夏と神様 11話




 天馬の出る舞台のチケットをもらった。
 都内の大きな劇場で上演される作品だ。大々的な宣伝も目にしていたし、舞台美術という意味でも興味はあった。何より天馬の出る舞台だ。わくわくとした気持ちで、一成は劇場に向かった。
 作品は十九世紀の欧州を舞台にしたもので、政治的闘争にラブロマンス、妖精や魔物といったファンタジー要素がちりばめられている。天馬は主役ではないものの、物語の要所で鍵を握る貴族令息を演じていた。
 物語はよくできており、大道具から小道具、衣装やメイクなど舞台美術にも気合が入っていた。演出も効果的で、役者たちは誰もが圧倒的な演技を披露している。観客席でそれを受け取る一成は、魅了されたように目の前の舞台を見つめていた。
 心を動かされて、五感の全てに働きかける。舞台観劇自体は、家族とともに何度か出掛けたことがある。だから初めてではなかったのだけれど、想像以上の作品だったこともあり、一成はすっかり舞台上の全てに心を奪われていた。
 中でも、一番輝いていたのは天馬だった。どの役者も自身の役を生きており、熱演というにふさわしい。それでも一成の目には、天馬だけがきらきらとした光をまとっているように見えた。
 他の役者と違って素の状態を知っているから、とか。普段親しいやり取りをしているから、だとか。理由はいくつもあるだろうし、多少のひいき目もあるかもしれないけれど。天馬演じる貴族令息が舞台に現れると、そこだけぱっと光を放つように思えた。
 照明は等しく役者を照らしているし、天馬にだけスポットライトが当たるような演出ではないのに。やさしくておだやかでありながら、芯の部分に強さを持った青年だ。彼が声を発するたび、舞台上を優雅に動くたび、きらきらとした光が降りそそいでいた。
 まばゆいばかりの光を目に焼きつけて、舞台は無事に幕を閉じた。一成は力いっぱいの拍手で心からの感動を伝えたし、今からでもどこかの日程でもう一度チケット取れないかな、なんて考えたのも当然の流れと言える。
 夢見心地のような気分で、今日はいい一日だったな、なんて一成は思うけれど。今日の楽しみはまだ終わってはいなかった。
 一成は劇場出口へ向かっていく観客の流れに逆らって、受付へ向かった。天馬からチケットをもらった時、「時間があれば楽屋に来てくれ」と言われていたからだ。
 一成が受付で名前を告げると、話は通っていたらしい。怪訝な顔をされるなんてことはなく、すんなり楽屋へと案内される。天馬のことを疑っていたわけではないものの、楽屋へ向かう一成は何だかそわそわしてしまう。
 本当に天馬は、一成のことを伝えていてくれた、という事実が嬉しくてくすぐったい。それに、天馬に会える、ということに純粋に胸が高鳴った。

 案内されるまま楽屋につながる扉を通ると、廊下には慌ただしく人が行き交っている。終演後ということで役者もスタッフも、やるべきことが多くあるのだろう。
 そんなところにオレがいるのは場違いじゃないだろうか、と思っていると、案内していたスタッフの足が止まった。何だろう、と視線を動かした一成は思わず体を固くする。

「天馬の楽屋へ行くなら、僕が案内を務めるよ」

 すらりとした体躯に少し長い黒髪、印象的な金色の瞳。数多くのメディアで何度も目にした姿だ。日本国内で知らない者はいない。ミステリアスな雰囲気でファンを魅了する。天馬とは子役時代からの付き合いで、兄弟のようだと評判だ。対になってよく話題に上っている。
 スタッフへ話しかける青年は八高燦飛だった。
 え、本物!?と思っている間に、スタッフとは話がついたらしい。ペコペコお辞儀をすると、その場から走り去ってしまう。廊下に残された一成は、突然現れた燦飛と対面するしかない。

