夏と神様 20話
念のため、スマートフォンのナビを起動させた。とはいっても、一本道なので迷う余地はない。ときどき確認はするとしても、あまり意味はなかった。この道に沿って進んでいけば駅に着くのだから。
アスファルトの道路を、二人は肩を並べて歩く。車が通る気配はない。じわじわとした暑さの中、木陰の下を選んで歩く。ちらちらと揺れる木漏れ日を受けながら、何でもない話をしている。
「駅まで直線でよかったよねん。テンテンも安心!」
「どういう意味だよ」
「テンテン方向音痴じゃん」
「違う。思ったところに辿り着かないだけだ」
「たぶんそれ方向音痴って言うんだよね~?」
テンポのいい会話を交わして、水分補給をしながら歩く。
平地に比べれば体感温度は低く感じられるものの、涼しいわけではないのだ。ずっと歩いていれば、次第に体温も上がってくる。じわじわと汗が浮かんで流れていく。ジリジリと鳴くセミの声が、よけいに気温を上げるように感じられた。
「暑すぎる」
「マジそれな」
取り出したタオルで汗をぬぐった天馬が言えば、一成が心からの同意を返した。熱の塊に体中を覆われるような、外を歩くことが自殺行為につながるような暑さなら知っている。それに比べれば、至って普通の単なる夏だと言うことはできた。
ただ、暑いものは暑いのだ。尋常ではない暑さよりマシなだけで、別に涼しいわけではない。だらだらと汗が流れる。
「日陰あるだけマシだけどな」
「ね~。直射日光だったらやばいし、クーラーのすごさ実感する」
スポーツドリンクに口をつけて、一成がしみじみと言う。天馬も自身のペットボトルを傾けた。すっかりぬるくなっていても、水分を欲した体には充分だった。
「最近、あんまり外とか出ないから新鮮っていえば新鮮かも。夏だな~って感じ!」
「まあ、夏だからな」
「こういう空気とかを絵にしたいな~って思うよねん」
言った一成は、周囲を見渡した。
頭上を覆う緑の屋根。真っ直ぐ伸びるアスファルトの道路。間隔をあけて立つ電柱とそれぞれをつなぐ電線。道の先には、立派な入道雲と抜けるような青空。全てを包むのは夏らしい日差しと気温だ。
「何かさ、夏っぽくてエモいっていうか、映画とかのワンシーンっぽくね」
一本道を指し示して、一成は天馬へ尋ねた。
車も通らず、自分たち以外に人はいない。両脇には押し寄せるような緑があり、道路も埋もれてしまいそうだ。積み上がるような雲は立体的で、青空は光を宿したようにまばゆい。それらの光景を、夏の太陽が余すところなく照らしていた。
「確かにこういうシーンありそうだよな。まあ、カメラ的には歩いてるオレたちを後ろから撮影してるってところか」
もしもこの場面を撮影するなら、ということを想像して天馬は答える。一成は「なる~」とうなずいて、「人のいない風景もいいけど、遠くに人影が見えるっていう方が物語性ある感じでいいよねん」と楽しそうに言った。自分が絵を描くなら、と想像しているのかもしれない。
「入道雲と青空を背景にして、山の中の道を歩く二人って、めっちゃ夏のワンシーンって感じ! むしろ映画とか関係なくても、そういうショット撮りたくなりそう!」
「ああ、そういうシーンは、休憩時間にカメラ回してたりはするな。ただ、季節通りに撮影できる方が珍しいから、作品には使えないが」
今までの撮影を思い出して、天馬は答える。見事な入道雲だとか虹が出たとか、そういう場面になるとすぐカメラを回すのはカメラマンらしい行動だ。どんな場面も取り逃がしたくないのだろう。もっとも、作中で使用できるかどうかは別問題である。
天馬は今までの撮影を思い出して、遠い目をしてつぶやいた。
「真夏に真冬のシーン撮るとか、ただでさえ暑いのによけいに暑いんだよな……」
「外めっちゃ暑いのに防寒しないといけないやつ?」
「ああ。室内ならまだしも、ロケだと困る。汗かくなって言われる」
映画やドラマは、必ずしも季節通りに撮影できるとは限らない。真夏のシーンを春や秋に撮るならまだしも、極寒の中半袖で演技をしなくてはならない、なんてことはザラだ。一成は天馬の言葉に「あ~」とうなずく。
「室内ならクーラー効かせられるけど、ロケだとそうも行かないもんね」
