夏と神様 08話




 夜のホテルラウンジに、生演奏のピアノの音が響いている。重厚なソファに身を沈めた天馬は、紅茶を飲みながら高揚した気持ちを落ち着けている。

「二人の迎えが来るまでは、ここでゆっくりしているということでいいかな。道が混んでいるようだから、到着までは少し時間がかかるだろう」

 ゆったりとした口調で言ったのは、向かいのソファに座っている男性だ。全国系列のテレビ局でプロデューサーを務めていて、仕事でよく世話になっている。

 プロデューサーはにこやかな笑顔で、天馬とその隣の燦飛へ朗らかに尋ねた。天馬ははっとした表情で「そうですね」とうなずく。井川に連絡はしているけれど、少し時間がかかると返事があったのだ。
 燦飛は持っていたティーカップを机へ置いて、「外で待っているより、ここの方が落ち着けますね」とおだやかに答えた。それから、ゆっくり言葉を続ける。

「交通規制が掛かっているみたいですが、白澤監督はちょうど時間がずれていて幸いでした」

 しみじみとした調子で言うのは、先ほど別れた白澤監督のことだ。解散する段になって、迎えの車がいち早く到着していた白澤監督を全員で見送った。
 燦飛が口にした名前に、天馬の心臓がどきんと跳ねる。さっきからふわふわと、夢見心地の気分が抜けない。憧れの人と会話を交わした、という事実が、天馬をずっと熱に浮かされるような気持ちにしている。
 以前燦飛から持ち掛けられた食事会は、とんとん拍子に話が進んだ。あっという間に日程が決まり、場所が押さえられて、ホテルのレストランで夕食をともにすることになったのだ。
 前日の天馬は、そわそわと落ち着きがなくて、「遠足前の子供みたいだね」と燦飛に笑われた。もっとも、二人とも学校行事として遠足に参加した経験はほとんどないのだけれど。

「ああ、本当にその通りだと思う。白澤監督をお待たせする、なんてことにならなくてよかった。やはり、タイミングや運というものを持っているのかもしれない」
「世界の白澤監督ですからね。天が味方しているのかも」

 肩をすくめて燦飛が笑うと、プロデューサーは楽しげに「確かに」とうなずいてから目を細めた。愉快そうな雰囲気を漂わせて言う。

「強運という意味なら、燦飛くんも天馬くんもそうだろう。特に白澤監督は、天馬くんが迷子になって海外プロデューサーと出会って、そこから映画出演につながった、という話に興味を惹かれていたようだ」
「そうみたいですね。興味を持っていただけて、ありがたいです」

 ふわふわとした気持ちはまだ消えない。それでも、頭はきちんと切り替わった。自分に向けて発せられた言葉を受け止めて返していく。ほとんど反射のような行動だった。

「実際、とても運がよかったと思います。偶然の出会いから仕事につながったことはもちろんですが、今でも付き合いが続いていますし」
「来日した時は必ず天馬に会いにくるしね。また一緒に仕事をしたいって熱心なんですよ」

 にこにこと燦飛が言葉を添える通り。迷子をきっかけに天馬を知った海外プロデューサーは、天馬と仕事をともにして以来、熱心なファンになっている。プライベートでのやり取りはもちろん、何かと天馬へオファーをしてくれるのだ。

「天馬くんは人を惹きつけるところがあるからね。その辺りは、白澤監督も感じたんじゃないかな」

 プロデューサーがしみじみと言えば、燦飛はにこにこと嬉しそうにうなずいている。自慢げな雰囲気さえ漂っていて、天馬は何とも言えない表情を浮かべるしかない。もっとも、燦飛の様子に気づいたプロデューサーは、納得したような顔をしていた。

「燦飛くんと天馬くんは、本当にいいコンビだなと今回あらためて思ったよ。天馬くんのトラウマを克服したエピソードは、何回も聞くけど二人らしい話だと思う。白澤監督も熱心に聞いていただろう」