「きみが三好一成くんかな?」

 一歩距離を詰めた燦飛が、おだやかに問いかける。一成は目を白黒させつつ、「はい」とうなずいた。至近距離で見る八高燦飛オーラがすごい、と思いながら。
 燦飛は一成の返答に静かにほほえんだ。「天馬から話を聞いてるよ」と言って、おおよその関係やこれまでのことは把握しているらしい。

「役作りのために協力してくれてありがとう。日本画の制作も順調に進んでるみたいだね。おかげで、天馬の芝居はもっとよくなる。天馬は日々進化を遂げているからね。今日の舞台も、昨日よりずいぶんよくなっていたな」

 満足そうにうなずく燦飛の言葉に、一成はぱっと顔を輝かせる。ついさっき見た舞台の光景が目に焼きついていて、思わず感想が声になっていた。

「テンテンのお芝居、舞台で見るのは初めてだったけど本当にすごかった……! めちゃくちゃきらきらしてて、テンテンだけ別の光が当たってるみたいで!」

 他の役者が劣っているわけではないし、主役の演技は見事だった。それでも、一成の目に一番輝いていたのは天馬だったのだ。
 他の誰より強い光で、どんなものにも負けない輝きを放っていた。舞台での様子を思い浮かべた一成が興奮気味に感想を並べると、燦飛は鷹揚にうなずいた。

「そうだろう。天馬の演技は素晴らしい」

 天馬には天賦の才があると燦飛は思っている。脚本の中にしか存在しない役を、どうやって生きるか。天馬は感覚でそれを理解しているし、それを表現できるだけの力も持っている。両親の影響や環境もあるのだろう。あらゆる全ては、天馬が役者であることの糧になったと言える境遇で生きているのは確かだ。
 くわえて、天馬は貪欲でひたむき、真面目な人間だ。演技に対して一切妥協することなく、自分自身に慢心もせず、いつだって上を目指す。才能だけに溺れるのではなく、類まれなる努力家でもある。

「ずっと近くで見てきたんだ。天馬ほど芝居に真摯で誠実な役者はいない。他の誰もかなわない。天馬は誰からも愛されてしかるべき役者だ」

 絶対の真実を語るような口調で、燦飛は言った。事実、燦飛にとってこれ以上の真実はなかった。世界中のどんな役者も天馬には及ばない。この世界で唯一絶対と言っていい。天馬以上に価値のある役者なんて、この世には存在しないのだ。

「だから、天馬のそばにいることが許されるのは、同じように芝居を愛して、芝居に愛された人間だけだよ」

 落ち着いた声だった。真っ直ぐ一成を見つめる瞳はただ静かで、凪いでいた。熱狂のかけらもない目で一成を見つめると、淡々と言った。

「天馬は選ばれた人間なんだ。ともにあるのも同じように選ばれた人間ないといけないけれど――三好くん、演技の経験は?」

 尋ねられた言葉に、一成は首を振る。当然だ。一成は今までずっと絵の道に邁進してきた。映画や舞台を見たことがないわけではないけれど、自身で演技をした経験は一度もない。
 燦飛は一成の言葉に「そうだろう」とうなずいて、言葉を続けた。しんとした目で、どんな熱もない、冷ややかなまなざしで。断罪する力強さで言い切った。

「きみは、天馬にふさわしくない」

 天馬の隣にいるべきは、血肉の全てを芝居に捧げるような人間だ。決して、芝居もしたことがない一般人ではない。一成は、天馬の隣にいるべき人物ではない。落ち着いた声で、冷淡に告げる。

「きみと天馬は生きている世界がまるで違う。ほんの少し触れ合うだけなら、ちょっとした異文化交流だとでも思えばいい。でも、一瞬で終わりだ。少しすれ違うだけの関係だ。きみもわかっているだろう」

 声を荒げるわけではなくても、さすがに一成も理解する。ともすればおだやかにさえ聞こえるけれど、声の全てには明確な拒絶が宿っている。
 これは忠告だ。燦飛の牽制だ。天馬に近づきすぎるなと、他でもない一成に突きつけられた言葉だ。

