赤い糸なら信じない
すっかり大人になったと思っていた。実際間違ってはいないし、年齢を重ねたからこその魅力だって持っている。だけれど、運命の相手を探してるだなんてピュアなところは変わらないんだな、と一成は何だか嬉しくなってくる。まるで、出会った頃の天馬と再び出会い直したようだった。
「相手に悪いとは思ってるんだ。だが、『違う』と思いながら付き合いを続けたくなかった。どうしたって、『この人じゃない』と思ってしまう。自分に嘘を吐きたくないんだ」
申し訳なさそうな表情で、天馬は言葉を並べる。一般的に褒められた行動でないことはわかっているし、様子を見ながらもう少し付き合いを続けるという選択肢だってあるのだ。しかし、天馬はどれも選べなかった。この人は違うと思いながら惰性で付き合っていく方がよっぽど不誠実だと、天馬は思っているからだ。違和感を覚えながら、自分を騙して交際していくくらいなら潔く別れを選ぶのが天馬だった。
「――うん、そだね」
天馬の言葉に、一成はやさしくうなずいた。付き合ってはすぐに別れるなんて、酷い話だと言える。手放しで肯定してはいけないのかもしれないけれど、一成はただ天馬の言葉にうなずくことにした。
天馬は自分の非ならきちんと認められるから、一成が何も言わなくても大丈夫だと思っていることもある。それに、自分を棚に上げて、ただ相手を責め立てるなんてことをするはずもない。
何より、一成は天馬の気持ちを大事にしたかった。天馬の心が「違う」と言うなら。自分に嘘を吐かなければ一緒にいられないなら。きっとそれは、天馬の運命の相手じゃないのだ。
「テンテンが『この人だ』って思える相手には、まだ会えてないだけだよねん」
天馬が何度も別れを繰り返しているのは、特別な一人を見つけるためだ。たくさんの女性と遊びたいだとか、そういう理由ではない。天馬なりの切実さで、運命の赤い糸で結ばれている相手を探している。天馬を応援したい気持ちから、一成は明るい笑顔を浮かべて言う。
「赤い糸が見えたらいいのにねん。あ、でも、見えたらオレが好きな色に塗ってあげよっか!?」
「赤以外にしてどうするんだよ」
一成の言葉に、天馬は肩をすくめるので。一成は至って真剣な顔で口を開いた。確かに運命の赤い糸を塗り替えたら意味はなくなってしまうかもしれないけれど。
「でも、レインボーとかの方が効力ありそうじゃね?」
「何のだよ」
「テンテンを幸せにする効力!」
赤い糸は運命の相手と結びつくかもしれないけれど、天馬にはそれだけじゃ足りないと思ったのだ。もっともっと、呆れるくらい天馬には幸せになってもらいたい。単なる赤だけじゃきっと足りない。七色の虹みたいに、色とりどりの幸せが天馬にはぴったりだ。
心から思って、力強く宣言した。すると、天馬は数秒黙ってから小さく笑い出す。心底楽しそうに、白い歯をこぼしてほんのりと目元を赤く染めて。
「――何だそれ」
弾んだ声で「虹色の運命の糸なんて聞いたことないぞ」と言う様子は、無邪気な子供のような雰囲気がある。初めて夏組として出会った時のような。大人っぽさだとか、年相応の落ち着きだとか。そういうものとはまるで違う、あどけない笑顔。すっかり一成に心を許しているのだと、表情一つから伝わる。楽しくてたまらないと、心を全部広げるみたいな笑顔に一成の胸は大きく高鳴った。
天馬が笑う様子なんて、今まで何度も見てきたのに。オレの言葉でテンテンが笑ってくれた、という事実が一成の胸にやけに迫ったし、何だかひどく意味があるように思える。一成の言葉を真っ直ぐ受け取って、心底楽しそうに笑う天馬から目が離せなかった。
早鐘を打つ心臓を抱えながらも、一成は何でもない顔をしていた。どうしていきなりこんな風にドキドキしちゃうんだろう、と困惑していたけれど。気づかれないよう、あえて雑談を繰り広げる。
「世界初! 虹色の運命の糸! とかよくね?」
「あやしい商売にしか見えない」
「そこは皇天馬のネームバリューでどうにかして的な」
「むりだろ」
一成の言葉に、天馬も面白そうに答えを返す。軽口を交わし合って、どんなゴールも目的もない、ただ会話のキャッチボールを楽しむだけといった時間がゆっくり過ぎていく。
