけで、天馬はどんな時だって、こんなにも愛おしい気持ちで想っていてくれたのだ。一成の唇には、まろやかな笑みがやわやわとにじむ。

「テンテンが好きでいてくれるのはわかってたけど、普段は聞けないこと、教えてくれるの嬉しい」

 催眠術によってもたらされた現状だ。天馬にとっては不本意な事態なのかもしれないけれど、天馬の口から、はっきりと気持ちを聞けることは、確かな喜びだったのだ。
 あふれる気持ちそのままに告げれば、天馬は何かを考え込むような表情を浮かべた。引っかかることでもあっただろうか、と「どしたの」と問いかける。
 すると、天馬は真剣な顔で一成を見つめた。深呼吸をして、もう片方の手を取った。両手をぎゅっと握って、天馬は口を開く。

「いつ催眠術が解けるかはわからない。もしかしたら、明日の朝には全部なかったことになってるかもしれない。そしたら、明日のオレはこんなに素直じゃないだろうから、今のうちに言っておく」

 天馬は心から一成を大切に思っているし、一成もその気持ちはしかと受け取っている。互いをたった一人と思い定めているのだと、二人とも当たり前のように理解していた。
 それでも、天馬はどうしたって素直になれないことがある。意地を張ってしまったり、気恥ずかしさが先に立ってしまったり、様々な理由で本心を明かせないのだ。
 一成は「そういうところも好きだよん!」と、明るく言うし、天馬だってそれが心からの言葉であることはわかっている。
 ただ、一成は素直な気持ちを聞くことが、嫌いなわけではない。むしろ、おおいに喜んでくれる。わかっていても、なかなか素直になることは難しかった。
 だけれど、今の天馬は心の全てを形にできる。普段は恥ずかしくて言えないことも、できないことも、何だって表に出せる。
 もしかしたら、明日の朝には解けてしまう、一晩だけの魔法なのかもしれないけれど。一成ならこの夜だけの言葉も、全て受け止めて覚えていてくれると天馬は信じている。
 どれほど人の心を大切にしてくれるか、気持ちに寄り添ってくれるのかなんて、今までの経験からよく知っている。告げた言葉は、届けた想いは決してなかったことにはならない。たとえ天馬が忘れてしまっても、一成の心にはしかと生き続ける。
 何より、天馬の心を取り出して形にすれば、一成は嬉しそうに笑ってくれる。普段とは違う、素直な天馬の言葉を、一成は心底幸せそうに受け取ってくれる。そんな風に、笑顔にしてやれるなら。伝える言葉で幸せにしてやれるなら。天馬のやるべきことなんて、一つだけだった。
 天馬は、真剣な表情で一成を見つめる。力強い瞳で、真っ直ぐ視線をそそいで。深呼吸をすると、ゆっくり口を開く。誓いを懸けるような響きで、天馬は言った。

「オレは一成のことを甘やかしたい。いつだって力になって、助けになりたい。傷つかないように守ってやりたいし、呆れるくらい大事にしたいんだ」

 きっぱりと、真摯な響きで告げられる言葉は、一直線に一成の胸の奥まで届く。
 もともと一成は、普段の天馬の行動の端々から、大事にしたいという気持ちは受け取っていた。
 だけれどきっと、一成が思うよりもっと強く、もっと深く、天馬は思っていた。たくさん甘やかして、大事にしたい、という思いの強さは、たった今告げた言葉や、今日の行動の全てが、揺るぎなく伝えていた。
 天馬は力強く、言葉を続ける。自身の心を取り出す素振りで、一成への思いを語る。

「宝物みたいに、そっと宝箱にしまっておきたいって思う。怖いものからは全部守って、きれいなものだけを贈って、わずらわせるものは全部取り除いてやりたい」

 両手を握った天馬は、そこで言葉を切る。真剣な表情のまま、一成の瞳を見つめて「でも」と続けた。

「お前を閉じ込めたいわけじゃないんだ。広い世界を自由に飛び回る一成のことが好きだからな」

 大事にそっとしまっておけば、きっと何も一成を傷つけるものはないだろう。だけれど、それを選ぶのは一成の本意ではない、と天馬は理解している。
 だって、一成は好奇心旺盛で新しい世界へ次々飛び込んでいく。きらきらと、まばゆい輝きを放って、知らないものに触れていきいきと笑うのだ。天馬はそれを知っている。
 両手で囲んで自分の手の中に閉じ込めてしまえば、傷は一つもつかないかもしれない。けれどそうしたなら、一成の持つ輝きもあざやかさも、きっと失われてしまう。
 だから天馬は、一成を閉じ込めることを選ばない。一成の持つ資質を、望みを、心をありのままに受け止めて、一成という人間をこの上もなく尊重するからこそ。
 決して独りよがりになることなく、大事な想いを懸けてくれている。その事実を受け止めた一成は、震える声で「うん」とうなずいた。
 天馬は一成の答えに、嬉しそうに唇をほころばせた。それから、握った手に力を込めると一成を自分の方へ引き寄せる。額が触れるような距離で、天馬は言う。紫色の瞳に光をたたえて、あらゆるまばゆさを宿した全てで。