「天馬にいろいろなことを教えてくれるのは、ありがたいと思ってる。芝居にも広がりが出る。ただ、妙なことは吹き込まなくていい。きみのせいで悪影響が出ている。よけいなことをしないでくれ」

 金色の瞳が、ひたと一成を見据える。ただ冷たいまなざしは、一成を疎ましく思っているのだとはっきり伝えていた。
 燦飛は言うのだ。天馬と一成は住む世界が違う。天馬の世界にずかずかと踏み入るなと。一成の存在は天馬にとってマイナスだ。遠ざけるのが正しいと。

「庶民の生活なんて、せいぜい話で聞くだけで充分だ。天馬ならそれだけでちゃんと芝居に生かせる。コンビニになんて連れ出さなくていい。外でものを食べるなんて論外だ。スイカ割りがしたいなんて、きみと会わなければ言わなかっただろう。そんなもの、天馬にはふさわしくない。きみのせいで、天馬のイメージが損なわれる」

 一つ一つ告げられる言葉は、静かでありながら吐き捨てるような調子だ。事実として、燦飛は一成との出会いを苦々しく思っているのだろう。明確な表情ではなくても、告げられる言葉で、発せられる言葉で、一成は理解する。
 八高燦飛は、天馬に近づく一成を邪魔な存在だとみなしている。

「天馬ときみは、違う世界に住んでいる。芝居もできないきみは、天馬にふさわしくない。天馬は天馬の世界で生きるんだ。きみと同じ世界じゃない。きみの存在は許されていない」

 淡々とした言葉なのに、やけに強く一成の耳に響いた。どんな言葉を返せばいいのかわからなくて、一成はただ燦飛を見ているしかできなかった。
 事実として、一成は芝居もしたことはないし、天馬とは境遇も何もかもが違っている。偶然が重なって出会っただけで、本来なら交わることもない関係だ。燦飛の言う通り、同じ世界を見ることはできないのだろう。
 だけれど、簡単にうなずきたくなかった。「その通りだ」なんて言いたくなかった。だって認めてしまったら、天馬と一緒にいることを諦めるのと同じだ。
 何を言えばいいかわからない。それでも黙ったままではいたくなくて、口を開いた時だ。

「一成か?」

 聞き慣れた声が飛び込んで、弾かれたように視線を向ける。すると、燦飛の背後から廊下を歩いて天馬がやって来る。衣装はもちろん、メイクなどもすでに落としていてラフな格好をしていた。

「燦飛が廊下で話し込んでるっていうから、珍しいなって思ったら一成だったんだな。でも、なんでお前一成と話してるんだ?」

 知り合いだったのか、なんて言いたげな表情で尋ねると燦飛はにこやかな笑顔を浮かべた。さっきまでの様子とはまるで違う雰囲気で、朗らかに答える。

「天馬がお世話になってる相手だからね。お礼を言ってたんだ」

 燦飛の言葉に、天馬は「そうか」と嬉しそうにうなずいた。どこかうきうきした調子で、「一成のおかげで、いい芝居ができそうなんだ」と告げる。燦飛はにこにこ天馬の言葉を聞いていて、一成は何とも言えない気持ちになる。
 さっきまでとまるで違う態度だ。夢でも見てたのかな、と思ってしまいそうになるけれど、あいにく現実だとわかっている。
 声高に糾弾されたわけでもないし、悪しざまに罵られたわけでもない。それでも、端々から伝わる事実がある。一成は八高燦飛に疎まれている。

「そうだ、燦飛。時間あるなら打ち合わせがしたいって言ってたぞ」

 思い出した、といった調子で口にしたのは今回の舞台の総合演出家の名前だ。次の作品には燦飛が出演するらしい。

「出演しなくても、オレの舞台には必ず来るからな。捕まえやすいからありがたいって言ってたし、しばらくはあっちに顔を出した方がいいんじゃないか」
「俺はあくまで天馬のお芝居を見に来てるんだけどなぁ」
「スタッフ全員、燦飛が来るの前提になってるのに何言ってるんだ」