 皇天馬と八高燦飛という役者を、白澤監督はきちんと認識していた。何でも貪欲に自身の作品に取り込む人間だからこそ、各方面にアンテナを張っているのだ。
 あまり名の知られてない役者や作品のことも把握しているのが白澤監督である。ましてや、日本国内で知らない人間はいないだろう役者を知らないわけがない。
 特に天馬は、著名な両親や幼い頃から子役として活躍してきたバックボーンがある。小さな頃から現在まで話題に上り続け、芸能界の一線を走り続けてきたのだ。
 血筋に境遇、華やかなオーラや誠実な性格、映画やドラマに舞台など、媒体を選ばない確かな実力。あらゆる全てを兼ね備えて、日本芸能界のトップスターとなる日は近いと、誰もが思っているのが皇天馬という存在だ。
 白澤監督はそんな天馬に興味を持っていたようで、今回の食事会も乗り気だったという。それを聞いた天馬は、内心で天にも昇る気持ちになっていた。
 ただ、興味の根源は天馬の華やかな一面ではなかった。白澤監督が熱心に尋ねたのは、小学校の学芸会に端を発した天馬のトラウマである。

「白澤監督のことだ。光が強いほど濃くなる影を、天馬くんに見つけたんだと思う」
「――そうですね」

 プロデューサーの言葉に、天馬は重々しくうなずいた。白澤監督が天馬に興味を持ったのは、何もかもを兼ね備えた存在だからではない。順風満帆な人生の中で、確かな挫折の痕跡を見つけたからだと、会話の中で天馬は察した。
 丁寧な物腰から放たれる言葉は、落ち着いていておだやかなのに、奥底に刃をひらめかせるような鋭さがあった。白澤監督は天馬の置かれた状況や行動から状況を正しく推察して、丹念に質問を重ねた。

「一歩間違えれば、オレは舞台に立たないまま役者を続けていたかもしれません。映像以外のオファーを持ってくるな、と言えば通ってしまう環境ですから」

 幸か不幸か、皇天馬は名の知れた役者だった。子役時代から活躍しているし両親の存在もあったから、映像以外の作品に出ない、と言っても恐らく受け入れられただろう。
 あえて舞台に立つ必要はない、と失敗した環境そのものから目を背けることだってできる。どんな役だってつかみ取っていかなければならない、なんて境遇ではなかったのだ。

「もしもそれが許されてしまったらどうなっていたか。きっとオレは、都合の悪いことには耳をふさぐような役者になっていたと思います。自分の世界に閉じこもって、都合のいいことだけを聞いているような」

 トラウマや挫折を克服することは容易ではない。自分自身に向き合って、見たくないものを見なくてはならないからだ。もっと簡単な方に流れてしまえばいい、という誘惑は甘美だろう。それはどんな人間だって変わらないのだけれど。
 天馬の場合、恐らくただの一般人よりも、目を背けてしまえばいいという声は大きい。見たいものをだけを見られる環境が、自分に都合の悪いことは聞かなくてもいい状況が、いくらでも許されているからだ。
 周囲の人間は、天馬が苦しい思いをする必要はないと言う。用意された輝かしい道があるのだからそこを歩けばいい。わざわざ苦しい思いをしなくていい。多くの人はそう言うのだ。

「だけど、幸運なことにそれを許さない人間がいたんですよね」

 苦笑を浮かべて視線を向けるのは、もちろん燦飛だ。恐らく、そういう全てを白澤監督は理解していた。だからこそ天馬に興味を持ったのだ。
 天馬の境遇であれば、トラウマを克服しなくてもそれなりの結果は出せる。実力はちゃんとあるのだ。映像だけに注力するという選択だって悪いものではない。
 だけれど、天馬はトラウマに向き合った。再び舞台に立った。恐ろしいものに、再び挑んだ。それは、天馬の周囲が華やかであればあるほど、いっそう色濃い暗闇だったはずだ。
 強い光と濃い影。天馬の歩んだ道のりが今の形になったのは、燦飛という存在が大きいのだと白澤監督は理解していた。だからこそ、熱心に二人の話を聞いた。