しかし、天馬から返ってくる会話のテンポが次第に遅くなっていることに一成は気づいた。妙な間が空くし、口調も心なしかぼんやりしている。「あれ?」と思っていると、天馬が大きなあくびをした。どうやら眠気が忍び寄っているらしい。
用意したおつまみもなくなってきた頃合いだ。グラスの酒もほとんどないし、新しい缶を開けるほど多くを飲むつもりもない。そろそろお開きかな~とのんびり一成が思っていると、天馬はローテーブルにグラスを置いた。そのままソファに背中を預けると、目をつむってしまう。
「え、テンテン? 寝るならベッド用意するけど――」
一成の家には客室として使っている部屋もある。夏組を筆頭にして誰かが泊まりに来た時はその部屋を使ってもらっているし、天馬もいつもそうしている。ベッドの用意をすればすぐに寝られるから、部屋に行ったらどうかと言おうとしたのだけれど。天馬からは、返事の代わりに規則正しい寝息が返ってきた。
「マ?」
一成は思わずつぶやく。まさかこんな即落ちするとか思わないじゃん、という意味で。ただ、天馬は多忙な人間だし、疲れも溜まっているんだろう、と思い直した。そもそも、天馬は比較的寝つきがいいのだ。くわえて疲労もあったなら、すぐ寝入ってしまうのもうなずける。
一成は数秒考えたあと、天馬を起こさないようソファから立ち上がる。部屋のキャビネットにしまってあるブランケットを取り出すと、ゆっくり戻ってきた。真冬ではないものの、このまま寝たら風邪を引くかもしれないと思ったからだ。ある程度時間が経ったら起こすつもりだったけれど、少しくらいならうたた寝をさせあげたかった。
きっと疲れているのだろうし、こんな風に眠ってしまうなんて一成の隣なら安心できると言われているようで、何だかくすぐったかった。
一成は大きくブランケットを広げると、包み込むようにやさしく天馬へ掛けた。わずかに身じろぎするものの、起きる気配はない。一成は知らず知らずのうちに笑みを浮かべて、天馬の寝顔をあらためて見つめた。
もともと一成は、天馬のことをすこぶるイケメンだと思っている。世間一般的にもそういう評価だし、客観的にかっこいい人間なのだ。ただ、こうして近くで見ていると本当に顔が整っているんだな、という事実を認識して一成は何だかびっくりしてしまう。
意志の強さを示すような眉毛に、すっと通った鼻筋。少し厚い唇には色気があるし、今はまぶたの下にある瞳がどんなにまばゆい輝きを放つか知っている。全てのパーツが丹精込めて作られた芸術品のようだし、配置までもが完璧に考え尽くされた結果としか思えない。神様が天馬を作る時、自分の最高傑作を仕上げるのだと気合いを入れていたに違いない、と一成は思っている。
さらに、天馬は年を重ねたとことでますます魅力に磨きをかけている。歳を取ることにネガティブな意味は一切ない。あどけない子供から爽やかな青年となり、今では大人の色香をまとう男性になったのだ。誰が見たって魅力的で、心をつかんで離さない。どこにいたって必ず見つけ出せる。どんな大人数の中にいたって、そこだけ光を放っているみたいな。惚れ惚れするほどかっこいいひと。
眠る天馬を見つめる一成の脳裏には、今まで見てきた天馬の姿がいくつも浮かんでいる。
舞台の上で、画面の向こうで、持てる力の全てで芝居に挑む姿。夏組を引っ張って、誰より力強く駆けていく横顔。天馬のかっこいい姿なら、いくらだって思いつく。ただ、それだけじゃなくて、かわいいところもたくさん知っている。
すっかり大人になって、メディアでもそういう特集によく出てくるけれど、天馬は案外子供っぽい。親しい人間の前では、特にそうだ。相変わらず方向音痴だし、野菜は嫌いだしお化けも苦手。寂しがり屋で、みんなと一緒にいたいといつも思っていてくれる。お土産はおそろいのものを買ってきてくれるし、仕事の関係で一人だけイベントに参加できないと拗ねてしまう。
だから、テンテンが寂しくないようにって、できることなら何だってしたい。テンテンが笑ってくれるのが嬉しい。