 呆れたように肩をすくめて天馬が言うと、燦飛は何だか嬉しそうに笑っている。ただ、天馬はすぐ真顔になって「さっさと行った方がいいぞ」と言うので、燦飛は「そうだね」とうなずく。
 離れがたい雰囲気を漂わせていたものの、天馬は容赦がなかった。「あんまり待たせるなよ」という言葉に、「それじゃあ、またあとで」と告げて去っていった。
 その背中を見送る一成は、燦飛と天馬の親密さを目の当たりにして何とも言えない気持ちになっていた。
 二人の仲の良さは、メディアで多く取り上げられているから知っている。お互いの出演作品は必ず見に行くし、特に燦飛は天馬の舞台にはほとんど毎日顔を出す。
 燦飛のSNSでは、本人は出演してないのに、連日舞台裏の写真が上がると評判だ。スタッフの更新がメインの天馬のSNSも、燦飛との写真が一番多い。
 そんな風に、天馬と最も親しい距離にいる相手が燦飛だ。その燦飛に疎まれている、という事実に一成の胸は暗くよどんだ。何より、燦飛に告げられた言葉が重くのしかかる。
 同じ世界を見られない。違う世界に生きている。一成は天馬にふさわしくない人間だ。一緒にいることは間違っている。断罪のような言葉は、天馬と燦飛の親密ぶりを知れば知るほど、真実のように思えてしまった。
 他の誰でもない。ずっと近くにいた人からの言葉なのだ。オレはテンテンと一緒にいちゃいけないんじゃないか、なんて思ってしまうのだ。

「見に来てくれてありがとな。忙しくて無理かもしれないと思ってたから嬉しい」

 オレの楽屋はこっちだ、という天馬に先導されて廊下を歩いていると、不意にそう告げられた。はにかむ笑みを浮かべていて、心底嬉しそうに言う。一成は慌てたように言葉を返す。

「テンテンの舞台とか絶対見たいに決まってるじゃん! めっちゃよかったし、すっげー楽しかった! 話とか美術とかも好きだし、テンテンは一番かっこよかったよん!」

 心からの言葉を告げると、天馬は嬉しそうに「そうか」と答える。弾んだ声をしていて、一成が舞台を楽しんでくれた、という事実を噛みしめているようだ。その反応が嬉しくて、どの場面の天馬がよかったか、と一成は詳細を語った。

「お前本当よく見てるな……というか、よく覚えてるな。初めて見たんだろ?」
「初めてだけど、テンテンめっちゃよかったもん。テンテンだけ、きらきらしててさ」

 嘘偽りない本音だけれど、重くなりすぎないよう軽口の響きで言う。天馬は「何だそれ」なんて笑って、満足そうな雰囲気を漂わせている。そんな風に天馬が笑ってくれて、喜んでくれてよかった、と一成は思う。
 同じように芝居の世界を生きられない自分でも、テンテンを喜ばせることができた、という事実にほっとする。

「ああ、ここがオレの楽屋だ。オレしかいないから、適当にくつろいでくれ」

 言いながら通された楽屋は広々としていた。大きな鏡が設置され、ソファの上には天馬の私物らしい鞄が置かれている。ソファとセットになっているテーブルの上には、お菓子の箱がいくつも積まれていて一成はわずかに眉を下げる。

「オレも差し入れとか持ってきたらよかったんだけど……邪魔になっちゃうかな~って思って」

 せっかく楽屋まで招いてくれたのだ。何か手土産でも持って行こうかと思ったものの、邪魔になるかもしれない、と結局手ぶらで訪れた。
 しかし、お菓子の箱を目にすると「やっぱり持ってくればよかった」という気持ちになった。このお菓子は恐らく差し入れの類だろうと予想はつく。手土産の一つも持ってこられないなんて、マナーがなっていないと幻滅されるかも、と一成はしょんぼりする。
 ただ、それを聞く天馬は心底意外そうな表情を浮かべていた。手土産なんてあってもなくても構わないと思っていたからだ。
 なので、素直に「別にそんなこと気にしなくていいが」と答える。それから少しだけ考えたあと、ニヤリと笑みを浮かべて続けた。