「光の加減とかは考慮してるし、ある程度は編集でどうにかできるが、役者はどうにもならないからな。保冷剤とかは活用するけど限度はある。だから、夏に夏のシーン撮れるのはありがたかった」
天馬とてプロなので、まるで違う季節だったとしても相応の芝居はできる。どんなに暑くても寒さに凍える演技を披露するからプロの役者だし、それは天馬のプライドでもある。とはいえ、季節にのっとったロケをありがたいと思うのも事実だった。
「暑すぎてバテても違和感ないからな。まあ、それでも暑すぎる現場は苦労するが」
「ちなみに、今こことどっちがマシ?」
熱さで上気した頬を光らせて、一成が尋ねる。天馬が今まで様々なロケを体験したことはよくわかっている。だから、それと比較したら今とどっちがいいか?なんて、軽口で尋ねる。
実際の真偽は重要でなく、単なるじゃれ合いみたいな会話だ。天馬もそれは充分わかっているので、笑いながら答えた。
「こっちの方がまだ涼しい気がする」
「マ!? テンテン、暑すぎておかしくなってない!?」
からかう素振りで言うのは、どう考えても暑すぎる現実をわかっているからだ。緑で遮られるとしても太陽の光は充分強いし、取り巻く空気は確かな熱をはらむ。歩き通しということもあって、額や鼻には玉のような汗が浮かぶし、首や背中を流れていく。
そんな中で涼しいという言葉が出てくるなんて、というからかいだ。
「比較の問題だろ。普通に暑い」
「だよね、よかった~」
天馬の答えに一成は楽しそうに笑って、天馬もつられたように笑みを浮かべる。直射日光を浴びるとか、熱気の中で運動を続けるだとか、そういう撮影に比べればマシなだけで、暑いことに変わりはないのだ。
そんな中、一本道をひたすら歩いている、なんてどう考えても賢い選択ではないことも充分わかっている。ただ、そんな現実が何だか面白くなってきていることも事実だった。
「暑い」
「暑すぎ」
じわじわと降るセミの声を聞きながら、木陰を踏んで歩く。ゆるやかに蛇行する一本道を、まばゆい青空を見ながら進む。
熱気は体にまとわりついて、太陽の日差しは緑越しでも容赦がない。だらだら汗が流れていく。ささやかな話をする間も、決まり文句のように「暑い」と言い合っていて、それが何だか面白かった。
「どれくらい歩いた?」
「十分ちょいかな~」
「車で十分だろ。まだ道は遠いな……」
道の先に、駅の気配はみじんもない。車も一向に通らないし、アスファルトの道路に電柱と電線以外、人工物が見当たらないのだ。プラネタリウムまでバスに揺られている間も、人や車は見かけなかった。まるで二人しか存在しないような場所で、肩を並べて歩いている。
駅まではまだ遠いのだ。しばらくはこのまま、夏の中を二人で歩く時間が続くのだろう。
「駅着いたらオレ死んでそう。体力の限界に挑戦的な」
「一成は体力がないんだ。もっと鍛えた方がいい」
「オレは疲れないみたいなこと言ってるけど、さすがに疲れるでしょ!? この暑さだよ!?」
聞き捨てならない、といった調子で一成が言う。天馬は肩をすくめてから、ゆっくり答える。
「さすがにこの暑さだし、距離もあるからな。疲れるとは思うぞ」
「だよね!? 絶対疲れるしめっちゃしんどい」
愚痴のような言葉だ。こんな暑さの中、歩いてなんかいられないと今の状況を嘆くようにも聞こえる。
けれど、一成は楽しそうに笑っている。天馬だって面白そうに一成の言葉を受け止めて答えていた。だって二人ともわかっている。
きっと馬鹿なことをしている。もっと賢い選択もあっただろう。電話もお金もあるのだから、タクシーでも呼べばいいのだ。それでも、歩き出すことを選んでしまった。二人並んで、駅まで行こうと決めてしまった。
結局の所、きっと二人で歩きたかったのだ。他の誰でもない人と二人きりで、夏の中をどこまでだって。
だから、今ここでこうして、二人そろって歩いている現実が楽しかった。ささやかな会話も、くだらないやり取りも。真夏の熱さとまばゆい光に染められる何もかもに、心が躍って仕方なかった。
ときおりナビで道を確認しながら、一本道を進んでいく。旺盛な緑の下、木陰を選んで歩いていると、道の様子が変わった。左手の木々が次第にまばらになっていく。水の匂いがする。頭上の緑が減っていき、次第に空が広くなる。