「燦飛がいたから、一緒に何度も舞台に立ってくれたから、オレは板の上に立てるようになった」

 当時のことを頭に浮かべながら、天馬は言った。いつだってよみがえる。昨日のことみたいに思い出せる。
 子役として活躍していたから、小学校の学芸会なんて簡単だと思った。実際、誰より上手く演技はできていたはずだ。
 それなのに、幕が上がって照明に照らされた瞬間、体が動かなくなった。自分を見つめる目が恐ろしくてたまらなかった。呼吸一つ、指先一つ、何も動かすことができなかった。
 結局学芸会はさんざんに終わった。周囲の人はあれこれ慰めてくれて、「天馬くんは映画やドラマの方が向いてるよ」なんて言って、舞台に出なくてもいいんじゃないか、という空気が漂っていた。実際、天馬のオファーは映像作品の方が多かったのだ。
 しかし、そんな中で「だめだよ」と言ったのが燦飛だった。当時、すでに皇事務所で子役として活動を始めていた。何度か天馬と共演も果たしていた燦飛は、当たり前のように「舞台に立たなくちゃだめだよ」と言った。
 事務所で顔を合わせたとたん、天馬に向かってきっぱり告げたのだ。
 燦飛に失敗がバレていることが悔しくて恥ずかしくて、天馬の顔は真っ赤に染まった。しかし、燦飛は一切気にすることなく、いたって自然な顔で「二人芝居をしよう」と天馬を誘った。
 それから燦飛の行動は早かった。恐らく大人たちを巻き込んだのだろう。最初は事務所関係者の前で芝居をしようと、あっという間に全てをセッティングした。
 日程はもちろん、小さな会場だって押さえたのだ。最終的な目標は、学校でのリベンジだよ、という顔は当然のことを語る素振りだった。
 簡単な二人芝居用の脚本を、燦飛は調達してきた。セットは大して必要ではない。二人とも演技力はしっかりあったから、あまり大がかりな内容ではなくても充分芝居として成立した。実際、練習では想像以上に上手く行ったのだ。
 しかし、そんなに簡単に行くわけがない、と天馬が思った通り。
 練習での芝居が嘘のように、二度目の舞台も失敗した。しかし燦飛は諦めない。二回目がだめなら三回目。三回目がだめなら四回目。何回だって舞台に立てば、いつか成功するよ、と言って諦めずに何度も二人芝居を続けた。
 結果として、燦飛の言葉は叶った。繰り返しの挑戦によって、事務所関係者の前で舞台を成功させる。
 そこから、少しずつ観客を増やしていき、最終的に学校の出し物の一環として見事に芝居を成功させることができたのだ。子役だけの二人芝居として、小さいながらマスコミに報じられるくらいの成功だった。

「俺は大したことをしてないよ。全ては天馬の努力の結果だろう。あくまで天馬のサポートをしただけだし、天馬を助けるのは俺にとって当然のことだから」

 天馬の言葉に、燦飛はあっさり答えた。これが本当に心からの言葉であることを天馬は知っている。特別なことをしたなんて全く思っていないのだ。

「お前はいつもそう言う……。感謝くらいは受け取れ」
「天馬からの感謝はいくらでも受け取るけど。でも、天馬の面倒見るのは俺の趣味だし」
「だから、他の趣味見つけろって言ってるだろ」

 いつもの軽口を返せば、燦飛はやれやれといった雰囲気で肩をすくめる。「天馬の面倒を見る以上に興味の惹かれる趣味なんてあるわけないだろ」という顔だった。思わず「お前な……」と呆れた表情を浮かべるのは仕方ない。
 そんな二人のやり取りを、プロデューサーは面白そうに眺めていた。
 天馬も燦飛も、芸能界のトップスターと言っていい。天馬は華やかなオーラで、燦飛はミステリアスな雰囲気で、多くのファンを魅了している。芸能人として、洗練された顔を見せていることがほとんどだ。
 ただ、目の前の二人にそんな面影はない。まだ若い青年たちのじゃれあうような姿に、プロデューサーはしみじみとこぼす。

