終末エスケープ 後編




 ここで過ごした日々をなぞりながら、一成はもしもの話をした。舞台に立つこともなければ、テレビに出ることもない。芝居のことなんて、一つも知らない顔をして暮らす自分たちの話。

「――お芝居のない生活は物足りなくて、寂しいんだろうなって思う。だけど、それでも、オレはテンテンと一緒なら幸せになっちゃうんだ」

 目を細めて告げる一成は、困ったように笑っている。だけれど、ほとばしるのは真っ直ぐと天馬に向かう心だった。寂しくても、胸に穴が開いてしまっても、どうしたって幸せになってしまう自分自身を、一成は知っている。

「捨てちゃったものを思い出して悲しくなる日は来る。絶対に来る。だけど、オレはテンテンがいればどうしようもなく幸せになる。幸せになっちゃうんだよ。ねえ、テンテンもそうでしょ?」

 傲慢な言葉だと思いながら、一成は言った。大事なものならたくさんある。それを全部捨てて一成の手を取る。馬鹿げた選択だし、悲しみや後悔だって連れてくるに違いない。それなのに、一成は天馬の答えを知っていた。疑いなく信じていた。

「――ああ」

 しばらくの沈黙のあと、天馬がぽつりとうなずいた。一成を見つめて、静かで落ち着いて、丁寧な声で。何を捨てても、大事なものを手放しても、胸を痛める日が来るとしても。それでも、一成がいれば幸せになれると、揺るぎない声で答えた。
 受け取った一成は、唇をほころばせる。やわらかなやさしい笑みを浮かべて、おだやかに目を細めて。抱きしめるみたいな、愛おしさの全てをあふれさせて。
 天馬の答えに、一成は思う。二人が一緒ならどうしたって幸せになってしまう、という事実を噛みしめて。
 きっと自分たちはひどく傲慢で、自分勝手だ。何もかもを捨てられると知ってしまった。あれだけ大切な宝物を、大事にしたい人たちを、たった一人のために捨てられると理解してしまった。
 なんてひどくて身勝手なんだろう。悲しくても苦しくても、辛くても、それでもみんな捨てられるなんて。理解しながら、一成は言う。

「でもさ、テンテン。オレ、めちゃくちゃ欲張りなんだよ」

 そう告げる一成の目は、舞台が始まる日の色をしていた。知らない世界へ飛び出していく瞬間の、緊張と恐れと、弾んだ心。すくんでしまっても、その先にある光を目指して駆け出すのだと決意した、軽やかな明かりを宿した目をしていた。
 一成は深呼吸をして、さらに言葉を紡ぐ。
 きっとどんな場所でも、二人でいれば幸せだ。芝居もしない、芸能界とも関わることのない、華々しさとはかけ離れた生活だとしても。二人で一緒にいられれば、きっとおだやかで平和な、愛おしい日々を重ねていける。わかっていても、一成の答えは一つだけだ。

「オレはね、テンテンに何にも捨てさせたくない」

 強い声で、凛とした響きで、宣言するように言葉を放つ。
 天馬は決断できる人だから、全てを捨てると自分で決めればそうできる。一成と二人で生きていくと決意したなら、確かにそうしてくれる。ここで過ごす日々に、一成は心の底から理解した。天馬の想いの深さを、覚悟を、否応なく感じ取った。
 駆け落ちをしようかと言って、何も言わずについて来てくれた。一成の答えを急かすことなく、きちんと待ってくれる。決して快適とは言えない場所での生活を受け入れて、あまつさえ心から嬉しいと言ってくれた。芝居をすることもない生活を、芸能人としての顔を一切見せることのない日々を、受け入れて同じ時間を過ごしてくれた。
 きっと天馬はこんな風に、これから先まで一緒に歩いてくれるのだと一成は理解した。それくらい天馬は真っ直ぐ一成に心を向けていてくれた。言葉より確かに、行動の全てが伝えていた。
 今までの生活を全部捨てても、隣にいてくれる。一緒にいようとしてくれる。天馬の覚悟と想いの深さはどんな言葉より確かに一成に届いたのだ。
 だからこそ、一成は思った。
 テンテンは、きっと全部捨ててくれる。中途半端な気持ちじゃない。簡単にその答えを選ばないけど、一度決めたなら振り返らずにそうしてくれる。だってテンテンだ。覚悟をしたら、決断したら、迷うことなくオレと二人で生きてくれる。だからこそ。