そのまま一本道を進んでいくと、左手に川が現れた。
道路と並行して流れており、川幅は広い。河川敷部分は砂利の部分もあれば、青々とした緑や大きな木が生えている箇所もあった。水は澄んでおり、清らかに流れている。
「何か風とか涼しい気がする!」
「空も開けてるしな」
今まで両脇をうっそうとした木々に囲まれていたのだ。右手にはまだ木があるとはいえ、川が出現したことで、空間が一気に広がったような気がした。
青い空はどこまで澄み渡り、白い雲がまばゆく光る。吹く風にも水の気配が混じっている。来る時も川を見掛けた記憶はあったので、辿っている道は正しいのだろう。
「川めっちゃきれいだね」
「ああ、底の方まで見えそうだ」
足を止めてつぶやく一成の言葉に、天馬もうなずいた。二人はそろって立ち止まり、眼下の川を眺める。
山奥の清流というわけでもないのに、ずいぶん澄んでいるように思えた。川べり近くまで大きな木が生えている場所もあり、普段目にしている川とは雰囲気もだいぶ違っていた。
都内で見る川はもっと小さいし、ここまで澄み切ってはいない。そんな風景も好ましいとは思うし、優劣があるわけではない。ただ、あまりにも違っているという事実は、遠い所に来たのだ、とあらためて思わされる。
「木がないとやっぱ暑いねん!」
川から周囲へ視線を向けた一成が、明るい声で言う。
今までは両脇から押し寄せるような緑のおかげで、直射日光は遮られていた。しかし、今左手は開けて川が広がっているおかげで、木は映えていない。右手に木々はあるものの、垂直に育つ樹種が多いようであまり木陰はできていなかった。
まっさらな光が全てを染めるように、何もかもを照らし出している。夏の日差しが本領を発揮するのだと言わんばかりに、辺りに光を散らしている。
「まあ、ずっとこのままってわけじゃないだろ」
道の先を見つめた天馬は答える。川はゆるやかに蛇行していて、ずっと道路と並行に流れているわけではない。バスに揺られている間の記憶でそれはわかっていた。恐らく、またどこかで道とは離れていく。そうなれば、再び木陰ができるはずだった。
一度通った道なので、一成も概要はわかっているのだろう。いずれまた、緑の道に入ることはここまでの記憶から判断はできる。
「そだねん」と笑うと、楽しそうに一歩踏み出した。今この瞬間の光を全身で浴びるような、軽やかなステップ。天馬も隣に並んで、二人はそろって歩き出す。
「この風景とか、デザイン映えしそうじゃね!?」
うきうきした調子で言う一成は、どの角度で風景を切り取ればいいかなんて話をしている。スマートフォンを取り出して楽しそうに写真を撮って、この辺に文字置いたらエモくね!?なんて天馬に話しかける。
「あまり派手じゃない、淡々とした映画とか小品っぽい感じだな」
「だよねん。でも、あえてこれでサスペンスちっくにしても面白いかも!?」
スマートフォンをしまった一成は、どんなデザインがいいのかと楽しそうにアイデアを出していく。広がる青空と流れる川。青を基調とした風景にところどころに緑が混じってあざやかな風景を描き出す。そんな写真をデザインするなら、と一成が語る声を天馬は面白そうに聞いている。
「コメディっぽくするのもやってみたいよねん。雰囲気全然違うから、あえて挑戦したい的な!」
写真そのものは、どちらかといえば抒情的作品が似合いそうな雰囲気である。ひと夏の思い出といった刹那的な瞬間や、遠い思い出をなぞるノスタルジーを切り取るような。
だからこそ、あえてコメディにするなら、と一成は考える。難しいと思う題材を選んで、挑戦することに楽しみを見出す一成らしい言葉だ。
「てか、テンテンのコメディのフライヤーデザイン考えるのも楽しそう。架空の作品想像して、実際に作ってみんの」
「一成ならやりかねないな……」
イチから夏休みの宿題を作る人間である。説得力がありすぎる、と言えば一成はけらけらと笑った。
「やっぱコメディ劇かな~。テンテンの面白いところ、生で見るのが絶対一番だし!」