ふわりと湧き上がるような気持ちと共に、一成の唇は自然とほころぶ。無邪気に笑う天馬の姿が思い浮かんだからだ。あざやかによみがえるのは、一成の名前を呼んできらきら笑ってくれるところ。一成を見つけた瞬間、顔を輝かせて走ってきてくれる。それが嬉しくて、胸がいっぱいになる。
テンテンの笑顔が好きだな、と一成は思う。オレに向ける笑顔が好き。あんな風にたくさん笑ってほしい。びっくりするくらい、テンテンはかわいく笑ってくれる。めちゃくちゃかっこいいけど、同じくらいにテンテンはかわいいって知ってる。
たとえばあどけなく笑う姿だとか、一人が寂しくて拗ねちゃう姿だとか。疲れてると甘えたがるところとか、何でもない話にとびきりの顔を見せてくれるとことか――運命の赤い糸を信じてるところだとか。一つ一つ、天馬のかわいい姿を数え上げた一成は、胸中でそっとつぶやく。
運命の赤い糸。一体誰につながっているのか、一成にはわからないけれど。きっとその相手は、天馬のことを誰より笑顔にできる人だ。天馬を一番幸せに、とびきりかわいく、笑わせてあげられる。そう思った一成の胸には、自然と言葉が浮かんだ。
――運命の相手が、オレだったらいいのにな。
ほとんど無意識のまま、流れるように形になった言葉に、一成の心臓はドキリと鳴る。だって「運命の赤い糸」だ。ただの不思議なアイテムではないし、少なくとも恋愛的な意味を込めて話題にしていることは自覚している。だからこそ、その対象になりたい、という自分の言葉にドキリとした。
マジで、と一成は思う。そんなまさか、と笑い飛ばそうともとも思った。しかし、単なる勘違いだと言うには、あまりにもすんなりとなじむ。冗談にできない本心だと、直感で察する。そのうえ一成は、ずっと前から知っていたように、「そうか」と思ってしまった。ああ、そうか、オレの望みはこれだったんだな、とすとんと納得してしまった。
「運命の赤い糸」の相手。天馬を一番幸せに、とびきりかわいく笑顔にできる存在。恋愛対象として、特別な人として天馬が誰かと結ばれるなら、それはオレがいい。
間違いようもない願望を、一成は自覚する。ずっと前からあったものにようやく光が当たったように、今まで目隠しをしていた布が突然取り払われたように。これは恋だ。天馬に抱いているのは恋心なのだ、と一成ははっきりと理解した。
すると、今の状況がものすごく恥ずかしくなってきてしまった。
天馬と部屋には二人きりで、天馬の寝顔をこんなにも近くで見ていられるのだ。友達としては当たり前なのかもしれないけれど、特別な意味を見出してしまった一成としてはとても平静でいられない。もともとかっこいいと思っていた顔が、これまで以上に光り輝いて見えるのは気のせいではないはずだ。
ドキドキしながら天馬の寝顔を見つめる一成は、今までのことを思い出している。一度気づいてしまえば、何もかもの答え合わせが始まったような気がしてくる。自覚したのは今だけれど、ずっと前から一成の気持ちは天馬に向かっていたのだから。
最初は天馬に恋人ができたことを素直に喜んでいたけれど、だんだん複雑な気持ちになっていた。別れたらテンテンが悲しい思いをするからかもだとか、オレもちゃんとしなきゃって焦るからかな、なんて考えていた。別れを聞いた時は何だかほっとして、いろんな理屈をつけていた。だけれど、そんなものはたった一つの理由が答えだ。
天馬のことが好きなのだ。恋人ができたと知らされれば、「オレじゃない人を選んだんだ」ともやもやするし、天馬と付き合っていたという事実を突きつけられるから元カノの存在に気分がふさいで、別れたと報告されれば他の誰かのものにならなかった、と安堵する。特別な気持ちを抱いているのだから、そう思うのは当然だった。
夏組として、友達の一人として、特別なつながりを結んでいる自負はある。しかし、一成はそれと違う特別が欲しいと望んでいる。さっきまで気づいてすらいなかったけれど、一度知ってしまえばもう止まらなかった。特別になりたい。天馬にとって、世界でたった一人の特別になりたい。運命の赤い糸で結ばれた相手みたいに。
冗談のように整った顔を見ている一成の胸には、そっと言葉が浮かぶ。天馬の運命が果たして誰につながっているかはわからない。だからこそ、天馬は何人もの女性と付き合っては別れを繰り返しているのだ。それなら、オレにもチャンスが欲しい。