「オレは、皇天馬の全部を大事にしたいよ」

 天馬の紫色の瞳。この世界にある、きれいなものを全部詰め込んだみたいな輝きを見つめて、一成は言う。心の全てを取り出して、何もかもを天馬に差し出す素振りで告げる。
 二人きりの時間は、一成にとってこの上もない喜びだった。天馬の隣にいられること。ささやかな瞬間を分かち合えること。天馬の目に自分だけが映ること。みんなから愛されて当然の天馬を独り占めできることは、確かな幸福だった。
 天馬のことが好きだと自覚してから、天馬を自分のものにしたいと思ったことは何度だってあった。恋人として特別な立場になれたら、と夢みたいな話を思い描いた。叶えられるはずのない空想は、予想外に現実となり、天馬は同じ想いを抱いていると告げてくれた。
 それでも、簡単にうなずいてはいけないとどうにか理性で答えを押し留めた。しかし、結局一成の心は簡単に天馬を諦められなかった。ささやかな瞬間に、名前を呼ぶ声に、ふとした時に見せる表情に、天馬のことが好きなのだと何度も思い知った。
 自分の心を殺せない。だけれど、その手を取れば天馬の未来に影を呼ぶ。うなずきたい。うなずけない。相反する心を抱えた一成は、一体どうしたらいいかわからなくて、すがるような気持ちで、天馬に言ったのだ。駆け落ちをしてくれないか、と。
 天馬に「好きだ」と言われてから、一成の心はずっと揺れ動いていた。
 喜びと不安が順番にやって来て、どうしようもなく泣きたいのに世界で一番幸せなのは自分だと思う。天馬のことが好きだということだけはわかるのに、どんな答えを返せばいいのか、まるで見当もつかない。嬉しくて苦しくて悲しくて幸せでぐちゃぐちゃになった一成は、思い詰めた頭でどうにか答えを見つける方法を考えた。
 どうすればいいかわらない。それでも、このまま答えを返せないことなんて、したくない。天馬が懸命に伝えてくれた言葉なら、きちんと返したい。それならどうすればいいか。カンパニーメンバーが、夏組のみんなが、天馬が教えてくれたから、答えの出し方なら知っていた。
 いつだって、答えは自分の中にある。だから、自分の心を丹念に見つめようと思った。天馬と二人だけで、天馬のことだけを考えて。他のことは全部、今だけは見なかったことして。天馬だけを見つめて、天馬とだけの時間を過ごす。二人だけの世界で、自分の心がどんな風に動くのか、克明に知っていく。
 誰かのためだとか、何かのためじゃない。たった一人、自分の心が何を求めて、何を望むのか。他の誰でもない天馬と、二人だけの時間を過ごして感じるものが一成の答えになる。
 自分の気持ちを大事にすることこそが、自分の答えを出す方法だと、一成は知っていた。これまでの日々が何よりも教えていた。だから一成は、天馬と一緒にここまでやって来た。
 一成はじっと天馬を見つめる。天馬も同じように一成を見つめる。強い目をしていた。まばゆい光を宿した目だ。この強さに、この光に、オレたちはずっと照らされてきたんだな、と思いながら一成は口を開いた。伝えたいことは、見つけた答えは、揺るぎなくこれだと言える。