映画やドラマだって、きっと天馬はコメディらしい芝居をして見る人を楽しませてくれるだろう。ただ、一成の頭に浮かぶのは舞台の上で生き生きとコメディを演じる天馬だった。
カメラを隔てることなく、同じ空間で天馬の芝居を全身で感じる。息遣いも届く声も、何もかもを直接受け取る。舞台で見るコメディが、一番天馬の魅力を感じられる気がしたのだ。
「オレ、あんまりコメディ劇って見たことないからちょっと勉強不足かもだけど。作るなら、テンテン主演のコメディ劇のフライヤーがいいな~」
「どうせなら、お前も出ればいいんじゃないか。そしたらコメディ劇がどんなものかはわかるだろ。オレと漫才できるくらいなんだし、案外素質はあるかもしれないぞ」
からかう素振りで言うものの、あながち冗談ではなかった。
天馬は一成と接していく中で、どんな相手でも合わせられる柔軟性や、頭の回転の速さ、機転を利かせることが上手いといった性質を感じ取っていた。
くわえて、一成は何かを創作することを好む人間だ。芝居という世界を形作ることに向いているだろうし、一成の持つ性質は舞台でも武器になると思ったのだ。
「マ!? テンテンに言われるとちょっとやる気になっちゃうんだけど!」
「やってみればいい。一成の演技が見てみたいっていうのもあるし、同じ舞台にも出てみたいしな」
「テンテンと出る舞台か~。やっぱりコメディだよねん。どんなのがいい?」
川からの風を受けて、ふわりと一成の髪が揺れる。あざやかな金髪が、光を受けてきらきらとまたたく。天馬はまばゆさに目を細めながら、「そうだな」と答える。
「夏らしいコメディがいい。一緒に出る舞台だ。どうせなら、目いっぱい夏を楽しむ舞台がいい」
「なる~! 夏っぽいコメディってどんなかな。やっぱり暑いところが舞台? 南国のバカンス? それとも砂漠とか?」
天馬の言葉を受けた一成は、くるくると表情を変えながら舞台を考える。暑い場所のイメージを広げて「ラクダ乗るとかどう!?」と楽しそうだ。天馬も弾んだ声で答える。
「舞台にラクダを登場させるのは難しいだろうが、砂漠はいいかもな。異国情緒があって面白い」
「わかる~。砂漠って何か不思議な魅力があるっていうか、物語の舞台にもなるしね!」
「シンドバッドの冒険とか……アラビアンナイトとか好きだったな」
そういえば、といった素振りで天馬がつぶやく。有名な古典ということで、目を通しているらしい。一成も記憶の中からアラジンやアリババの冒険活劇を思い出す。
「魔法のランプとか魔法の呪文とかテンアゲだったよねん」
「ああ。シェヘラザードが語る物語っていうもの、面白い構成だなって思った」
小さな頃に初めて読んだ時、こんな作り方の物語があるのか、と新鮮に思ったのだという。それまで天馬は、物語は一つしかないと思っていた。しかし、アラビアンナイトは物語の中に物語が展開する。
こんな角度からも芝居にアプローチできるんじゃないか、とわくわくしたんだ、と懐かしむように語る。その横顔は、降りそそぐ光に照らされてきらきらと輝いている。
芝居への親愛があふれたまなざしに、一成は目を細める。
開けた空から照りつける日差しにも負けないまばゆさ。太陽よりもっと強く、天馬の胸に宿る情熱はいつだって燃え盛っているのだ。そんな芝居という場所に、一成を招き入れようとしてくれた。同じ舞台に出てみたいと言ってくれた。その事実は、一成の胸をどうしようもなく熱くする。
もっと天馬と芝居の話がしたい。突き動かされるような気持ちで、一成は言葉を並べる。
「あとはさ、花火が似合う舞台とか――そうだ、スポーツとかもよくね? マリンスポーツもいいし、夏っていったら野球も合うかも!」
「ああ、青空と白球は定番だよな。お前、野球経験あるのか」
「ナッシング! テンテンは?」
「ないな。今まで野球部の役もやったことがない」
「じゃあ、野球経験者連れてこなくちゃじゃね!? 特訓してもらお!」
面白そうに言った一成は、野球の舞台に立つ自分たちを思い描いて言葉を続けた。
さすがに二人だけで野球は無理だから、もっと人数要るよね。野球経験者が中心になった方が良さそうだよな。じゃあ、その人に野球教えてもらって、みんなでキャッチボール練習とか!