オレ、テンテンに悲しい思いをさせたりなんかしないよ。いっぱいテンテンを笑顔にできるよ。赤い糸で結ばれてるかはわからないけど、テンテンのこと絶対たくさん幸せにする。
高鳴る鼓動と静かな決意を抱えながら、一成はそっと口を開く。眠っている天馬に向かって、願いを懸けるような気持ちで。天馬は今誰とも付き合っていないし、運命の相手を探しているというなら。
「――テンテン、オレを恋人にしてくれたらいいのに」
天馬と長い間一緒に過ごしてきた。かっこいいところもかわいいところも、弱いところもつまずいたところも、いろんな天馬を見てきた。だから、天馬を幸せにする方法ならたくさん知っていると自負している。天馬を笑顔にすることは昔から得意だったのだ。恋人としてオレを選んでくれたら、テンテンを絶対幸せにするから、オレを恋人にしてくれたらいいのに。そう思って、言葉をこぼした瞬間だった。
天馬がぱちりと目を開けた。
予想外の展開に、一成は固まる。呼吸も忘れて、思わず天馬を見つめる。きらきらとまばゆい紫がきれいで宝石みたいだな、と現実逃避しかけた頭で思ったけれど。
「テンテン!?」
事態を飲み込んで呼吸を取り戻した一成が、思い切り叫ぶ。さっきとは別の意味で心臓がうるさいくらいに鳴っている。恋のときめきじゃなくて焦りだとか緊張だとかの方だ。待って、テンテンなんで今起きるの!? タイミング良すぎじゃない!?
上手くごまかさないと、と一成が口を開こうとする。しかし、その前に天馬が言った。真っ直ぐ一成を見つめてきっぱりと。
「そうだよな」
何やら納得しているようだけれど、一成には何の話かわからない。頭にハテナマークを浮かべていると、淡々した調子で天馬は続けた。
「今、オレを恋人にしたらいいって言っただろ」
「聞いてたの!?」
「ちょうど目が覚めた」
しれっと言われて、一成は口をパクパクと開閉させる。普段ならよく回る口が、肝心な時に動かない。自覚したのがついさっきなのに、気持ちがバレるまでがあまりにスピーディーすぎる。一体どう反応したらいいのか、と混乱する一成とは対照的に、天馬はまったく動じない。それどころか、やけに重々しく言う。
「いい案だと思う。お前とオレなら相性がいいことはよく知ってる。付き合いも長いし、お互いのことならよくわかってるしな」
「それはそうだけど……」
今まで夏組として、共に長い時間を過ごしてきたのだ。積み重ねてきたものが違うし、お互いのいろんな顔を見せてきたこともあり、相性の良さならとっくに理解している。ただ、それを今あらためて言うのは何の意味があるのか。困惑している一成に構わず、天馬は力強く言った。
「そういうわけだ。よろしく頼む」
「何が!?」
「恋人としてよろしく頼む」
あまりにもあっさり言われすぎて、一成は黙り込む。え、なにこれ冗談?と一瞬思うものの、天馬はこういう種類の冗談を言う人間ではない。ということは、至って本気なのだろうとは思ったけれど。
一成はちらりと空けた缶に目を向ける。もしかしてこれ、めちゃくちゃアルコール度数高くて酔ってるのかな、と思ったけれど印字された度数は限りなく低い。となると、あまりにも別れ話を繰り返しすぎてやけくそになっているとかだろうか。天馬が人の気持ちをもてあそぶなんてことをするわけがない、と一成は思っている。ただ、よくわからない方向に突っ走る可能性はある、と思ったのだ。
しかし、天馬は一成の考えなど見透かしていたらしい。
「酒に酔って言ってるわけじゃないし、別にやけくそになってるわけじゃないぞ。運命の糸がどこにつながってるかわからないなら、確かに一成の可能性もあるなって思ったんだ」
一成を見つめた天馬は、澄んだ瞳でそう言った。どんな熱に浮かされているわけでもないし、自暴自棄の雰囲気もない。心から思っての言葉だとわかる。
「一成が好きだってことは間違いないからな。お前が嫌だって言うなら止めるが……嫌なのか?」
そう言う天馬は悲しそうに眉を寄せる。紫色の瞳が傷ついたように揺れて、一成は思わずうめいた。捨てられた子犬みたいな目をしてくるテンテン、かわいすぎでは!?という気持ちと、嫌なわけなくない!?という感情がないまぜになり、上手く言葉にならなかったのだ。