「オレはめちゃくちゃ欲張りだから、何一つ捨てないテンテンを、一個も捨てない三好一成で、丸ごと全部大事にしたい」

 はつらつとした声で、一成は言う。宣誓のような厳かさと、どこまでも明るい光を宿して。あざやかに、力強く、何もかもを彩っていく輝きで天馬に言う。
 二人で過ごした日々は、この上もなく幸せだった。おだやかで平和な、安寧の日々だ。こんな毎日を、きっと幸福と呼ぶのだと思った。だってこの場所なら、ただ天馬を好きでいていい。一成への気持ちを受け取っていていい。
 二人で想いを交わし合ったなら、それが周りに知られたなら。きっとカンパニーのみんなや家族は祝福してくれる。しかし、それだけでは済まない現実がある。
 今までの生活であれば、天馬は謂われのない言葉をかけられるだろうし、少数派ゆえの困難やハードルが立ちはだかる。だけれど、ここは二人だけの世界だ。悪意にさらされることもないし、天馬を傷つけるものは何もない。影を呼んでしまうことも、未来を閉ざしてしまうこともない。
 この場所であれば、一成は自分の心を殺して、ただの友達の顔をする必要もなかった。ただお互いのことが好きなのだと、愛を交わし合うことができる日々だ。何もかもを捨ててしまえば。これまでの生活をなかったことにして、二人だけの世界で生きていくことができたなら。そうしたら、ささやかな日々を愛おしみながら毎日を重ねていける。
 きっとそれは幸福だ。何を失くしても、捨ててしまっても、悲しくて寂しい瞬間があるとしても、天馬がいるならそれだけで幸福と呼べるのだと、一成は言葉より強く理解した。天馬だってそうだと疑いなく思えた。
 何もかもを捨てて、二人だけで生きていく未来。天馬が覚悟をしてうなずいてくれたら、きっとそれは確かな現実になる。理解するのと同時に、一成は自身の心が出した答えを見つけた。
 ――テンテンに何も捨てさせたくない。何かを捨てて、オレと一緒にいる未来を選んでほしくない。テンテンとこれから先を生きるならオレは、全部を選んだテンテンと一緒がいい。

「オレはやりたいことは全部やりたいし、何にも捨てたくない。そういう生き方をするって決めたんだ」

 いたずらっぽい笑みを浮かべて、一成は力強く言った。絵を描きたかったし、デザインだって極めたい。たくさんの役を演じていくつもの舞台に立ちたい。
 やりたいことは山ほどあって、どれも選びたい自分は、一つも真剣じゃないのかもしれない、なんて思ったこともある。だけれど、カンパニーで過ごす日々が、監督が、夏組のみんなが、天馬が背中を押して、誰より強く肯定してくれたから。
 何かを選ぶことは、同時に何か失うことなのかもしれない。だけれど、一成は全部選ぶと決めた。一つだって失わないと、取りこぼすまいと決めたのだ。
 だって、みんなが教えてくれた。自分の気持ちを大事にして、好きなものを選んでいい。大事なものはこれだと掴んでいていい。何だって全部を選んでいいのだと教えられた三好一成の答えなんて、たった一つだ。

「オレは、ウルトラマルチクリエイターになるんだよ? やりたいことも欲しいものも、全部選んでオレのものにしちゃうほど、欲張りなんだよ」

 だからね、と一成は続ける。欲しいものならたくさんある。やりたいことだっていくらだって思い浮かぶ。欲張りで何だって欲しいと心が叫ぶ自分なのだ。大好きな人がいる。その人に、何かを捨てさせる未来なんて、選ぶもんか。選ばせるもんか。

「大事な人のことだって、全部全部の選択肢込みで愛しちゃうに決まってるじゃん!」

 ぱっと明かりを灯す笑みで一成は告げる。きらきらとしたまばゆさを宿して、天馬の持つ輝きにも負けることのない力強さで。自分の心が導き出した答えを、天馬に伝える。
 二人きりで過ごす生活を考えた。他の誰もいない場所で、天馬の目に自分だけが映る生活。みんなの天馬を独り占めして、いろんな瞬間を二人だけで分かち合う。そこには天馬を傷つけるものは何もないし、どんな悪意からも守ることができる。一成は自分の心を殺さなくていいし、ただ天馬を大事にすることが許される。
 それはきっと幸せな日々だ。失くしたものを知っていても、手放したものを理解していても、天馬がいればそれだけで幸せになってしまうとわかっている。だから、確かに幸福と呼べる日々だと言える。
 それでも、一成は言う。自分が欲しいのは、何もかもを捨てた二人だけの未来じゃない。傷ついても悪意が待っていても、痛みも苦しみも何一つ捨てないと決めた。だってそれは、天馬が今まで歩いた道で、これから進んでいく未来につながっている。今までの何もかもを捨てて天馬と幸せになることはできる。だけれど一成は、それを選ばないと決めた。
 欲しいのは全部だ。天馬の過去も未来も、痛みも傷も、悪意も困難も、天馬の持つもの全部を抱えていく。きれいなところも、かっこいいところも、かわいいところも、だめなところも、汚いところも、痛くて仕方ないものも。一個だって捨てずに全部を抱きしめる。