「そうしていると、実の兄弟みたいだね。昔から一緒にいるところを見てるから、よけいそう思うのかもしれないけれど」

 同じ事務所に所属している、活躍のめざましい子役として一緒の仕事は多かった。二人一組での売込みの一環で、バラエティー番組やトーク番組に呼ばれたこともある。
 大人の前とは違う表情を見せるという点も好評で、二人が起用された番組もいくつかあった。二人そろっての海外ロケの密着取材だとか、コンビで課題に挑むバラエティー番組だとか。子供時代の二人が力を合わせて協力して困難に立ち向かう姿は、世間に好意的に受け入れられている。
 おかげで、今でも天馬と燦飛は二人で一組のような扱いをされることが多い。事務所側もそれを意図しているので、必然的にその認識は世間に浸透していくのだ。
 くわえて、燦飛は天馬に対する親愛ぶりを一切隠していない。同じく役者で年齢も近いのだ。ライバル視してもおかしくないというのに、燦飛にその傾向はまったくなかった。大衆向けの演技だと思われる向きもあったものの、長い間の燦飛の行動は充分な答えである。
 天馬が出演する作品は必ず初日に鑑賞し、長い感想をしたためる。連続ドラマでさえこうなので、燦飛のスケジュールは天馬の出演作によって決められている、とまことしやかにささやれていた。
 自分が出演していない舞台でも連日通いつめて楽屋にも出没するし、天馬のSNSにはほぼ全て一番乗りで反応する。自身のファンクラブコンテンツでもラジオでも話題は常に天馬のもので、自分の話題より天馬の話の方が饒舌になるのだ。
 燦飛が天馬の芝居に心酔していることは、誰の目にも明らかだった。そこには、同じ役者への嫉妬心などかけらもない。
 ミステリアスな雰囲気を持つ燦飛は、天馬の芝居を語る時だけ子供のように目を輝かせる。真っ直ぐとした親愛を、尊敬を、限りない慕わしさを欠片も隠すことはない。
 同業者同士のギスギスした雰囲気は一切ないし、ビジネスとしての親密さではないことは、長年の燦飛の行動で充分周知されている。もともと距離は近いし、天馬が大事でかわいくない、といった様子は弟をかわいがる兄のようだ、と評判だった。
 長年の積み重ねで、二人一組の扱いをされることが多い。お互いの前では、いつもと違う顔を見せる。心を許し合っていることは、周囲から見てもよくわかる。そういった諸々から、「兄弟みたい」という感想はいたって自然なものと言えた。

「お互い一人っ子だからちょうどいいかもしれない」

 どこか弾んだ声で燦飛は言って、天馬へ視線を向ける。天馬は「まあな」なんてそっけなく答えたけれど、まんざらでもなかった。
 兄弟というものを天馬は知らないけれど。ここまで二人でいろんなことを経験してきた。自分の人生には確かに燦飛がいて、同じ時間を過ごしてきた。それはきっと、兄弟という関係性に近しいものなのだろう。

「お兄ちゃんって呼んでくれてもいいよ」
「何でだよ」
「別の呼び方のがいい? 兄貴とか?」
「呼び方の問題じゃない」

 言葉は自然と唇から飛び出て、テンポのいい会話が交わされる。プロデューサーは相変わらず面白そうにそれを眺めているし、何でもない話をずっと続けていることもできただろう。
 ただ、天馬は途中で口をつぐんだ。取り出したのは、震えるスマートフォン。着信が来ていたようで、ソファから立ち上がる。プロデューサーに「すみません」と断ってから電話に出た。ソファから距離を取って、落ち着いた調子で言葉を交わしている。
 燦飛はその様子を見つめてから、プロデューサーに向き直った。