ただ、このまま黙っているわけにはいかないと、一成は気合いで口を開いた。深呼吸をしてから、天馬へ答える。
「オレ的にはテンテン大好きだから嬉しいけど、テンテンこそ嫌じゃね? オレだよ?」
万が一気の迷いということもある、というわけで尋ねた。あとで「やっぱりだめだった」と言われたらショックが大きすぎるので、もう一度ちゃんと考えてほしいという気持ちもあったのだ。真剣な顔の一成に向かって、天馬は力強く答えた。
「嫌だったら聞き流してる。そうしてない時点で、オレの答えなんて決まってる」
堂々した態度で天馬は言う。もしも一成がはっきりと告白したなら、天馬はうやむやにせず答えを返すだろう。ただ、さっきの言葉はあくまで一成の独り言だ。まどろみの中で聞いた言葉と言うこともできるし、もしも天馬にその気がないのならスルーしたって問題はない。友達という関係を壊したくないなら、そういう選択肢だってあったのだ。しかし、天馬は一成の言葉に答えることを選んだ。その事実こそが何より天馬の気持ちを雄弁に語っている、というのが天馬の答えだった。
ただ、一成はあまりの急展開についていけない。答えに窮していると、天馬はあらためて一成を見つめる。力強い光の宿る、紫色の瞳が真っ直ぐ一成を射抜く。蠱惑的とも言える光に、ふらふらと引き寄せられるように、一成は思わず天馬の目に見入っていた。
吸い込まれそうなほどきれいで、まばたきすら惜しくなるほど輝いている。どんな宝石よりも美しい瞳で一成を見つめると、天馬は強い声で言った。
「一成、オレの恋人になってくれ」
はっきりと告げる天馬は、自信にあふれている。この答えは何一つ間違いじゃないと、確信しきっていることが一成にも伝わった。天馬らしい態度に、一成は「テンテンだなぁ」と思う。
一成が天馬を嫌いだと言うならともかく、そうでなければ一度決めたことをひるがえすつもりはないのだろう。天馬にとって一成と恋人になることは、どうやら決定事項らしい。
断るという選択肢自体は一成にもある。いくら天馬が恋多き男だとしても、同性の相手は初めてだ。世間的に何かを言われる可能性は高いし、断った方が天馬のためになるんじゃないか、と思わないわけではなかった。しかし、天馬は絶対退かないだろうなという確信もあったし、何よりも。
「そだねん。恋人になってみよっか?」
ふわふわとした気持ちで、あふれる笑みをこぼして一成は答える。断る理由ならいくらだって思いつくし、恐らく上手に嘘を吐くこともできるだろうと思った。だけれど、結局一成は天馬の特別を諦めたくなかった。これから先、天馬が自分以外の人を選ぶ未来を見たくなかったし、隣にいるのは自分がよかった。
天馬の提案は、一成からすれば願ったり叶ったりの事態なのだ。自覚してから五分程度でこの展開はあまりにも予想外すぎるけれど、天馬の恋人になりたい気持ちははっきりと自覚している。だからそれなら、うなずこうと思った。天馬が一成を選んだことで直面する困難もあるかもしれないけれど、それなら一緒に乗り越える。一番近くで、天馬の隣で、誰より強い味方になるのだ。恋人として特別にしてくれるなら、きっとそれは許される。
一成の答えに、天馬はじわじわとにじみだすような笑顔を広げる。普段の力強さよりも、もっとやわらかい。胸に抱いた喜びがゆっくり花開いていくような。そんな笑みで「ああ」とうなずく。
その様子に、一成はそっと思う。オレの言葉でこんな風に笑ってくれるテンテンが好き。もっとたくさん、これからいっぱい、テンテンのことを笑顔にしていくんだ。テンテンを世界で一番幸せにするんだ。
胸があふれる気持ちで思う一成は、いたずらっぽい光を宿して天馬に向かって口を開く。今までずっとと友達として過ごしてきた。だけれど、今からそれに別の意味をくわえてもいいのなら。
「それじゃ、まずは恋人同士のハグから始めてみよっか」
両手を広げて言えば、天馬が嬉しそうに腕を伸ばしてくる。
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