天馬もくわわって、同じ舞台に出ている未来を語り合う。まるで知っているみたいなあざやかさで、二人の脳裏にはともに板の上に立つ姿が描かれている。
夏の似合うコメディ劇。はつらつとした空気で、軽やか言葉が飛び交う。ちょっとばかりのアクシデントだって、その場ならではのアドリブに変えていく。当意即妙の受け答えで、見ている人たちをとびきりの笑顔にしていく。そんな舞台に立つ未来が、確かに待っているように思えた。
「一緒に舞台立つとか、マジでめっちゃ面白そう!」
「どんな舞台になるのか、楽しみだな」
紅潮した頬で一成が言えば、天馬も明るいまなざしでうなずく。
太陽の光は容赦なく照りつけて、じりじりと体をあぶっていく。川からの風に水の気配はあっても、涼しいとは言い難い。もう少し先まで歩けば木陰に入るものの、今の二人は夏の日差しを直に受けるしかない。
順調に体温は上昇して、汗はだらだら流れていく。この気温を歩き通しなのだ。順調に体力は削られて、疲れだって見え始めている。
もう嫌だと言ってもおかしくはない。しんどいし、疲れるし、暑いし、文句を言いたいことだらけの環境だ。それでも。
「初日とか絶対緊張するけど、絶対楽しいよねん」
「ああ。千秋楽には最高の景色が見られるぞ」
一成の声はどこまでも弾んでいたし、答える天馬もまばゆい笑みを浮かべている。だって、思い描く未来はどこまでも輝いているのだ。今この瞬間の何もかが、光を放つみたいに。
辺り全てに光が散る。太陽が全てを明るく照らし出す風景の中を、二人そろって歩いている。
ささやかな話も、何でもない言葉も、笑みが浮かんで仕方ない。取り巻く全てが熱と光を放つような場所を二人で歩いている。ただそれだけで、心はどうにも浮き立っている。
何もかもがきらきらと輝いている。それはきっと、夏のせいだけではない。隣にいるひと。他の誰でもない、たった一人と一緒に歩いているからだ。
「テンテン主演のコメディ舞台で、オレがフライヤー作るとか最強じゃん!」
きらきらと一成が笑っている。光の全てみたいな笑顔に、天馬の胸はどうしようもなく弾んだ。目に映るものがみんな輝いて見えるのは。これから先の未来まで、光があふれる理由は。一成がいるからだ。
「一成も一緒に舞台へ立って、千秋楽を迎えるのが楽しみだ」
力強く言い切った天馬の笑顔がまぶしい。どんな太陽も負けない。オレの知ってる太陽はテンテンになっちゃうかも、なんて本気で思ってしまうくらい。これから先の未来だって、この光が照らしていく。テンテンがいたら、みんなきらきら輝く。
光の中を二人は並んで歩いていく。声にならずとも、ただ心で理解していた。
目に映るもの。思い描く未来。全てが輝いて、どうしようもなく胸が弾む。全ての光を受け止めたように笑う、目の前のひと。降るように思う。心の全てで理解する。
暑くて仕方なくて、何もない道をただ真っ直ぐ歩いていく。疲れるししんどいのに、胸が弾んでしまうのだ。未来を思い描くだけで、何もかもが輝いて見えるのだ。隣にきみがいる、ただそれだけで。どんな出来事だってきっと笑っていられる。叫びたいほどの衝動で、胸を満たす幸福で、ただ真っ直ぐと思う。
きっとオレたち、どんな道だって。どんなに苦しくてしんどくて、困難な道だって。二人ならどこまでだって歩いていける!