「もしも、広い世界を飛び回って傷ついたり怖くなったりしたら、オレに言ってくれ。オレがお前を守ってやる」

 近い距離で一成を見つめて、力強く告げる。心からの言葉は、祈りよりももっと強く、純然たる決意の響きをしていた。
 一成は、広い世界で生きていく。心のままに、新しいものと出会って、自身の喜びへと変えていくだろう。一成はそういうことができる人間で、どんなものからも楽しいことを見つけて、魔法みたいに笑顔にしてしまう。
 だけれど、全てが順風満帆に行くとは限らない。知らない世界へ飛び出していくからこそ、思いがけない出来事に直面することもあるだろう。アクシデントに見舞われることも、思わずすくんでしまう瞬間もあるだろう。
 だから、天馬は言う。いつか、一成が笑顔でいられない時が来たなら。痛みを抱えて途方に暮れる日が来たなら。そんな時は自分を呼んでほしい。思う限りの全てで一成の力になって、どんな痛みや恐怖からも、守ってやる。
 それは、ずっと前から天馬に宿る想いだった。大事な人だと、特別な相手だと思い定めた時から、いつだって天馬は一成の力になりたかったし、守ってやりたいと願っていた。素直に口に出すことはできなかったけれど、ずっとずっと奥底に抱えていた誓いだ。
 この夜なら伝えられる、と天馬は自身の心を形にした。見つめる瞳の輝きで、握りしめた手の力強さで、真摯さを宿した声で、紡ぐ言葉の一つ一つで。あらゆる全てで、天馬は一成に想いを告げた。
 一成はしかと、それを受け取った。天馬の心そのもののような言葉は、真っ直ぐと胸の奥まで届いて、一成の心はどうしようもなく震える。
 今までだって、天馬がどれほど大事にしてくれているかは、よくわかっていたけれど。
 素直になった天馬は、一成が思った以上の力強さで、深く深く、大切に想っていてくれた。降るような愛おしさを、惜しみなくそそいでくれていた。
 その事実がじんわりと胸に染み込んで、一成はどんな答えを口にすればいいかわからない。天馬に返せるような、ふさわしい言葉が見つからなくて、ただ沈黙が流れる。
 すると、天馬はふっと唇をゆるめた。強い光を宿したまなざしが、少し和らぐ。困ったように眉を下げると、「でも」と言葉をこぼして続きを口にする。

「お前はすごく強いから、オレの助けは要らないかもしれないけどな。一成は、立ち上がる強さをちゃんと持ってる。わかってるんだ」

 守りたい、と天馬は思う。だけれど、一成の強さも同じくらいに知っている。ただ助けを待って、天馬に守ってもらうだけの、か弱い存在ではないのだ。怖くてもすくんでも、自身の中から力を取り出して、一成は再び歩き出すことができるだろう。
 わかっていても、天馬はずっと願っている。だからこその言葉を、そっと口にする。

「それでも、オレのワガママを聞いてくれないか」

 言った天馬は、やわらかな笑顔を浮かべた。勝手な願いだとわかっていても、これは確かに一成へ向かう心の表れだ。一成はきっと受け取ってくれる、と思えた。
 ワガママ、という言葉に首をかしげる一成へ、天馬は言う。くすぐったそうな笑みで、やわらかく、まろやかな声で。自身の心を取り出す素振りで、あふれだすほどの愛おしさに、奥底からの願いを添えて。

「たまにはオレに、一成を甘やかさせてくれ」

 太陽のようなまばゆさと、やわやわとにじむ光が、一緒に降りそそぐような言葉だった。天馬から向かう気持ちが、そのまま形になったのだと、一成は思う。力強く抱きしめて、やわらかく包み込むみたいな。
 そんな言葉に、一成は泣きたいような気持ちになる。こぼれる笑みが、あんまりきれいで。声の響きが、愛を告げる時と同じ色をしていて。
 テンテンはオレのこと大好きで、大事にしたくて、甘やかしたくて仕方ないんだ、とどうしようもなく理解する。あふれだす心に圧倒されて、一成は言葉に詰まる。
 それでも、ちゃんと天馬に応えたかった。ふさわしい言葉はわからなくても、黙ったままではいたくなかった。
 だから、一成はぎゅっと天馬の両手を握る。それだけでいい。天馬はわかってくれると知っていた。
 思いの全てで、力を込める。強く、強く、決して離すまいと誓うように。大事な人の心を、確かに受け取ったのだと伝えるように。