「だってオレはそうやって生きるって決めたんだ。大事な人の全部、みんなみんな、愛していくのは当たり前でしょ?」

 真っ直ぐ天馬を見つめて、一成は告げた。何よりもまばゆい、きらきらとした明かりを宿して。天馬の全てを抱きしめて、未来の彼方まで駆けてゆくのだという決意を宿して。世界中全部を、色あざやかに染め上げていくようなまなざしで。
 一成の視線を真正面から視線を受け止める天馬は、しばし惚けたように黙り込んでいたけれど。数十秒してから、小さく息を漏らす。それから盛大に笑い出した。
 心底おかしくてたまらないといった調子で、静かな湖には天馬の笑い声がよく響く。時折吹く風にも、呼応するように揺れる葉擦れや波立つ湖面にも消えることもない。青天によく映える、空高くまで突き抜けるような笑い声だった。

「――さすがはお前というか、一成らしいな」

 笑顔の気配を残したまま、天馬は楽しそうに言った。明るい日差しをそのまま紡いだような声に、晴れ晴れとした表情。一成の気持ちを、余すところなく受け取ったことが伝わって、一成は「ああ、テンテンだ」と思う。
 いつだって、どんな時だって、天馬は一成の本音を見つけてくれた。常に察しがいいというわけではなく、鈍感さを発揮することもあるのに。肝心な時は絶対に間違えない。
 一成の本音を、気持ちを、心の奥に宿したものを、いつだって見つけてくれた。だから、今のこの一成の心からの決意を受け取ったのだと、一成は疑いなく思った。
 天馬の全部が欲しい。何一つ捨てさせない。これまでの全部とこれからの全部、喜びも悲しみも、苦しみも痛みも、安らぎも愛おしさも、みんなみんな、一成は大事にすると決めたのだ。天馬の全部を、一つだって取りこぼさずに抱きしめると決めたのだ。

「――てか、重いっしょ」

 自分の心が出した答え。あらためて口にすると我ながらずいぶん重いことを言っているな、という気持ちになって、一成は少しだけ困ったような表情を浮かべた。眉を下げて、唇にはささやかな笑みを乗せて。
 天馬が跳ねのけるようなことはしないとわかっていたけれど、負担になるのは嫌だなぁという気持ちだった。天馬はその言葉に、ぱちりと瞬きをしてからすぐに笑みを浮かべた。挑みかかるような力強いまなざしで、一成の心を射抜くみたいに。不敵な笑みで、きっぱりと答えた。

「何言ってるんだ? オレなら受け止められるに決まってるだろ。いくら重くたって、お前の全部受け止めてやる」

 絶対の事実を語るような言葉。それが天馬の心からの本心であることもわかっていたし、天馬は自分の言葉を違えるようなことはしない。どれだけ重くたって、天馬は両手を広げてくれるのだ。一成の心を、真っ直ぐ向かう気持ちを、一成が天馬に向ける何もかもを、全身全霊で受け止めてくれる。そういう人だ。
 わかっていたけれど、あらためてはっきり告げられて、一成はまぶしい気持ちで思った。ああ、本当にテンテンってかっこいい。オレの好きな人は、こんなにかっこいいんだ。
 そう思ったところで、一成ははたと気づく。オレの好きな人。確かにそう思っているけれど、はっきりと言葉にはしてない。あふれでるような好きという感情を、天馬から告げられた想いへの答えを返していない。
 これまでの言動が充分答えにはなっているのだろう。それでも、一成はちゃんと言いたかった。
 あの夜の天馬を覚えている。怖いくらい真剣に、心を取り出して手渡すように言ってくれた。それなら、流れでうやむやにするのではなく、ちゃんと天馬に言葉を返したい。ちゃんと答えを告げると言っていたのだ。約束を叶えようと思った。