「まあ、一成が気にするっていうなら、一緒にコンビニに寄ってくれ。一成おすすめの新商品が知りたい」

 衣装もメイクもすでにオフしている。関係者に挨拶をしたあとは、早々に劇場を辞す予定だ。劇場の近くにはコンビニもあるから、帰宅する一成と寄り道がしたい、と天馬は言う。

「コンビニってすごいよな。新商品開発に余念がないし、いろんなところとコラボもしてる。試すのが楽しいし、今度はどんなものがあるんだろうってわくわくする。一成はオレも知らない情報知ってるしな」

 そう言う天馬は心底うきうきした表情を浮かべていた。限定のアイスフレーバーがあるだとか、フライドポテトの新しい味が出たんだと言う声は完全に弾んでいた。

「全国どこにでもあるっていうのもいい。この前一成と行ったなって思い出せるし、一成と食べたものを一人の時も買えると、何か特別な気分になる」

 白い歯をこぼした天馬は、はにかんでそんなことを言う。一成は、大きな目で真っ直ぐ天馬を見つめた。
 だって、天馬があんまり嬉しそうで。プライベートでは初めて、コンビニへ出掛けた。限定商品を前にして、きらきらと顔を輝かせていた。お気に入りのチキンを食べる横顔。「これ新商品だねん」と言えば、感心した素振りで手に取る。「一成のも美味しそうだな」なんてしみじみ言う。
 二人で並んでベンチに腰掛けて、何でもない話をしていた。美味しいものも、いまいちなものも、二人でわいわい言いながら食べた。
 ささやかな瞬間で、天馬からすれば何でもない時間と言っていいはずだ。体験しなくたってきっと構わないような。すぐに忘れてしまう、どんな意味もない時間だと言ったっていい。
 だって天馬は、日本国内で知らない者はいない存在で、多くの人の憧れだ。庶民的な生活とはかけ離れた、雲の上の住人みたいな暮らしができる。まるで、その辺りの学生みたいなことをするなんて、きっと天馬にはふさわしくない。
 燦飛の言葉間違いではないのだろうと一成は思っていた。だけど、天馬が笑っている。嬉しそうにきらきらとした笑顔で、一成に連なる思い出を、コンビニへ一緒に出掛けたささやかな時間を抱きしめるみたいに言うのだ。楽しそうな表情で、一成と寄り道がしたいなんて言うのだ。
 だから、それなら、と一成は思う。燦飛の言葉はしかと覚えている。確かに一成と天馬の生きる世界は違うのだろう。だけれど、それでも。

「――テンテン、スイカ割りやるなら、やっぱり特大のやつ?」

 せっかくのスイカ割りなら、大きなものを用意した方がインパクトはあるだろう。そういう意味で問いかければ、天馬は楽しそうに答える。

「そうだな。大きくて甘い品種がいいと思う。スイカって結構いろんな品種あるんだな」

 うきうきした調子で言う天馬は、スイカ割りにはどんな品種がいいかと調べたらしい。きらきらとしたまばゆい笑顔に、一成の胸はぎゅっと詰まる。
 燦飛の言葉は、きっと間違いではない。確かに住む世界は違っていて、偶然が重ならなければきっと出会わなかった。一成が天馬とともにいることだってふさわしくないのかもしれない。
 それでも天馬は笑ってくれる。一成とのささやかな時間を、まるでとっておきの宝物みたいに抱きしめる。未来の話をまぶしいくらいの笑顔で話してくれる。
 その事実に、一成は静かに思った。他の誰かの言葉より確かなものは一つだけ。揺らいでも不安になっても、たった一つこれだけは確かなこと。オレは目の前の、テンテンの笑顔を信じるんだ。