「どうやら迎えが来たみたいです。あの電話はマネージャーからのものですね」

 ちらりと目に入った画面には井川の名前があった。天馬を迎えに来るのは井川の仕事だったし、燦飛も同乗する予定だ。プロデューサーは燦飛の言葉にうなずいて、雰囲気を切り替える。

「今日は時間を取ってもらってすまなかったね。白澤監督も大変満足されていたよ」
「こちらこそ、とても貴重な時間を過ごさせていただきました。天馬ともども感謝しています」

 お開きの時間だ、ということを二人は理解している。今日の夜を締めくくる言葉をお互いに向け合うと、ゆっくりソファから立ち上がる。天馬も燦飛も井川の車へ向かわなくてはならないし、プロデューサーはそれを見送るつもりなのだろう。
 今日の食事会において、主となってセッティング行ったのはプロデューサーであり、天馬や燦飛はあくまでゲストという立ち位置だ。

「今日だけではなく、いつも本当にありがたいと思っています。今後もよろしくお願いします」

 言いながら、燦飛は自然な動作で手を差し出した。事実として、目の前の彼はテレビ局でもトップに近い人間だ。彼の言葉一つで多くの番組に影響を与えることができる。芸能活動をしていく上で欠かすことのできない相手であることは違いない。
 プロデューサーは燦飛の意図をすぐ読み取り、差し出された手を握った。その瞬間、燦飛の金色の目がぴかりと光る。プロデューサーの動きが止まった。

(今後も天馬の力添えになるよう、健勝でいてもらわないといけないからね)

 ぎゅ、と握った手に力を込める。呼応するように、動くことのないプロデューサーの体を金色の光が覆って、溶けるように消えていった。

(何かと移動が多い人間だ。事故に遭わないよう、加護を与えよう。力を持った人間は退場されると困るからね)

 目の前のプロデューサーは天馬の力を高く買っている。そういう人間が中枢部にいた方が、天馬の仕事はやりやすくなるだろうし、チャンスも巡ってくる。だからこそ、そんな彼が不慮の事態に見舞われないようにすることにした。
 簡単なことだ。燦飛がそうあれと命じれば、世界は思い通りに動く。これで彼は思いがけないアクシデントを避けることができるだろう。

(まあ、天馬に必要はないだろうけど、念のため)

 天馬の実力なら、燦飛は充分知っている。たとえ目の前のプロデューサーがいなくなったところで、天馬なら実力で全てをねじ伏せて、自分の力でどんな役もつかみ取っていくだろう。わかっていても、保険をかけておくのは悪いことではない、と燦飛は思っている。

(天馬の力は本物だ。俺が何もしなくても、あの輝きは誰からもよく見える)

 燦飛は心底そう思っているから、天馬の芝居に関して自分の力を使ったことはなかった。燦飛が望めば、天馬のトラウマはたちどころに解決する。オーディションなんて全部受かるし、やりたい仕事は必ず天馬が射止めるだろう。
 だけれど、燦飛は天馬の持つものを何よりも尊重したかった。自分の力を混じらせることはしたくなかったし、する必要もなかったのだ。
 天馬なら、全ての望みは自分で叶えることができると知っていたから。結果は当然、予想した通りだ。天馬は燦飛の力を借りることなく、実力でトップへの道をひた走っている。

「――燦飛?」

 通話を終えた天馬が、そっと近づいてきて名前を呼ぶ。燦飛ははっとした表情で、もう一度握った手に力を込めた。途端にプロデューサーが動き出す。彼の中に、今の空白は存在しない。燦飛の力のことは一切認識できないようになっているのだ。

「ああ、もしかして迎えが来たのかな」

 手を放した燦飛が、何でもない顔でそう返せば、天馬がこくりとうなずく。それから、天馬はあらためてプロデューサーに向き直ると今日のお礼を口にする。心からの感謝が如実に表れる生き生きした表情に、「本当に天馬はいい子だな」と燦飛はしみじみ思っていた。