「テンテン」

 一成は一つまばたきをしてから、真剣な表情で名前を呼んだ。
 晴れ渡った空に、静かに広がる青い湖。周りに人はいないから、まるで世界には二人きりみたいだ。こんな風に、たった二人で生きていくことも考えた。それはきっと幸せでおだやかな日々だろう。約束された安寧が待っていて、傷つけるものも悪意を向けてくるものは何もない。二人きりで、幸福な時間を送ることができる。
 わかっていても一成は選んだ。だからちゃんと答えるのだ。
 天馬は一成の声に、同じくらい真剣な表情を返した。一成の言葉を一つだって取りこぼすまいと決意するように。声より強く、言葉より確かに、一成の心を抱きしめるのだと告げるまなざしで答えを待っている。一成は深呼吸して、口を開いた。

「オレ、テンテンが好き。ずっとずっと、テンテンはオレにとっての特別だ。テンテンのことが、大好きだよ」

 言葉はすんなりと声になった。天馬は受け取ってくれるとわかっていたから、心はあふれて形になる。「好きだ」と言ってくれた。うなずきたかった。簡単にはできないと思った。
 だけれど、ここまでこうして二人でやって来た。二人だけの日々を過ごした。そうして見つめた自分の心が告げる答えを、一成はもう知っている。
 一成はそのまま、隣に座る天馬の手をぎゅっと握った。一瞬びっくりしたような気配を流すけれど、振りほどくことはしない。それどころか握り返してくれるので、一成は手のひらの熱と込められた力の強さを感じながら、そっと笑みをこぼす。
 テンテンの手を取るんだ。この熱を、握る手の強さを、これからずっと大事にしていくんだ。しんとした静けさで自身の心を握りしめた一成は、天馬を見つめる。
 凛とした瞳。揺るぎない意志を宿す。どこまでも明るくて、誰よりまばゆい。オレの特別。オレのたった一人。全てを抱きしめる気持ちで、一成は言った。

「テンテンの全部と、オレの全部で幸せになろう」

 捨ててしまうことを考えた。実際、行動にも移した。二人だけの世界でも幸せになれると知った。それを選んだ未来だってきっとある。
 だけれど、一成は決めたのだ。天馬と幸せになる。苦しいことも辛いこともこれから先あるだろう。それでも、オレたちはオレたちの全部で幸せになるのだ。何も捨てない。失わない。プラスもマイナスも、ひっくるめた全部で、何もかもみんな、二人で全部笑顔に変えていこう。
 天馬はその言葉に、ぎゅっと唇を結んだ。泣きそうな顔をして、それでいてどこまでも強いまなざし。じっと一成を見つめると、ゆっくり口を開いて言った。

「それがお前の答えなんだな」

 わずかに震えた、だけれど凛とした天馬の声。ずっと一成の答えを待っていてくれた。一成の気持ちを理解しながら、一成の決断を尊重したいと、形になるまでずっと待っていてくれた。それを確かめる言葉に、返す答えなんて一つだけだ。

「――うん」

 自分の中にあるきれいなもの、全部を集めて渡すような気持ちで答える。それでも、テンテンがくれるものにはきっと敵わないんだろうな、と思いながら。
 すると、次の瞬間。握った手を引き寄せられたかと思うと、天馬に抱きしめられていた。
 たくましい腕が、一成の背中に回される。ふわりと鼻先をくすぐるのは、天馬の匂い。ドキドキと心臓が鳴っている。一瞬固まりかけるけれど、自分のすべきことはわかっていた。
 大好きな人。世界で一番かっこよくて、誰よりきれいでまぶしい人。どんな未来も二人で歩いていくのだと決めた。たった一人、オレだけの特別。あふれる愛おしさを感じながら、一成はそっと天馬の背中に腕を回した。